第34話 後半は王の視点
高熱で意識がもうろうとする中、ずっと謝っていた気がする。でも、それは一体何にたいしてだったのだろう。スキルをうまく認められない神様に対してなのか、拒絶したくせに舌の根も乾かないうちに頼った聖騎士に対してなのか、約束を守れなかったマリーさん、ルイさんに対してなのか、また迷惑をかけてしまったセンタリア商会の皆に対してなのか。そのすべてに対して、なのか。
「フィーア、つらいね……。
すぐ下がるからね」
優しく頭をなでてくれる感覚がする。それに対しても私は謝ることしかできなかった。声の主はそんな私に困ったように大丈夫だから、と話しかけてくれる。私にかけられる声の種類は変わっていく。
「フィーアさん、早く良くなってくださいね」
たまに額がひんやりとしたり、冷たい水が流し込まれたりするから、きっと誰かが私の面倒を見てくれているのよね。早く起きなくちゃと思うのに、瞼は思ったようには持ち上がってくれない。体がとても重く感じる。
ふっ、と意識が浮かび上がったとき、周りに人の気配はなかった。今はもしかして夜なのかな。そんなことを考えていると、先ほどまで確かに気配はなかったはずなのに、すぐそばに誰かが立っていた。その人は私の頭をゆっくりとなでてきた。
「フィーア様、安心してください。
私が解決いたしますから」
聖騎士様……。あんなにもひどいことをしたのに、どうしてこの人はこんなにも優しくしてくれるのだろう。ううん、理由はわかっている。わかりきっている。どんなに嫌がっても私がスキルを発動してしまうように、結局は運命から逃げられないのかな。
「今はゆっくりとお休みください」
冷たい手で、最後に瞼を一撫ですると人の気配は去っていく。この人はこれから、王城に行くのだろうか。私の願いを叶えるために。パルシルク殿下を助けるために。ああ、私はきっと私の運命を受け入れるべきなのだろう。
神様に与えられたこのギフトで視れることは、基本的には変えられる未来で。先に知っていれば救えた命は、救われるべき命で。それを見捨てるのならば、私はきっと人殺しにも等しい。そんなことわかっていた。だから、人の命に係わることでは黙っていられなかった。そんな中途半端な状態で、いつまでいられるのだろう。この自由はいつまで持つのかな。
初めて、この暖かで幸せな夢の終わりを明確に意識してしまった。でも、パルシルク殿下の命が無事に救えたのならば。もう少しだけ、いいかな。もう少しだけ……。
ここの人たちが私の正体を知ったときに
聖騎士が訪れた次の日、私はようやく目を開けることができた。結構長い時間寝ていたような気がしたけれど、2日間くらいだったらしい。マリーさんも約束の日にお見舞いに来てくれたよう。今度ちゃんとお礼しなくちゃ。結局リミーシャさんにもらった休日は部度の中で過ごすことになりそう……。
そして、12の月14の日はその休みの中の一日だった。そのあと、マリーさんと約束を結びなおすことなく、ひたすらその日の訪れを待つことになった。
―――――――――――
「パルシルク殿下が狙われています」
ミールフィ領に向かわせていた聖騎士が、馬を駆けさせて急に戻ってきたと思ったら短くそう告げた。その言葉に頭痛がする。
「どういうことですか?
わかるように丁寧に説明を」
衝撃が大きすぎて私が声を出せないでいると、宰相が落ち着いた声で聴いてくれる。今はそれがとても助かる。聖騎士は無言でとある手紙を懐から取り出した。その手紙は見覚えがあるもの。
「まさか、見つけたのか……?
『神の目』の少女を」
私の問いに聖騎士は答えない。最近に似たような反応を見た気がするな。
「フェルベルト殿!」
宰相の鋭い問いかけに、聖騎士はようやく口を開いた。
「『神の目』の少女は、わが主は見つかりました。
ですが、本人は見つかることを望んでおりません」
「なんてことだ……」
思わず口から言葉が漏れる。だが、この状況をそれ以外どう言い表せばよいのだろうか。こんなことは一度もなかった。やはり、先代の影響なのか……。
「とにかく一度話してみるだけでもできないのだろうか」
「望んでおりませんが……、陛下が話をしたいと望んでいることはお伝えします」
「ああ、頼んだ。
それで……」
手紙を確認していた宰相に視線を向ける。宰相は青い顔をしたままこちらに手紙を渡してきた。それを受け取って中身を見ると、そこには端的に深夜にパルシルクに下手人がむけられること、その日付、主犯の特徴や実行犯と思われる人物の特徴が書いていた。その文字は、以前見た少女失踪の際投函された手紙と同じものだった。これを聖騎士が直接持ってきたのだ、やはりあそこに『神の目』の少女はいる。そして、おそらくユースルイベはそれが誰か気が付いているのだろう。
「早急に対処をしよう。
団長を呼び、騎士団の配置の見直しを。
そして、その日はユースルイベは離宮にいてもらう」
「かしこまりました」
「私も、パルシルク殿下の警護に当たりましょう」
聖騎士に告げられた言葉に、私も宰相も一瞬動きを止める。『聖騎士』が、パルシルクを守るだと?
「殿下に万が一があれば、わが主が気に病まれます」
その言葉になるほど、とうなずく。『神の目』の少女が安全な場所にいるのなら、その心の憂いを取り除くことを優先して動いてもおかしくないだろう。それに『聖騎士』が護りに入ってくれるのならば心強い。
「協力、感謝しよう」
狙われるパルシルク自身も強力なスキルを持っている。きっと大丈夫であろう。ただ、実行犯と思われるものの特徴が気になるな……。感情がない人形のように見える、殺し屋。雇ったものが『催眠師』などの精神干渉に特化している可能性も、本人が『暗殺者』など、暗殺に特化している可能性もある。今はとにかく護りを固めなくては。もう時間がない。
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