第2話 理由

 吉川拓実は私を見て、逆に驚いていたのだ。


「なんで?

 もしかして時のペンダントを持っている?」

 

 そう言って、大事そうに光るペンダントを見せてくれた。

 それは小さな精密機械のように見えたが、その中心には綺麗な小さな石がいくつか付いていたのだ。


「何それ。

 私が付けているのは、おばあちゃんの形見のペンダントだけ。」


 私が持っているペンダントには楕円形の大きな石が付いていて、彼が持っているものとは全く違うのだ。

 しかしよく見ると彼が持っているペンダントの石と、同じように私の胸元の石も光って見えたのだ。


「なるほど、その石が反応したのか・・・」


 そう言って、私の顔を見ると納得したように頷いていたのだ。


「それで、どういう事なの?」


 私はこの状況の納得がいく答えが欲しかったのだ。


「まあ、落ち着いて。

 周りの人達が動かないように見えるのは、僕達だけ時間を引き伸ばした世界にいるんだよ。

 つまり、他の人にとっては1秒でも僕らにとっては1時間になるんだよ。

 これを使う事でね。

 普通は身につけている者だけに作用するんだけどね。

 きっと君の持っているペンダントの石は僕が持っているものと同じ成分なんだよ。

 こんな大きな『時の石』の結晶は初めて見るよ。」


 そんな事をいきなり言われても納得がいくはずはないのだ。

 おばあちゃんの形見だから持っていた石であり、この石について何の情報もないのだ。

 しかし、今起きている現象が私の常識を超えた事であるのは事実なのだ。


「だとして、君は何をしているの?」


「この世界の植物のサンプルがほしくてね。

 この引き伸ばした時間の間に上手く作業をしようと思ったんだよ。

 そこに君がきたんだ。」


 そう言って、落とした葉を拾い集めたのだ。


「この世界ってどういう事?」


 彼は少し微笑みながら話した。


「信じてもらえないかもしれ無いけど、僕は未来から来たんだ。」


 正直、未来という言葉が出てきても、私はひどく驚く事は無かった。

 すでに、この状況全てが驚きであるからだ。


「僕は国の研究機関に所属しているんだ。

 実は僕の時代には自然は殆ど破壊されていると言っても過言では無いんだ。

 まあ、それも自分達人間が悪いんだけどね。

 殆どの植物が絶滅した後に、やはり自然を復活させようと頑張ってはみたけれど、上手く行かないんだよ。

 科学技術は発展したのに何故か自然は取り戻せなくてね。

・・・それで自然を取り戻すために過去に行くプロジェクトが始まったんだ。

 過去に行き、植物のサンプルを持ち帰る事で自然を復活させるというね。」


「でも、君は私と同じくらいの歳よね。

 働いてるなんて変だわ。」


私の常識から考えるとおかしい事を指摘したが、彼は笑って答えた。


「ああ、僕の時代は飛び級が普通だから、15歳でも研究の仕事についている人が少なく無いんだよ。」


 何だか夢みたいな話だけど、これが現実なら私は一つお願いしたい事があったのだ。


「あの、この時間をもう少し伸ばす事は出来ない?」


「出来るけど何で?」


「ちょっと行ってみたいところがあるの。

 付き合ってもらっても良いかな?」


 私は彼に1時間ではなく3時間まで時間を引き伸ばす事をお願いしたのだ。

 すると、彼はペンダントをいじって何やらセットしたのだ。

 するとさっきは気付かなかったが、私が身につけている石が、温かくなったかと思うと、優しい光を放ったのだ。

 同じように彼が持っている機械のようなペンダントも光ると、彼は私を見て微笑んだのだ。


「どこに行きたいの?」


「海!

 ずっと行きたかったの。

 4階の窓から外を見るといつもキラキラ輝いていてね。」


「ふーん、いつでも行けそうなところだけどね。」


 彼はそう言って、一緒に海に向かってくれたのだ。

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