第10話 実はめっちゃ偉かった。

 唐突だが、この国における騎士の偉さを語ろうと思う。騎士、ここでの騎士とは国軍や各貴族が正式に保有する騎士団等軍隊においての騎士だ。野良の騎士はピンキリだから放っておく。

 国軍で言えば騎士は士官だ。上級指揮官と呼ばれる地位になると軍閥と呼ばれる武闘派貴族がのさばっているが、それより下は基本的に軍閥貴族の何処かに加入している騎士達が士官として存在している。

 で、この騎士の中でも更に特異なのが近衛騎士。単純な軍隊的な評価で言うところの少佐とか中佐クラスの偉い人らしい。


「なので、お供も付けずにフラフラと出歩かれたり、王立軍の施設に来られると対応に困るのです」


 私の目の前には若い騎士。私よりは歳食ってるがまだ20代だ。


「へー私ってそんな偉かったんだ。

 ミュルッケン団長達は?」

「将官クラスですよ。

 噂に聞けば貴女、第三から第五までの近衛騎士団長を一撃で破ったとか」

「ええ、まぁ、はぁ……」


 エウリュアーレ殿下の居る城にアポ無しで突撃したら普通に応接間で待ってろと言われた。殿下は元帥だからクッソ忙しいらしい。


「そんなふうには見えないですね」

「よく言われますが、まぁ、その考えが仇になってる訳でして。

 強い人は、一切の手加減とか無しで問答無用でぶった斬って来るので」


 楽です。とは言わない。

 話が途切れ、お互いの間に沈黙が訪れる。私は別に辛くないが、向こうはそうじゃないらしい。

 ソワソワしながら何処か落ち着かない様子で視線が動いている。

 温くなった紅茶を手に取り、一口。変な味がする。具体的に言うと甘味を抜いたリポビダンDを水で薄めてあっためた感じ。

 一言で言うと不味い。


「ふむ。何か変な味しません?」

「薬草茶です。どうですか?」


 先程の様子とは打って変わって前に詰めてきた。何だコイツ?


「どうって、変な味しますけど」

「んー一応、滋養強壮や疲労回復の効果があるんですけど」

「へー、まぁ、普通の紅茶でいいです。

 別に疲れてないですし」


 そうですか、と非常に残念そうな女騎士。自分の薬草茶をしょんぼりと飲み出した。


「失礼します」


 扉がノックされて何やら別の騎士がやって来た。一人は教会系等の聖騎士みたいな純白な感じでもう一人は真っ黒な鎧を纏っていた。

 顔は瓜二つ。


「アンタが近衛から来たって言う腕自慢の新人?」


 黒い方が開口一番私に挑発めいた視線を飛ばしてきた。なんじゃ?


「え?いや、違いますけど?」


 腕を自慢したことは一度もない。


「ですが、近衛騎士団長の方々を火かき棒のみで倒したと聞きましたが?」


 白い方がハテと首を傾げた。そんな事実はない。


「いや、火かき棒でなんか倒してないですよ。

 倒したのは普通の近衛騎士で、団長達は普通に剣を使いました」


 誰だそんな嘘を言ったのは?

 

「それで、そんな剣の腕があるのに何故銃を調べてるのかしら?」

「何でって……命令だから?

 私、近衛騎士。上司、女王。女王やれ言う、私従う」


 OK?と告げると黒い方に睨まれた。何だよー?


「本当の理由を言いなさい」


 黒い方が凄んでくる。本当も何も、それが事実だ。


「まぁ、良いではありませんか。

 エウリュアーレ殿下に何かするようなら私たちで止めれば良い訳ですし」


 しばらく何も答えずに居ると白い方が柏手を打ち注目を寄せ、言った。何だ?何を勘違いしてるんだ?

 そんな感じで話していると扉がバンと開いてエウリュアーレ殿下が現れた。


「申し訳ないな!

 色々と会議だ何だと立て込んでいてね。ステン姉様は何と?」

「私に銃士隊のすべての権限を与えて、なんか上手くやってこいと言われました。

 なので、まぁ、そんな感じでよろしくですねー」


 答えるとエウリュアーレ殿下は呆れた顔で適当過ぎない?と黒白を見た。黒白も呆れた顔をしていた。


「取り敢えず、銃の説明を姉様にどうやってしたの?」

「謁見の間の入口に銃士隊立たせて、女王陛下を狙いました。この距離からでも陛下を殺せますって」


 エウリュアーレ殿下はは?と顔が凍りついた。


「それで各団長達に突っ込んで来てもらって、何回撃てたのかを説明して銃はこんなに凄いよーって軽く説明したら適当になんかやれって言われました。

 あと、騎士団員達にはドラクロア副団長を的にして一回射殺しました。で、撃たれるとこーなるよーみたいな、展示しました。

 ドラクロア副団長のおっぱいめっちゃデカくて柔らかかったです」


 もう一回揉みたい。


「え、何でそんな事を?」

「だって、1日3回死ねるって言うからじゃあ、一回くらい死んでも大丈夫だろ?って思ったのと本人が防いでやるって息巻いてたので」


 ぶち殺してやったぜ、とサムズアップする。


「あ、そうなの。

 取り敢えず、君は明日から私の周りにいなさい。私の近くにいた方が色々と貴女の欲しい情報も得られるでしょう」


 エウリュアーレ殿下は何やら頷きながらそう言った。


「はぁ、まぁ、よろしくお願いします」


 願ってもないというわけでもないけど気楽に詳しい人に説明求めれる地位ゲットしてラッキーって感じだ。

 なんかこう、近衛入ってなんだかんだでトントン拍子だな。運が上がってきたーって奴?

 ま、いいや。

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