女王陛下の妹に転生したので軍事強国改革していく話外伝 最強ダウナー近衛騎士様の日常

はち

第一部

第1話 騎士の名は。

 異世界に転生して早い物で16年片田舎の騎士の娘として生まれ、親父が興味本位で剣を握らせたら思いの外強かった。そのまま、気がついたらその地域一帯で無敗を誇るほどに強くなってしまった。

 両親からはお前を男に産んでやらなかった事が唯一の我々の罪とまで言われてしまうほどの強さだ。

 この話は時の女王の耳にまで届き王都に呼ばれた。これが今私が真っ赤な絨毯の上で傅いている理由である。


「面をあげよ」


 許しが出たので顔を上げるとザ・氷の女王と言わんばかりに恐ろしく冷たい目付きの女が立っていた。

 玉座があるにも関わらず座らずに此方を見ている。


「お前が辺境で名だたる騎士達を打ち負かしたと噂の女騎士か?」


 口を開きそうになって慌てて閉じる。基本的に騎士身分が王族と会話なんか出来ない。私への問いは全部宰相が答えると事前に言われているので真っ直ぐと女王を見るしかない。 

 まぁ、口下手で前世のせいで男っぽい喋りがすぐに出てしまうので有難いと思っているのだが。


「その通りで「貴様には聞いていない宰相。私はお前に聞いているのだサーシャスカ・サブーリン」


 宰相に黙れと言うと女王は私を見た。私は宰相を見る。宰相は頷いた。予定と違うじゃねぇかボケと軽く睨みつけ、それから視線を女王に戻す。


「名だたる騎士かは存じ上げませんが、父の知り合いは大体ボコボコにしてやりました」

「ふむ。

 ならば近衛騎士と立ち会え」


 宰相を見る。


「何故、宰相を見る。今は私とお前が会話をしているのだ」

「事前に聞いた話とは全く違うので、宰相を見ました」

「そうか。

 それで、お前は立ち会えるのか?それとも立ち会えないのか?」


 面倒くさいから嫌なのだが?


「女王陛下がそうあれかしと望むならば私は斯くあるべしと従うまで。

 御随意に」


 頭を下げるとがじゃんと目の前に剣を投げれる。ロングソードだ。


「それで立ち会い、勝て」

「御意」


 ロングソードを拾い上げて腰に帯びる。

 それかれ場内の訓練場に。学校は下級騎士の礼服。スカートではないのが不幸中の幸いだ。上着を脱いでブラウスになり、渡されたロングソードを抜いてみる。

 高い奴だろう。剣なんぞどうでも良い。問題は相手の攻撃をどれだけ華麗に去なすかだ。


「お前に一太刀でも浴びせれば金一封と言われたが、まさか小娘とはな!」


 フルプレートで盾まで持った近衛騎士だ。

 展覧席を見ると女王が相変わらず立ってこちらを見ていた。


「先手を譲ってやろう」


 騎士は些か馬鹿にしたように笑う。兜を脱いで盾まで捨てていた。舐められた物だ。まぁ、そくだよな。


「なら失礼して」


 構えることもなく歩いて近付く。互いに間合いに入った。騎士は笑っている。卑下た笑みだ。


「なんだ?剣の振り方すら知らんのか?」

「お前にはそんな技術は要らんだろ」


 剣の腹で顎を殴り抜く。脳震盪を起こして騎士は堪らずに片膝をつくので首元に鋒を食い込ませた。


「お前、死んだぞ」


 私が告げると凛とした声で勝負ありと掛かった。

 見ると見知らぬ好青年が立っていた。


「遅れて申し訳ない。

 審判役だ」


 下がれ!と好青年が騎士に告げると騎士は唇の端を噛み締めて去って行った。その騎士に入れ替わるようにハルバードを持った近衛騎士が入ってくる。

 長物か……


「位置に」


 審判に促されるので元の位置に戻る。


「俺は先程のやつのように甘くないぞ。

 死にたくなければ降伏しろ」

「あまりかっこいいことを言うな、かえって弱く見えるぞ」


 売り言葉に買い言葉。これだけで相手は大激怒した。

 初めの合図でハルバードは大振りの縦切り。私の中心線を捉えるので去なしやすい。

 ハルバードの振り下ろし合わせて剣を使って真横から左側に押してやりつつ、私は右側に半身をとる。そうすれば私は腕を右から左に半円を描くだけで避けれる。

 相手は自身の力とハルバードの重さで地面をぶっ叩く。そうして素早く間合いを詰めて兜の合間に鋒を突き付けてチェックメイト。


「そこまで!」


 ハルバードの次は弓矢だった。マジかよ。

 私は審判を見る。審判も驚いた顔をして展覧席の女王を見た。女王は頷くだけだ。


「位置に!」


 距離的には矢を一撃避けたら私は間合いを詰めてギリギリか?

 なんて考えていたら騎士は左手に矢を三つと握る。なんだそれ?構えの合図で弓を横に構えて番える。はー?初めて見る構えだぞ?

 困った。取り敢えず鞘を抜いて左手に持つ。


「始め!」


 その合図で矢が飛んでくる。普通に反射神経で叩き落とす。鞘で。次の瞬間には矢が番えられており、何なら既に引き絞られていた。

 それに気がついたのは矢が放たれる直前だ。そして、放たられる矢。ヒューンと風を切り飛んで来る矢。狙いは大雑把ゆえに避け易い。体を左に半身捻ると先程まで右胸があった位置を矢が抜けていく。

 そして、その矢が脇を通り抜けている瞬間には最後の矢が矢張り番え、引き絞られている。私は左右に避けた時点で剣を大きく横に振り、上半身の動きを大きくとる。

 狙いは足元になる筈だ。案の定、矢が放たれるまでに一瞬間があり、下半身狙いの矢が飛んで来る。

 私は一回転しつつ鞘を投げつけ、もう回転しつつ飛んできて剣の腹で矢を叩き落とす。

 投げ付けた鞘は騎士の腕で払い除けられている。騎士は手にしていた弓を脇に捨て、腰の剣を引き抜く。


「……騎士の癖に剣に慣れていないな?」


 構えが初心者の域を抜けた位だ。動きもだ。


「まぁ、弓兵だからなのだろう」


 煽ってみるが反応は無い。

 弓兵は仕掛けて来ない。待ちが得意。


「……ふむ、成程」


 仕掛けてみるかな。

 ゆっくりと近づいて行く。騎士は少し驚いた様子で、剣をしっかりと構え直した。ビビってるのか?右手に持った剣を手の中でくるくる回して審判を見る。


「どうかしましたか?」

「私の勝ちで良く無いか?

 見ろ、逃げているぞ」


 審判を巻き込んでの挑発。この好青年は近衛騎士団のお偉いさんだと思う。

 好青年は弓兵を見た。弓兵は暫く好青年と私を見比べそれから意を決したように私に切り掛かってきた。


「馬鹿奴」


 大振りからの袈裟斬りを目指した一太刀。私は右手に持った剣を脇に捨て左手を構える。振り下ろされる剣に合わせて剣の腹を右から左に押して去なしつつ、右前半身をとる。半身が完成するに合わせて開いた左手で弓兵の左手を掴み、右手で背面を抑えていわゆるハンマーロック。

 足を絡ませて前面に押し倒し、右膝で押さえ込む。


「普段はナイフも持っているから此処でお前の首に刺して終わりだ、馬鹿奴」


 暫く待つがそこまでと掛からない。しょうがないので後頭部を掴んで兜を地面に叩きつける。何度か、思いっきり。


「な、何をしている!?」

「アンタが試合終了を掛けないからだろう。

 試合が終わらないなら対戦相手を気絶させるしかない」

「そ、そこまで!!止めろ!」


 試合終了が掛かるので背中から退く。

 さて、3人と戦ったしもう帰れるやろ。


「まだあるの?」


 鞘を拾い、剣を納めて腰に帯びる。弓兵はよろよろと立ち上がり、弓と剣を拾うと去って行く。


「次で最後です」


 面倒臭い。もしかして私が負けるまでやるんちゃうかこれ?

 次に出てきたのはマントに中々に重厚な鎧、大きな盾とロングソードを持った重装騎士だった。絶対近衛の上の方の人じゃん。面倒臭い。ここらで負けとくか。


「位置について」


 鞘から剣を抜いて開始線に立つ。

 向こうも普通に盾を構え、完全警戒だ。それから始めと掛かる。


「でりゃぁぁ!!」


 重装騎士は盾を構えながら突っ込んできた。

 あれで吹き飛ばされたフリをして負けよう。虚を突かれたフリをして剣を慌てて構える仕草をし、その瞬間に軽くジャンプ。その瞬間、盾が凄まじい勢いで繰り出されるのでそれに軽く顔面をぶつけて鼻血をだしつつ盾を蹴って後ろに飛ばされる。

 受け身は敢えて最小限。凄い腕力だから序でに剣も飛ばしておこう。剣を放り投げ着地の瞬間のみ受けを取り、後はゴロゴロ。

 そして、暫く動かないと駆け寄って来た重装騎士が剣を突き付ける。

 そこまでと言われた。

 やれやれ。すぐに起き上がり鼻血を拭うと重装騎士が手を差し出していた。


「派手に吹っ飛ばしてしまったが、大丈夫か?」

「ええ、何処も怪我をしてないので。

 これで帰れますか?」


 ブラウスやズボンが中々に汚れとかで酷いことになった。母親に怒られるだろうか?

 剣を拾い上げ、鞘に納める。


「合格だ。

 お前は今日から近衛騎士団の近衛騎士とする」


 展覧席から女王がそんな事を言い出した。女王が喋るので全員その場に傅く。非常に嫌なのだが?

 普通に地方騎士の娘としてそこそこの旦那先に嫁いで楽な一生を暮らすのばかりだと思っていた。男と付き合うのはごめん被るしキスとかもセックスなんか絶対しないと思ってはいるが、騎士やってやっかまれるよりはマシだろう。

 強すぎるから本当に恨まれる。やめて欲しい。私の強さはチート譲りのゲーム基本だ。

 しかし、女王がやれと言うのだから国民は分かりましたと頷くより他ない。

 試合を終え、控え室見たいな場所に行くと父親が居た。一緒に来て別室にて待機していたのだ。


「父さん。近衛騎士団に入団することになったわ」

「何!?本当か!!」


 父さんが大喜びをしたのも束の間ハッと我に帰る。


「母さんに怒られるぞ……」

「その時は女王陛下の名前を出せば?

 逆らったら首を刎ねられるんだもの。しょうがないわ」

「な、成程。

 その線で行ってみよう」


 大丈夫かよと思いつつ取り敢えず私の当面はこの晴れ着よ。


「失礼する」


 そんな言葉と共に扉が開かれ重装騎士と好青年が入って来た。


「先ほどは大丈夫だったか?」


 重装騎士はエルフの様な耳を持っていたが口は魔族の様な牙の様な歯が見えている。


「ええ、大丈夫です」

「なっ!?お前!ドラクロア様と剣を交えたのか!?」


 父親が私を見てワナワナ震えていた。


「ドラクロア?

 この方がですか?」

「そうだ!近衛騎士団最強と誉れ高い副団長!マグナリア・ドラクロア様だ!」


 一階の地方騎士たる父親は普通に傅いていた。やはりお偉様だったか。


「そう畏まらないで頂きたい。

 大層な肩書きは持っているが武しか知らぬ猪武者。先程も御息女を盾で殴りつけて吹き飛ばしてしまった」

「負けたのか!?」


 父親が驚いた顔でこちらを見ていた。


「だって、3人ボコしたら強そうな……ドラクロア様が出て来たからめんどくさくなって吹っ飛ばされたフリをしたのよ。

 怪我も鼻血以外しないように確り受け身を取ったわ」


 ほら、と体を広げて見せる。


「わざと負けたのか!?」


 ドラクロアが叫ぶ。


「ええ、あのままやっていたら続々と騎士出てきそうだったので。

 それに剣一本でガチガチに固めた騎士相手に戦うのって死ぬ程面倒臭いんですよね。

 だったら三連勝したしまぁ、負けても大して文句言われないだろうなぁと思って負けました」

「ならはフル装備で戦えば私に勝てたと?」


 ドラクロアが私を見る。


「んー……お互いに無傷で終えるのは無理です。私、そこまで技量ある方じゃないので本気で殺しに行かねばならなくなります」

「ならば私を殺しに来い」


 何言ったんだこいつ?ドラクロアの渾名は不死身のドラクロアだったか?幾多の戦場で無敗を誇り剣奴から近衛騎士団副団長の地位にまで登り詰めた立志伝中の人だろう。


「貴方を殺したら私は国を追われる」

「ドラクロアは本当に死なないんだよ。

 彼女は一日に命が三つ与えられる。そう言う精霊の加護に守られているんだ」


 それは呪いでは?


「なるほど」

「腕を千切られても、くっ付ければ治る。

 傷の回復も他人より早いぞ」


 化け物だな。


「まぁ、真剣勝負はまた別の機会に」

「因みに私に勝ったことある者は世界に3人しかいない。1人は不死王、次に冥王龍、最後に聖剣の渾名で知られる我が近衛騎士団騎士団長のアルトリウス・ペンドラゴンだ」


 ドラクロアが傍に立つ好青年を紹介した。

 近衛騎士団長は若いとは聞いていたが本当に若いな。


「僕もいつか君と手合わせしたいな」

「はぁ、機会があれば」

「あるさ。

 君は今日から近衛騎士なのだから」


 ようこそ近衛騎士団へと言われる。

 どうやらこんな簡単に入団できるらしい。


「ふむ、なるほどね」

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