あなたは神を信じますか?
takahiro
短編
日曜日の昼下がり、場所はボロアパートの二階、自宅の玄関先。
「あなたは神を信じますか?」
優しそうな初老の男性が俺に問う。
俺は少し困惑しつつ、
「…いえ。」
一言だけ返す。頭の中ではどうやって早く帰ってもらうか考えるが、なんせ勧誘されるのなんて初めての体験なのでどうしたものか、と思っていると
「そうですか。では、また伺います。」
そう一言言い残し男性は帰っていった。
玄関の扉を閉め部屋に戻る。勧誘なんてこんなにあっさり帰るものなのか。よく聞く噂だと長々と玄関先で話をされて、興味が無いと言っても聞かずに話を続ける印象を持っていた。きっと今回は運が良かったのだろう。そもそも、ネット通販で頼んだ物が今日届く事になっていなければ、わざわざ出なかっただろう。その時インターホンが鳴った。モニターを見たら次は宅配のお兄さんだった。
「今出ます。」
俺は玄関に向かった。
その日の夜、俺はコンビニに向かった。家からコンビニまでは意外と距離があり、10分ほど歩かなければいけない。本当ならわざわざ夜に歩いてコンビニまで行くのも面倒だがタバコが切れてしまったのだから仕方ない。家からコンビニまでの道のりは、街頭も少なく、人通りも少ない為とても静かに感じる。ちょうど家とコンビニの中間辺りにある神社を通りすぎる。ふと、昼間の出来事を思い出す。
「あなたは神を信じますか?」
初老の男性の言葉だ。日本では宗教と言う単語自体、若干敬遠されがちな所もある。渋谷のスクランブル交差点でスピーカーを持って放送を流している人達や、宗教勧誘の為に家に来て長話をしていく人。多くの人達は、宗教そのものを敬遠しているのではなく、宗教を信仰している人に向けられた感情なのではないだろうか。よく考えてみれば宗教を敬遠している癖に、困った時には神頼みしてみたり、新年が明ければ初詣にも行き、クリスマスをイベントとして楽しんでいる。ある種これも宗教を信仰していると言うことではないのか。そんな事を考えていると内にコンビニに着く。飲み物のコーナーでブラックの缶コーヒーを一つ取り、レジでタバコを買い、外に出る。コンビニの端の方に置いてある灰皿の横で買ったばかりのコーヒーとタバコを開け、火をつける。さっきから、頭の中で初老の男性の言葉が引っ掛かっている。自分が今まで意識していなかっただけで、自分達の生活に根付いている神の存在が分からなくなってくる。自分は宗教を信仰していないと思っていること自体が、絶対的、高次的な何かに支配されているのではないか。この考え方こそが神にとらわれているのではないか。思考が堂々巡りになってくる。気づけばコーヒーは空になり、タバコは五本目を吸い終わっていた。こんなに頭を使ったのは久しぶりだ。家に帰る為暗い道を歩き出す。
歩きながらもどこか頭でさっきの事を考え続けている。コンビニに向かう時にも通った神社が見えてくる。先程は通りすぎたが、神社の鳥居の目の前で立ち止まる。この神社は境内に入ると、すぐに階段があり、階段を登った先に拝殿がある。拝殿を見ても、堂々巡りになっている思考が解決する訳ではないことは分かっている。分かっているのだが俺は境内に入り、階段を登っていく。五十段ほどの階段を登り、拝殿が見える。目の前まで歩いていき、そこで止まる。分かっていた事だがなんともない。少し拝殿の周りを歩き、帰る為に拝殿に背を向け、階段に向かう。
「あなたは神を信じますか?」
後ろから男性の声が聞こえた。
あなたは神を信じますか? takahiro @dorabure1014
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