第12話 愛情たっぷりの手料理

 ちょっと気まずい空気が流れたような気がした。けれど、それは俺の気のせいだったらしい。遥は、思ったよりも元気で、でも顔はイチゴのように赤かったけど。


 リビングへ戻ると、すでに料理が並んでいた。おぉ、これはオムライスか。豪華な盛り付けがされていた。しかも、ハートマーク付き! お皿のふちにも『LOVE』の文字。さりげないサービス精神に、俺は嬉しすぎて涙しそうになった。


「大丈夫か、遥。顔が爆発しそうだぞ」

「そ、それはそうだよ。さっき遙くんの裸見ちゃったし、それに……それに」


 それに、このハートマーク。ラブを示すスペシャルな印。まるでメイド喫茶だな。もしかして、遥って利用したことあるのか。それとも見様見真似か。


 どちらにせよ、これはズルい。

 こんなの100%惚れてしまうだろう~!

 すでに惚れてるけど。


 さっき裸を見られた記憶が吹き飛ぶようだった。



「お、落ち着け、遥」

「う、うん。その、さっきはごめんね」

「そのことは水に流そう。それより、凄い豪華だな。食欲そそる良い匂い。オムライスにハッシュドポテト、サラダも美味そうだ。遥のガチ料理か」


「腕によりをかけて作ったからね。食べよっか」



 ふかふかの座布団に座り、料理を前にする。遥も隣に座ってきた。しかも、まったく気にしていなかったけど、遥は薄着のシャツにジョギングとかで穿くようなレディース用ショートパンツという軽装姿だった。


 手足を大胆に露出し、胸の強調も激しい。こうして間近にするとデカいし、立派だった。遥って巨乳だったんだな……知らなかった。


 ――いや多分、今まで緊張しすぎて見ようとしなかっただけかも。さすがに至近距離ともなると目のやり場がない。



「お、おう。今は料理だな」

「ん? そうだね。いただきますっ」

「いただきます」



 きっちり手を合わせ、銀のスプーンを持った。

 まずはハートの刻まれた黄色いオムライスだろう。俺は、スプーンでオムライスを割った。すると、中からトロトロの半熟卵がこぼれ出た。


 すげぇ、トロトロ。

 こんな優しく雪崩れ込む半熟は、プロの料理人級だ。すげぇ、すげぇよ遥。これほどのオムライスを短時間で作ってしまうとは――まさに結婚記念に相応しい愛のこももった料理だ。


「どう、凄いでしょ?」


 ドヤ顔の遥さん。ああ、これは凄い。高級レストランとかで出てきてもおかしくないクオリティだぞ。三千円は取ってもいいと思う。というか、こんな嫁さん取れて俺は幸せ者だな。


 いやだけど、まだ肝心かんじんな味を確かめていなかった。



「黄色い卵がふわとろだ……食べてみる」

「うん」


 まずは一口放り込む。

 舌の上でゆっくりと味わう。

 すると、オムライスの卵とライスが奇跡のバランスをもたらし、俺の脳内をただただ幸福にした。


 あぁ、満たされていく。

 

 ……うめぇ。


 手が震えるほど美味かった。

 人生でこれほど濃厚で味わい深いオムライスを食べた事がない。男だったら、絶対に好みの濃い味付け。分かってるねぇ、遥。


「……うぅ」

「ど、どうしたの、遙くん! そんなボロボロ泣いて……も、もしかして不味まずかった? ごめん、今すぐ別のを……」


「違うんだ! 遥、めちゃくちゃうめぇよ、これ!」



 俺はもうスプーンが止まらなかった。

 マナーとか気にしている場合ではない。

 ガツガツとオムライスを口の中へ放り込み、幸せを噛みしめた。……あぁ、生きていて良かったぁ。てか、こんな遥みたいな美少女に手料理を振舞ってもらえるとか、それだけでも幸せ。


 至福……!

 圧倒的、至福だっ……!



「良かった~…。遙くんが泣きだした時はビックリしちゃったよ。美味しいから泣いたんだね?」

「ああ、美味すぎて泣いた。これが幸せかぁ」



 その後は、テレビのバラエティ番組を見ながら食事を進めた。恍惚こうこつになるほどガチのガチで美味かったので、あっと言う間に平らげてしまった。


 あのオムライスは、また食べたいな。それに、ハッシュドポテトもカリカリでクセになる塩味が最高だった。サラダは和風ドレッシングが実に俺好みだった。まるで遥は、俺の味の好みを知っているかのようだったな。たまたまだろうけど。



「これでも料理は大得意だからね」

「プロ級の腕前だぞ。どこで覚えたんだ?」

「ママに教えて貰ったんだ。ママは、レストランを経営しているからね」


 マジかよ。そりゃあ、遥も料理が得意なわけだ。お店レベルなのも納得がいった。もしかして、俺の予想以上に遥のスペックは高いのかもしれない。そもそも、容姿レベルがズバ抜けているけど。



「親も凄いな。じゃあ、父親は何をしているんだ?」

「パパは、大手検索サイト『ヤッホー』の社長」


「へえ、ヤッホーねえ……へ?」


 まて。

 まてまて。

 まてまてまて。


 今、遥さんはなんと!?


「え、なんか変なことを言ったかな」

「遥……お前、ヤッホーの社長の娘なの!? まさか、金持ちなのもそれで……」

「うん。パパって、昔は日本のあちこちを転々としてたの。今はアメリカにいるけどね」


 ――なっ!!


 ま、まさか……まさか、さっきの『知恵袋』も。……あ、あ、あぁぁぁッ! そういえば、俺がしたあの質問。


 投稿者の名前が【大桜】だったぞ。

 これって、もしかして小桜・・のアカウントでは? すると、なんだ……俺の質問に答えてくれたのは、ひょっとして――遥なのか!?



 うそ、うそ、うそおぉぉぉ……!!

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