第3話 出過ぎな杭は打てない。

 昼飯後、殿下は算数だかなんだかの勉強とかでロッテンマイヤーみたいな顔をしたメイドに連れていかれたので私は事務所で与えられた机の前に座っていた。

 其処には近衛騎士団の教則本と言うか「かくあるべし」が書いてあるので目を通しておけと言われたのだ。

 パラパラとめくり大したことは書いてなかったので早々に本を閉じて周りを見ることにした。

 忙しそうに書類仕事をするのは団長付きの見習い騎士だろうエルフの少女だ。後は副団長。

 他の騎士も何やら書き物をしたり練兵場に行ったりしているようだ。


「あの、サブーリン様」


 椅子を傾けてバランスを取る事に集中していたら声を掛けられる。見ると事務方らしい平民の女が立っていた。眼鏡を掛けている。


「何だ?」

「はい、私は武具の修理や保管を担当している者なのですが、ザブーリン様の鎧を作りたいので採寸をしたいのです」

「式典用とかで色々あるのか」


 近衛騎士団は滅茶苦茶金が掛かる。まぁ、騎士団っつーか国が払ってくれるのだが。それ故に、近衛騎士団は全騎士の憧れである。


「はい。

 それと、剣についても要望が有ればお聞きします」

「何でも良い。

 丈夫でちょっとやそっとで折れなければ」


 なんならそこそこ太い鉄の棒でも良い。先を尖らせて突き特化とかでも問題ない。ぶん殴れば良い。

 部屋の隅にある暖炉を見ると火かき棒がぶら下がっている。

 ぶっちゃけこれでも良いぐらいだ。いなしてぶん殴るだけ。


「えぇ……剣にこだわり無い人初めて見ました……」


 鍛冶屋街に向かうので序でに防具も見ますよと告げた。鍛冶屋街とは文字通りの鍛冶屋がいっぱいある通りだ。


「お抱えの鍛冶屋はありますか?」


 お抱え?父親がお抱えのは村の鍛冶屋だ。鍋とか直してくれた。私が鎧を買ったのは何処だったかな?


「えーっと、鎧買ったのが……」


 あ、そうだ。


「此処だ此処。

 此処で父親が鎧を買ったんだ」

「え、此処ってその、冒険者用の鍛冶屋ですよ?」

「ええ、安いし機能的だ。

 普段使いは此処ので十分だ。町の鍛冶屋でも直せるのが良い」


 扉を開き、中に入ると騒がしかった店内が一気にシンと静まり返った。


「こ、近衛騎士団の方々がどうしましたか?」


 奥から親方が飛んで来る。


「あ?鎧を「冒険者が普段どの様な鎧を纏っているのかを後学のために見にきただけですので、気になさらず」


 事務がそう告げると親方は成程と私を見て事務を見て奥に戻っていく。


「ザブーリン様!貴女は近衛騎士なのです!

 纏う鎧にも気を払ってください!行きますよ!」


 そう言って店内を軽く眺めた後に事務の後に続いて防具を専門に扱っている鍛冶屋に入った。


「いらっしゃいませパティさん。

 本日はどの様なご用件で?」


 中に入ると入り口の近くにいた男が深々と頭を下げて私達に尋ねてきた。金持ち臭くて鼻につく。


「新しく近衛騎士団に入団なされたザブーリン様です。

 この方の鎧を発注しにきました」


 壁に並ぶ鎧を見ながら事務ことパティに紹介を任せた。


「成程、おめでとう御座います。

 どの様な鎧をお求めでしょうか?」

「軽くて、過度な装飾のないやつで良い。

 色も手入れもめんどくさいから黒で良いぞ」

「いけません!!

 鎧の手入れは私達がやるので!好きな色を!選んで下さい!」


 黒鎧は馬鹿にされるが、私達の地元じゃ黒ばっかだ。


「いや、黒で良い。

 舐め腐った相手が一撃も攻撃を当てられずボコボコにされるのは最高にウケるだろ?

 それに、普段使いの鎧は私が管理するからあんた達には渡さない。テメェの命を賭けるんだ。式典用はそっちで勝手に決めてくれ」


 採寸をして、普段使いの鎧を丁寧に決めていく。胴回りは一枚の鉄板で舟の舳先の様にする。南蛮胴にもにているが、これは避弾経始に優れているので弓矢は勿論、クロスボウやマスケット銃にもある程度の耐性を期待できる。

 手足はチェーンと皮だ。動きを阻害せず防御を求めるとこうなる。

 足も似た様なものだ。パラオの様なものも付けられたが、何でも今流行りの足の動きを悟られない装備とか言うらしい。普通に動きづらい。邪魔だろ。


「要らん。邪魔だ。

 何が足の動きを悟らせないだ」

「い、今流行りでして……」

「流行りで自分の流派を変えるアホはこの店を使うわけないだろうが。そんな馬鹿が居るなら私の前に連れてこい。ボコボコにしてやる」


 言った瞬間、隣で大きく咳払いをされた。見ると見知らぬ女騎士が居る。


「ま、マルチアーノ様!?」


 誰だよ。


「マルチアーノ様は第一近衛騎士団の副団長です」

「あー先輩。

 お疲れ様です。この度、第五近衛騎士団に「知っているわ。たまたま各騎士団長に勝てたけど、ドラクロア様にボコボコにされたと言う新人でしょ?」


 なんかめんどくせーなー

 パティをチラ見するもアセアセしてるだけだった。


「あーまーそんな感じっす。

 まぁ、同じ騎士団では無いっすけど親部隊は一緒なんでよろしくお願いします」


 頭だけ下げとこ。


「ンで話戻っけど、これつけんなよ。

 式典用のにもだ」

「わ、わかりました」


 よし。


「防具はこれで良いわ。

 パティちゃん。次は?」

「あ、剣です」


 剣かぁ……


「何でも良いよ。丈夫で折れなきゃ」

「そうはいきません!

 剣こそ騎士の証!確りと選んでください」


 そう言われて無理やり武器を作る鍛冶屋に引っ張って来られた。


「あ?何これ?」


 そして、その店先で変な剣を見つけた。火かき棒の取っ手を剣の取っ手にしてあるのだ。


「ああ、騎士様。

 それは子供たち向けに作ったおもちゃみたいなものでして……

 新人が試しに作った物なので、お気になさらず」


 店主が大慌てで私の手からそれを奪い去ろうとするのでそれを流す。


「良いじゃ無いか。

 これを買おう」


 楽しい。剣は適当に並んでたそこそこ高そうな奴を選ぶ。


「んじゃ帰ろうかパティちゃん」


 火かき棒を腰に提げ帰路に着く。

 翌日、火かき棒を腰に提げて出勤。昨日の続きで椅子を使ってバランスを取っているとメイドがやってきた。


「侍従部のメイドだ」


 先輩の1人がそう言う。メイドは部屋のど真ん中を歩いて団長の前に。


「おはようございます、第四団長様。

 本日は剣技の修練は行わないのでしょうか?」

「いや、そんな予定は聞いていないが……」


 ミュルッケン団長は私を見た。


「え?私?」

「お前を昨日、コニー殿下の剣術指南に任命したろう!!」

「あーそう言えばそうでしたね。

 何も予定書いて無いっす」

「剣の修練は午前中だ!

 さっさといけ!!!!」


 めっちゃ怒るやん。まー首飛ぶかもだしな。まぁ良いや。


「了解でーす」


 めんど臭い。平服のままだが良いや。練兵場に向かうと昨日と同じで何か丸太をボコボコ殴っていた。


「遅れました殿下」

「遅いぞ!」


 さーせんっしたーと形ばかりの謝罪をしてから丸太をボコボコにする殿下を椅子に座って見学。

 これ、何すんの?私ある意味なくね?


「サーシャスカ、僕の剣技はどう?」


 どうって言われても……何故かやってきたメイドを見るとメイドはスンッて顔してる。


「良いと思いますよ」


 知らんけど。

 ボコボコやってるコニー殿下は嬉しそう。


「で、コニー殿下は昨日から丸太殴って何してんですか?」

「何って、打ち込みだよ」

「はぁ、打ち込み……」


 メイドを見るとメイドは何も言わない。スンッてしてる。


「何か思うことはあるの?」

「はぁ、まぁ……」


 メイドを見るが何の反応もしない。


「忌憚無く言って欲しい!」


 コニー殿下はボコボコを止めて私の前に。


「はぁ、なら、まぁ。

 打ち込みってのはこう言うの打ち込みって言うんですよ」


 正しい姿勢と正しい構えで適正な力加減のまま木剣で丸太を殴る。


「コニー殿下のは丸太をぶっ叩いてるだけですねー

 なんでこんな無駄な事してんのか知らんっすけど」


 はっはっはと笑い椅子でバランスを取る作業に戻る。

 メイドは相変わらず我関せず。


「そんな……何で皆僕に剣術を教えてくれなかったんだ!」

「えー?

 知らんっすけど、殿下が剣振る必要なく無いっすか?

 殿下の命は私等で守る訳ですし、そもそも殿下って命を狙われる理由あるんっすか?」


 メイドを見るがスンッてしてる。何しにきたんだろコイツ?


「無い……とは言い切れない」

「まぁ、王族ですもんねー

 剣で戦うより体力付けて逃げれる体作った方がいいっすよ」


 例えばーと周りを見ると訓練用の運動着を着たドラクロア副団長が自身の部下を扱きまくっていた。


「ドラクロア副団長みたいな暗殺者が殺しに来たら多分どんな奴も逃げれないと思うっすけど、そこのメイドが襲って来ても逃げ切れるとおもいません?」


 少なくとも私は逃げ切れる自信ある。


「確かに……」

「ツー訳で基礎体力と筋力向上の為に運動じしょーか」


 コニー殿下を小脇に抱えてドラクロア副団長の元に。


「副団長ー」

「あん?ああ、サブーリン。

 どうしたの?」

「コニー殿下の基礎体力向上と筋力向上の為になんか教えてあげてくださいよ」

「はぁ?

 殿下の担当は第四だろう?」

「ええ、でもウチの団って何か弓や魔術みたいなの信奉してるっぽいんっすよねぇー」


 第四近衛の騎士達は射的場みたいな場所で矢を射っている。


「あー……

 まぁ、しゃーないか。良いわよ」

「あざーっす」

「そのかわり、貴女はここにいる連中も立ち会って」


 ドラクロア副団長はニンマリ笑っていた。多分、自分も戦う気なのだろう。


「じゃあ遠慮しまーす」


 コニー殿下を脇に抱えたまま去ろうとしたが襟首を掴まれて逃走は失敗。


「防具付けて準備しな!」

「コニー殿下、そう言う訳なんで自分ちょっとやって来ます。ドラクロア副団長は見ての通りなので、頑張って下さい」


 そのまま更衣室に引き摺られ、防具を付けさせられる。


「お前の防具は黒染めなのか?」

「ええ、地方の貧乏騎士なんてこんなもんですよ。

 それに、この防具だと相手が舐めてくるんで余裕でボコせるんですよ」


 鎧を纏い、ドラクロア副団長と共に練兵場に戻る。すると案の定失笑が漏れる。ドラクロア副団長はそれを一喝しようとしたので、まぁまぁと押さえておく。


「で、誰からやります?

 誰からでもいいですよ。あ、コニー殿下は余裕あったら見たら稽古でもして下さい。ゲロ吐くまで頑張って下さいね」


 んじゃ、と構えると1人の騎士が出て来た。


「俺が近衛の厳しさを教えてやる!」


 なんか息巻いてた。


「良いよ、先輩として見せてやんな!」


 ドラクロア副団長はニンマリ笑うと私の背中をパンと叩く。

 円形に全員が立ちその中央に私とパイセンが立つ。パイセンは剣を抜いていた。刃付きの奴じゃーん。怪我すんでー


「始め!」


 始めじゃないが?

 言おうとしたがもう遅い。パイセン普通に切り掛かって来た。えー?

 大振りからの振り下ろしだろう。相手の懐に入ってそのまま背負い投げ。受け身を取れずなっちゃう込みの衝撃で気絶。気絶しなくても普通に動けない衝撃。

 そのまま顔を加撃、すると死ぬので顔のすぐ横をスタンプ。そこまでが掛からないので持った腕を捻りあげて、腕を固める。


「イダダダダ!!折れる!」

「そ、そこまで!」


 ドラクロア副団長の合図で拘束を解く。


「あのー刃付きの剣だと決闘とかにならないんですかね?

 ウチの地元だと練習だと刃を潰した鉄剣が普通だったんですけど」

「これは練習だから大丈夫だ。それより今の技は何だ?」

「甲冑組手ですよ。

 基本ですよ、基本」


 ウチの地元は普通に生き残る為なら何だってやった。貧乏騎士なんて捕虜になっても高い身代金も取れず寧ろ武具やウマ売った方が高いなんてこともある。

 故に普通に殺される。なので生き残るのだ。


「か、甲冑組手にそんな技あったか?」

「しらねぇよ。甲冑組手なんていつ使うんだよ」

「剣の柄で殴ったりするくらいしか知らないわよ」


 なるほどなぁ。まぁ良いか。


「まぁ、何でも良いですけど、どうするんですか?」


 コニー殿下を見ると普通にこっちを見ながらダラダラ走ってる。


「殿下!真面目に走って下さい!

 丸太ボコボコ殴ってるだけじゃ強くならんっすよ!」


 叫ぶとコニー殿下はハイと走り出した。

 やれやれ。


「それで?」


 次は誰?と周りを見るとエストックを持った女の子騎士が前に出る。


「私が」

「よろしくお願いしまーす」


 頭を下げ、女騎士を見る。


「剣を抜きなさい」

「あ、はぁ」


 腰に提げてる剣を引き抜く。


「貴女、ふざけてます?」


 見るまでもなく、昨日一目惚れしてかった火かき棒だった。


「あー昨日一目惚れしたんすよね。

 で、気に入って剣置きにおいたんすよ。んで、朝寝坊して慌ててコイツ掴んで来て、今に至るって感じです」

「誰か彼女に剣を」

「いや、良いですよ。これで。

 私、得物は選ばない主義なので」


 火かき棒を構えると女騎士はドラクロア副団長を見る。


「それで負けたらお前、騎士団をクビになるぞ」

「寧ろ、どうやったら負けれるんで?

 さぁ、いつでもどうぞ」


 ドラクロア副団長は大きく首を横に振りそれから後悔するなよと告げた。


「始め!」


 その合図で私は女騎士に踏み込む。エストックの間合いの更にその中。エストックは刺剣に分類されるが、勿論刃もついている。

 が、剣を構える動作に合わせて剣の中に入られるとは想定していなかった様で私から間合いを取ろうと後方に下がりつつエストックを横に振った。

 私は火かき棒で女騎士の胴の袖部を引っ掛けて思いっきり引っ張り、雑な払いは普通に籠手で掴む。


「どうします?」


 まだ続けます?と言うつもりで聞いたが睨まれた。


「なら、最後まで」


 引き寄せた頭は剥き出しなので思いっきり顎を殴って気絶。


「はい、次」


 火かき棒を手の中で回してから鞘に収める。


「ザブーリン、お前から見て私の部下はどうだ?」

「えー?

 強いと思いますよ?普通に」


 知らんけど。


「ならば何故今の2人はお前に土を付けられない?」

「私の手を知らないからです」

「戦っていけばお前に勝てると?」

「はい。

 でも、それは意味ないですよ」


 エストックを拾い上げて翳してみる。多分良い剣。知らんけど。


「何故?」


 ドラクロア副団長が不思議そうな顔をした。


「え?だって、今の2人とも私が殺してますもん。

 戦場で敵と戦うつもりで剣振ってます?」


 チラリとコニー殿下を見るとやはりこっちを見てタラタラ走ってる。


「殿下ぁ!もっと気合い入れて走らないと、怒りますよー地方騎士の娘だからって舐めてると泣いたり笑ったり出来なくなるくらいしばき倒しますよー」


 軽く脅してから騎士達を見る。


「で、どうします?」

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