第7話 軍の近代化に伴う犠牲は大体金

 さて、私は比較的近代化に伴って必要なのは金と人だとわかったがミュルッケン団長はそこまで発想が追い付いていないのか否定的だ。

 私も近衛騎士団に籍を置いていなければ手放しであえりゅーら殿下に賛成していた。しかし、私は近衛騎士だ。団長が良きといわなければ私が良しとは言えないだろう。


「まぁ、近衛の統帥権は女王陛下にあるのでえありゅーれ殿下が姉であられる女王陛下に言うのが一番良いのでは?」

「それをしたら貴女達を寄越されたんだよ」


 ほーん。


「え、じゃあこの後ミュルッケン団長は女王陛下に今までの話するんっすか?」


 大変っすねーと他人事で居たらミュルッケン団長は眉を顰めてこっちを見る。なんや?


「貴女が陛下に話すのよ」

「え?マジっすか?

 正直、今までの話話半分しか聞いてなかったすっよ。団長やってくれると思って」

「なっ!?」


 ミュルッケン団長がアホか!と怒鳴りそうになったのを何とか堪え、あうりゅーれ殿下を見る。私も見るとえうりゅーら殿下は苦笑していた。


「まぁ、良い。

 取り敢えず、マスケット銃の話をステン姉様に言ってくれ。貴女はマスケット銃に理解がありそうだから貴女の見て聞いて感じた事を姉さんに伝えて」

「えーまぁ、はい、わかりました」


 面倒臭いなーミュルッケン団長を見ると完全にお前がやるんだぞって顔してる。


「銃と火薬と新兵入れた兵士数人かしてくれますか?」

「良いぞ。

 何をするんだ?」

「口で一から十まで説明説明するの怠いのでその補助っすねー」

「そ、そうか。

 まぁ、良いぞ」


 あえりゅーら殿下は傍にいた国王軍の士官に何か告げ、十数分後に5名の兵士がフル装備でやってきた。

 5人中2名は女だ。


「この5人を与える」

「ありがとうございまーす」


 そう言いながら5人を観察すると凄い緊張した顔で私を見ようとすらせずに直立不動。


「では、帰って良いぞ。

 また明日来い」

「はーい」


 ミュルッケン団長と5人の銃士を連れて城に帰ることにした。帰路、ミュルッケン団長は私を凄まじい剣幕で睨み付ける。


「ザブーリン!殿下の名前を言ってみなさい!」

「え?あ、はぁ、あうりゅーれ殿下ですか?」

「エ!ウ!リュ!アー!レ!エウリュアーレ殿下よ!」


 めっちゃ怒るやん。


「言いづらいよねー?」


 隣を歩く銃士達に言うと5人は何も言わなかった。


「近衛騎士に対して、王族の名前を呼び難いなんて言えるわけないでしょ馬鹿!」

「そーゆーもんなんすかね?」


 まぁ、良いか。


「それ、貸して」


 女の子の兵士に火縄銃を借りて馬の上で構える。普通に馬の動きで狙えない。立ち上がって狙いを定めると少し安定。


「んー……」


 馬を止め、鞍の上に立ち上がる。そして、構えて見ると殆ど揺れない。


「実用性は、ないね」


 ストンと鞍に座り、銃士に手を差し出す。


「掴んで」

「はい」


 銃士を引っ張り上げて後ろに座らせる。


「はい、構えて」


 火縄銃を返すが、後ろでモチャモチャしていた。見ると、どう構えて良いかと言う感じだった。


「難しいか」


 めんどくさいの。

 前にべったりと伏せる。


「撃てる?」

「え、ええ大丈夫だと思います」


 ふむ。


「んー騎馬だとやっぱりその長さじゃ難しいのかね?」

「そ、そうですね」


 機動力増進とは行かぬか。


「それに、この格好は馬の負担もデカいし何より他の連中が滅茶苦茶文句言うぞー」


 ハッハッハッと笑いミュルッケン団長を見るとそうだなと頷かれた。

 しかし、兵士を下ろして火縄銃を構える。


「馬は銃声に慣れてるのか?」


 撃ってみと告げると兵士達はミュルッケン団長を見た。


「止めろ。

 周りを見なさい。普通にこんな所で銃を打ったら騒ぎになるでしょう」


 周りは農民みたいな奴等が畑を耕している。用水路を引いていて小麦から野菜まで作っている。


「そう言えば、王都なのに何で畑があるんっすか?」

「籠城のための措置よ。

 それこそエウリュアーレ殿下が指示したのよ。

 あの方は軍事面において凄まじい能力を発揮なさる。二十年近く前、私も当時から居たがガタガタだった王立軍を僅か15、6の子どもが立て直してしまった。

 冒険者制度を廃止し、腐敗だらけだった連中を片っ端から粛清。軍人を育成し、今までになかった軍の体制を今に変えた。

 この国の軍事面はあの方を中心とし、あの方が居なくなった後の世もシステムが崩れない為の制度を作り上げている」


 へー、なんか聞いてもねぇ事をベラベラと教えてくれた。


「なんか、キモいっすねぇ〜」


 ハッハッハッと笑うと全員から睨まれた。


「貴女、その内不敬罪で斬首刑にされるわよ。

 口を慎みなさい。そして、王立軍の中であの方はシンボルみたいな物よ。闇討ちされても知らないわよ」

「銃を推し進めるだけにですかねぇ?

 ふむ、銃で襲われた時の対処も考えないとですねぇ。広めるかどうかは別として女王陛下にその危険性だけでも理解して貰えれば良いですねぇ」


 銃士達を見ながらミュルッケン団長に言う。

 ミュルッケン団長はあんたが説明するのよと梯子を外してきた。えー面倒臭い。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る