第2話 出る杭は打たれる。
近衛騎士団の仕事は王族の警護と治安維持だ。王族は女王とその旦那、長男、長女、次女に次男の4人。第一近衛騎士団が国王たる女王とその夫を守り、第二近衛騎士団が長男、第三が長女、第四が次女、第五が次男だ。上から第一皇子、第二皇女、第三皇女、第四皇子と生まれた順に王位継承権があるそうだ。そして、基本的には第四近衛までしか常設されずそれ以降は子供が出来た時新設されていく。
そして、私は第五近衛騎士団に配属らしい。第五近衛騎士団は騎士団の中でも最も新しく、十数年ぶりに作られたそうな。
「時期外れだが、期待の大型新人!
サーシャスカ・サブーリンだ!まぁ、知っている通り私と団長以外の近衛騎士団長を全て倒したのでその実力は折り紙付き」
何?私の横で声を張り上げるドラクロアを見上げる。そして、一番奥に居る騎士を見る。第五近衛騎士団長だ。
よく見ると、鼻につっぺをした女騎士が座っている。傍には弓矢が掛けられている。
「近衛騎士団長だったのか」
平の近衛騎士だとばかり思っていた。
「近衛騎士団長とは知らず、大変な無礼を」
「構わない。私が未熟だっただけです」
騎士団長は立ち上がる。そのままはドラクロアよりも長い。ハーフではないエルフだ。成程、そりゃ剣技は弱い訳だ。
「まぁ、エルフ殿では間を詰められては剣で勝てませぬ故に、お気にならさらず。
もっと間合いがあり、矢を持っていたなら私も負けていたでしょう」
負けるつもりは一切無いが。
「次はお互いにフル装備で森の中でやりましょう」
「その機会があれば御随意に」
「うむ!
その折りは私も参加させて貰おう!昨日は手を抜かれたからな!次こそは正々堂々と!」
ドラクロアはそう笑うと去って行った。
第五近衛騎士団は総員20人しかいない。第一は千を超えているし、第四ですら200人近い。つまり、第四皇子はその程度の重要さしか無い訳だ。
「取り敢えず、第四皇子に御目通りする。
サーシャスカは私と共に参られよ」
「分かりました」
事務室を後にして歩き出す。
「私の名はサリア・ミュルッケンよ。
知っての通り、第四近衛騎士団の団長。得意な物は弓矢よ」
「サーシャスカ・サブーリンです。
得意な物はまぁ、剣です。よろしくお願いします」
そんな挨拶をしながら目的地へ。場所は練兵場。昨日騎士団長たちをボコボコにした場所だ。
「ここにおられるので?」
「ええ、彼方に」
指差す先を見ると10くらいの子供が木剣を使って騎士団員と打ち合っていた。太刀筋もめちゃくちゃだから、打ち合ってる騎士も暇そうに片手でいなしている。
「あれが第四皇子で?」
「その通り。
コニー殿下だ」
ふーん。
コニーか。私達はコニー殿下に近づいて行き、ミュルッケン団長が声をかけた。
「コニー殿下、新しい騎士が来たので紹介致します」
コニー殿下に傅いておく。
「この度ペンドラゴン様とドラクロア様以外の全騎士団長に金星を挙げた、サーシャスカ・サブーリンです」
ミュルッケン団長の言葉にサブーリンですと追従。
「サリアも倒したの!?」
コニー殿下は私に駆け寄る。
「ええ、各団長方には手を抜いてもらいましたので」
「それでも凄い!
サブーリンは物凄く強いんだな!」
面倒くさいなぁ。
「地元では最強と自負しております」
自負というか事実。
「なら、私とやろうぜ?」
獣人の騎士がやって来て、私の前に木剣を投げて来た。
普通に嫌だが?平服だぞこっちは。
「サブーリン、お前の実力を殿下にお見せしろ」
団長がやれと言うし、コニー殿下はワクワクしてる。ひどく面倒臭い。剣を拾い、ニヤニヤ笑う近衛騎士を見る。
狼タイプの獣人だ。俊敏さと力強さを兼ね備えた獣人の中でも標準的に厄介な相手だ。新人いびりをしたいようだな。まぁ、そんな手には乗らんが。
「先手を譲ってやろうか?」
へっへっと笑う近衛騎士を見る。獣人は基本的に頭悪い。
「貴方はどの程度の強さなのですか?
第一、第二騎士団長殿以外の方にお勝ちになられたのですか?」
大きなため息と共に尋ねる。
「いや、そう言う訳じゃねぇけど、お前より速いし力もある」
「なら、どうして先手を譲るなどと?
貴方、私より強いと自惚れていませんか?」
垂れて来た髪をかき上げ、木剣を構える。
「で、本当に私が先手を取っても良いのですか?」
「ッチ、良いだろう。同時だ。構えろ」
構えろといわれたので構える。ミュルッケン団長が始め!と声を掛けるに合わせ、獣人が飛び込んできた。凄い勢いだが、無意味だ。
繰り出される突きを剣の腹で叩いて軌道を逸らし、右肘で相手の勢いに合わせて腹に打つ。獣人パイセンはゲロを吐いて蹲ってから動かなくなった。
「そこまで!」
ミュルッケン団長が止めと告げるので木剣を収める。
「凄い!一撃だ!」
コニー殿下は大喜びだ。
「僕もそれ教えて欲しい!」
剣術指南役はそこで欠伸してる騎士でええやろ。
「教えてもなにも、見たままですよ。
突き出された剣を横で弾いて、相手の突進を活かして腹を殴る」
ね?簡単でしょ?と告げる。
「そんな雑な説明で出来たら誰も苦労しないわ」
「雑も何も、私はそれで対処しました。私はそれ以外の説明ができません」
ミュルッケン団長の言葉に私は困ってしまう。周りの言うところの天才肌と言う奴に属する私だ。その実態はチートだが。
「まぁ、そうだな。よし、お前の任務は当面の間コニー殿下に剣を教えて差し上げろ」
「……了解しました」
こうして私は剣術指南役を仰せつかった。クソが。
ミュルッケン団長は気絶した獣人の先輩を医務室に運ぶよう指示を出し去って行く。私も運動着に着替えてからとコニー殿下に告げて更衣室へ。
服を着替えて練兵場に戻るとコニー殿下は立木に向かって無茶苦茶に剣を振っていた。何してんだコイツ?
「お待たせいたしました、殿下」
「あ!きた!」
コニー殿下はよく分からんお遊びを止めると私の下に走ってくる。
「教えて!さっきの!」
「はぁ、まぁ、良いですけど」
教えろと言われても、どうするよ?
「私がゆっくり剣で突くので剣の腹を殴って下さい」
「分かった!」
木剣をゆっくりと突き出すとペンと叩かれる。
「それが先程やった奴です」
「うん!」
キラキラと言う効果音がつきそうなくらいに目を見開いてこちらを見ている。
何を見ているんだろうか?暫くお互いに見合っているとコニー殿下が首を傾げる。
「ほかには?」
「ほかに、とは?」
「ほかに何かないの?」
「無いですが?」
答えるとコニー殿下は酷く驚いた顔をした。
それからコニー殿下は木剣を木にぶら下がっている紐に結び付けるとカンカンと叩き出した。
ジャッキーチェンの映画で見たな。
勝手にカンカンやってくれるならこっちは楽だ。脇に椅子があったのでその椅子を持って来て腰掛ける。
木剣を脇に置いてカンカンやっているコニー殿下を眺めているとしたら顔のクソガキみたいな奴等がやってくる。誰だ?
「何やってんだコニー!
相も変わらず素振りか?」
「う、ま、マッティア君……」
マッティア君、知らんな。
「お前に剣の才能なんか無いからさっさと帰ってお馬遊びでもしてな」
マッティアがコニー殿下に木剣で小突こうとしたので、木剣をそのマッティアの木剣に投げつける。
「止めろ馬鹿。
第四とは言え皇子だぞ。何処のクソガキだ」
椅子から立ち上がりコニー殿下の前に立つ。
「なんだお前!
俺を誰だか知らないのか!」
「知るかアホ。
お前こそこの方を誰か知らんのか?」
木剣を拾い上げて肩に担ぐ。
「クソー!!
おい!」
クソガキが後ろに立つ男を見る。
男が手にしているのは両手剣。
「女。
マッティア様は宰相閣下の長男だ」
「宰相の?
宰相も馬鹿息子を持って大変だな」
「口を慎め。
申し訳無いが手合わせ願う。得物はロングソードで良いか?」
申し訳無いと言う感じの顔で謝られた。
「いや、丁度良い。
コニー殿下。このくらいでかい剣なら見やすいだろう。確りと私の動きを見ておけ。私は人に物を教えるのが下手だ。
アンタも打ち込んできてくれ。素振りもまともに出来ん殿下に見取り稽古は早いかもしれんが剣の振りという物を確りと見せたい。
殿下、腰や足を見ろ。姿勢と目線。この四箇所だ。そこ以外は大して注目しなくて良い」
木剣を右手に握り、やるぞと男を見る。
「怪我をしても知らんぞ」
「私が怪我をしたのはわざと負ける時だけだ。
遠慮するな、私は強い」
「……」
この男はかなり強い部類だ。
だがかわし続けるだけなら何の気兼ねも無い。マッティアとコニー殿下は傍に移動し、私達は立ち会う。
お互いに見合う。私から仕掛けることはしない。
「うぉぉ!!」
男は両手剣を大ぶりに振り上げ、上から下への斬撃。
私は木剣で両手剣の腹をぶっ叩く。剣は私の横を抜けて地面に。男はその瞬間体を捻って軌道を斜めに修正で横切りに。私も下から上に迫り来る両手剣の腹を蹴り上げる。上半身を逸らして顔の直前を両手剣が抜けていった。かた上げた剣を背後に落とした男は後ろに飛び退く。
「な?」
コニー殿下に向き直り、怪我すらしないと見せる。
「前々!」
コニー殿下が男を指差す。見れば男が突きを繰り出しているので柄頭で軌道を逸らして男の懐に入る。
「ここまで入れば後は首でも腹でも足でも切れる」
男の首、腹、足を軽く剣で叩く。
「なっ!」
男から離れて仕切り直す。
「相手の得物がデカければデカいほど相手の隙はデカくなる。
両手剣なんか一対一で使う武器では無い。故に彼は私には絶対に勝てない」
私が分かったか?とコニー殿下を見る。コニー殿下は相変わらず前前と叫ぶ。男は後ろに刀身を隠して迫り、そのまま逆袈裟をしてくる。私は繰り出された剣の腹を蹴り上げ、そのままやり過ごす。そして、ガラ空きの背中に木剣で軽く三連突きをした。
「な?
振りが大きいから避けやすい。故に後ろを取るのも楽だ」
「……俺の負けだな」
「ああ、4度も死んでいる。
打ち手助かったよ」
男は肩で息をしながらマッティアに今日限りで用心棒を辞めさせていただきますと去って行った。
マッティアは驚いた顔をして私と男を交互に見るとコニー殿下を睨んで覚えてろと走り去っていった。
何だろうか?
「す、凄い……」
「まぁ、そろそろ昼なので帰りましょう」
お仕事楽勝スギーチート万歳ですわ。
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