第5話 弾は切るより避ける物。
翌日、私はミュルッケン団長に教わった王都端の支城にいた。王城が絢爛豪華さも備えた薔薇と言うなら、支城は最早山椒だ。花もなくただただ、機能に特化している。
機能美という言葉がある。
「凄いデカい」
「王都が攻められた際に第一防衛線として機能する。ここを拠点に王都外縁部にある外壁の防衛を指揮するのだ」
ミュルッケン団長と共にウマできたが、死ぬほどでかい。何だこの城塞は?
「成程。
で、女王陛下の妹様のえあうえ……?」
「エウリュアーレ様だ」
「えありゃあーれ、様」
言いづらくね?
「エウリュアーレ様だ!
不敬罪で首が飛ぶわよ!」
「まぁ、殿下で良いか」
そんな事を言っていたら城塞の入り口に着く。城は跳ね橋があり、水堀で囲まれている。橋の前には騎馬突撃を防ぐ為にZ字型に棘付きの柵が設置してあった。
あと、戦争映画とかでよく見る戦車用のテトラポッドみたいな奴を丸太と逆茂木で作っていた。
「すご」
「そうね。いつ来ても、此処は物々しいわ」
Z字を行こうとしたら、槍を持った兵士がすっ飛んで来る。
「下馬して通過せよ!」
騎士相手に下馬しろとは凄いな。しかも、槍を構えて通行止め。これ、なんかした方が良いか?わたしは従っても良いけど、チラリとミュルッケン団長を盗み見ると降りる気がない。
面倒臭いな。
「黙れ!此方は近衛騎士団第五近衛騎士団長サリア・ミュルッケン団長だ!
槍まで向けて何の権限があって誰に指図していると思っている!」
取り敢えず、腰の剣を引き抜いて睨む。
兵士は少し怯んだ様子だったがそれでも槍を下ろすことはしない。後ろの方に控えていた兵士は奥にすっ飛んでいった。
「相変わらずの警備ね。
良いわ。降りましょう」
ミュルッケン団長はそう言うと下馬した。
「あ、はい」
剣を納め、馬から降りる。
「何だ?まだ文句でもあるのか?」
槍をずっと構えているので、納めた剣の柄に手を掛けて凄む。
「止めろ。近衛騎士だぞ」
「騎士は舐められたらアカンと近所の爺さんが言ってましたので」
「何だその蛮族思想は」
地方の騎士は基本蛮族だぞ。
「お前も用がなかったらさっさと退け。
ソイツは時期外れの腕だけで近衛騎士になった奴だ。お前では歯が立たん」
ミュルッケン団長が脅すと兵士は慌てて脇にどいた、私たちはそのまま門を潜る。
「うわ、殺しの間」
門を潜ると大きく屈曲し更には狭い門が一つある。簡単に言えば火縄銃とかで十字砲火できる場所がここだ。
上を見ると案の定兵士がこちらを見ていた。
「この変な作りがどうかしたか?」
「此処は殺しの間っめ場所です。
あそこと、あそこから弓矢を射かけて来て此処に侵入しに来た敵を斬減するんですよ」
説明するとミュルッケン団長は成程と頷いていた。大河ドラマでやっていた。この城、凄いよな。
そのまま奥に行くと凄い登りづらい階段がつづく。
「この階段は何度登っても好きになれないわ」
「それが狙いですよ。
いろは坂みたいに屈曲して登ってくる敵は側面から撃たれるし、そもそも登り辛いので進撃がかなり遅れるんですよ」
そんな上り辛い階段を登っていったら、火縄銃を持った兵士たちが並んでいた。何だこりゃ?
「何のつもりだ!」
ミュルッケン団長が焦った様子で叫ぶ。火縄には火が付いている。
「前列構え!」
指揮官の号令に合わせて銃士達が火縄銃を構えた。ふむ。
指揮官を見ておこう。あれの合図で伏せれば良い。
「待て!謀反か!?」
謀反か。ふむ。殺しても良いか。
「放て!」
その瞬間、ミュルッケン団長に飛び付いて覆いかぶさる。直後ダダンと発砲音がするので、空かさず剣を引き抜き指揮官に投げつける。
剣は指揮官の顔面に突き刺さり、部隊は止まる。ミュルッケン団長の剣を引き抜いて浮き足立った銃士隊に斬り込んでいく。
「ミュルッケン団長!」
銃士の腰に下げていた剣を奪い、ミュルッケン団長に投げ渡す。銃士は私の攻撃に対処する前に次々と切り伏せられ、15名の銃士隊は1分と経たずに残滅。
私は火縄銃と弾薬を回収しつつミュルッケン団長に合流。
「団長、怪我は?」
「な、ない!」
ミュルッケン団長に火縄銃を渡していると新しい増援の気配。
「おぉ!?マジか!!銃士隊全員死んでる!?」
非常に偉そうな女が馬から飛び降りて銃士隊に駆け寄る。
「エウリュアーレ殿下!」
ミュルッケン団長が傅こうとしたので止める。
「叛逆者です。
逃げる準備を」
「エウリュアーレ殿下!?
血迷われましたか!」
逃げる準備をしろと。
私は火縄銃に火薬と弾を込め、火蓋に火薬を注ぐ。
「人質として捕まえますか?
首謀者の捕縛と併せて勲章もらえますよ」
「エウリュアーレ殿下だぞ!?」
「違いますよ。クーデターの首謀者ですよ。
女王陛下の御親衛たる我々に銃を放ったので敵です」
今思えばあの橋の兵士も可笑しかったな。
「誤解です!
火縄を外し、剣をお納め下さい!」
エウリュアーレ殿下の出てきた方からすっ飛んで来たのは侍従長のおっさん。冷や汗ダラダラだ。
「お前も加担してるのか?」
火縄銃を侍従長にも向ける。
「お前達を試しただけだ。
ステン姉様から凄い新人を寄越すと言われたから試したのだ」
エウリュアーレ殿下が参ったなと錦糸のような髪を無造作にかき上げて、後頭部をバリバリ掻いた。
「誤解をさせて申し訳ない。
これは叛逆でも何でもない。なんなら、兵士達には火薬を入れただけで玉は入れてなかったのだ。
本来なら一斉射してビビり散らかしたお前達の前に現れてネタバラシの予定だったのだがな」
結果は銃士隊十五名の全滅だ。
「だから言ったのです!
この様なお戯れはおよし下さいと!
サブーリン様は火かき棒だけで1時間もドラクロア様の攻撃を凌いだのですよ!」
めちゃんこ侍従長怒ってて笑う。
エウリュアーレ殿下とか両手で耳を押さえてあーうーしてら。
「エウリュアーレ殿下は頭がイカれておられるので?」
ミュルッケン団長に小声で尋ねる。
「人の心が些か欠如なされている」
ミュルッケン団長も小声で答えた。
「この事は女王陛下に報告させて頂きます」
失礼致しますと侍従長は去っていた。
「んー遺族になんて言おう?」
「素直に仰れば宜しいかと」
仕方ない、と何が仕方ないのか分からない事を言ってついて来いと歩き出す。
死体の山は後から出て来た兵士達が淡々と処理していく。その兵士達は私を一瞥すると、恐ろしい物を見る顔だった。
そらそーか。15人を1分も掛からずに斬り殺したんだもんな。
「あ、剣」
顔面に剣が突き立っている指揮官が運ばれていかれようとしていたので、駆け寄る。
「その剣は私の物だ。
抜かせてもらう」
剣を引き抜くと、ズロッと脳みそがこぼれ出て来て、兵士達が吐いた。
「銃弾で頭を撃たれると、こうなるぞ。
腕に当たるとちぎれる事もある。
お前達の扱う武器はそう言う物だ。この程度で吐いていると戦場でやっていけないぞ」
後日、私のあだ名が鉄仮面とか斬殺騎士とか酷いあだ名がついた事と知った。しどい……
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