第11話 結婚指輪と知恵袋

 買出しは完了。そのまま車へ戻り、親父に送って貰った。


 時刻は十九時。思いのほか、モンキーホーテで時間を食った。外はすっかり日が沈み、静かな夏の夜を迎えていた。


 車は、駅前にある高層マンションで停まった。


「今日はありがとう、親父」

「構わんさ。それより、二人でしっかりやるんだぞ」

「おう。じゃあ、また」

「あぁ、そうだ。ひとつ忘れていた」

「なんだ、親父?」


 親父は、小箱を手渡してきた。

 なんだこのてのひらサイズの箱。

 開けてみると、中には『結婚指輪』が入っていた。――って、指輪!


「お前らがモンキーホーテで長々買い物している間に、私が買っておいてやったよ。ちなみに、奮発したから結構高いぞ、それ」


 モンキーホーテは雑貨もあるから、指輪やネックレスなども当然売っている。本当になんでも売っているからな、あの店。だから、ついついあっちこっち回ってしまった。親父は、気を利かせて指輪を買っておいてくれたんだ。


「ありがとう、親父。気づかなかったよ」

「だろうな。せっかく結婚したんだ、ちゃんと指輪を渡してやれ」

「ああ……本当にありがとう」


 親父には感謝しても、しきれないな。その後、遥も親父に対し、丁寧に頭を下げて礼を言った。


「ありがとうございました、遙くんのお父さん」

「遙を頼んだぞ、遥ちゃん」


 親父は、ニッと笑い行ってしまった。


 急に静かになって、俺の心拍数の上昇が認められた。指輪も渡さなきゃだし……二人きりになってドキドキしてきた。


「どうしたの、遙くん」

「いや、その……本当に住むんだなって」

「結婚したんだもん、当たり前だよ。それとも嫌?」


 拒否ったら許さないよ、みたいな目線を向ける遥。なんか、結婚してから少し性格変わったような。もしかして、遥って相手を縛りたいタイプか? さっきもカッターナイフを向けられたし、そうなのかな。



「嫌なわけないさ。それより、荷物は俺が持とう。行くぞ」

「うん、良かった」



 そのままエレベーターへ向かい、40階の部屋へ。ようやく帰宅を果たし、そのままキッチン向かった。モンキーホーテで購入した品々を整理していく。


「遥、ご飯どうする?」

「わたしが作るよ。その間に、遙くんはお風呂へ入って」

「いいのか? 俺も一緒に作るけど」

「今日はいいの。記念すべき日だからさ、ご馳走を作っておくから」

「それは嬉しいな。俺もあとで遥にプレゼントがある」


「え、プレゼント?」


 期待の眼差しを向けられ、俺はドキッとする。まさか、遥ってば指輪を期待しているのか。どうしよう、今渡そうかな。絶対、今がタイミングだよな。でも、料理をご馳走してくれるって言ったし……俺は日和ひよった。後でもいいかっ。


「あ、後でな」

「うん、分かった」


 俺は逃げるようにバスルームへ。

 風呂へ入った。



 * * *



 相変わらず、遥の家の風呂は快適だ。

 夜景も見えるし、なんて空間だ。

 スマホをいじっていればあっと言う間に三十分が経過していた。今日も世界情勢を頭に叩き込み、緊張を解した。


 ――そう、俺はずっと動悸が止まらなかった。


 思えば、今日一日ドキドキしていたような気がする。でも今はもっと酷い。このまま爆発しちゃうんじゃないかと、それほどに胸が苦しかった。


 どうする……。

 どうやって指輪を渡す!?


 まさか、結婚指輪を渡すのがこれほど難易度が高いとは思わなかった。しかも、ただ渡すだけではない。左手の薬指にはめてやらないと。そこまでが礼儀であり儀式だ。


 それだけなのに、俺は緊張に支配されかけていた。緊張は、次第に不安にもなり……マイナス思考が働き始めていた。


 拒絶されたらどうしよう……とか。そんな風に考えてしまう。


 とうとう不安に襲われた俺は、スマホの検索サイト『ヤッホー』の知恵袋を使ってみることにした。このサービスは、投稿者の質問や悩みを別のユーザーが解決してくれるサービスだ。俺は、質問を投稿してみた。



「結婚指輪を渡すタイミングはどうすればいいですか? ――と」



 すると数分後には返信が返ってきた。



投稿者:ブンブンさん

『そんなもんは投げ捨てろ!』



 あー…、知恵袋に質問した俺が馬鹿だった。しかし、もうひとつ返信があった。



投稿者:大桜さん

『彼女は、いつでも待っていると思いますよ。勇気を出して』



 おぉ、まともな答えも返ってくるものだな。そうか、いつでも待っている――か。この投稿者・大桜さんの言葉を信じてみよう。うん、なんだか背中を押されたなあ。この人をベストアンサーにしておく。お礼のコインも500枚だ。



「――よし、がんばって指輪を渡そう」



 俺は風呂から出て脱衣所へ向かったのだが――そこには丁度、遥がいた。



「え……」

「あ……」



 すっぽんぽんの丸裸の俺は石化した。

 それは遥も同様で――俺の下半身を凝視。目を丸くし、爆発しそうなほど赤面して見つめていた。そんなマジマジ見ないでくれよぉ。



「遥……スマン。いるとは思わなかったんだ」

「わ、わたしの方こそごめんね。タオルを置いておこうかなってね」


 そうだったのか。それで手にスマホを握って……ん? あれ、あの画面に映し出されているのって『知恵袋』じゃないか? なんで? 誰かに質問していたのかな。う~ん?


「なあ、遥、もしかして」

「な、なんでもないよ。はい、タオル」


 困った顔をして遥は、脱衣所から出て行った。俺の息子がそんなにグロかったんかな。てか、女子に始めて見られた……そんな苦笑いな反応をされるとは、トホホ。


 つーか、恥ずかしいィィ!!



***おねがい***

 続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。

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