第2話 予感

 わたしと神グループ「第六章 ストマックエイク」の出会いは、小学6年生の時だ。


 お父さんの転勤で、福井県から東京に引っ越した。


 なにも、そんな時期に引っ越しなんて。

 お母さんはそう言ったけど、わたしは別に寂しくはなかった。だって、学校が変わるだけだし、もとからそんなに友達なんていなかったし。わたしね、家で動画やアニメみる方が好きだし。


 だから、場所なんて――別に。


 それに、大きな会社で働いているお父さんが、転勤を断れるはずないってわかってるしね。


 まあ、そんなこんなで、多摩川を越えた場所に引っ越してきたわけ。そんな時、たまたま動画で彼らを見つけちゃったのよ。


 そのビジュアル。その歌声。そのパフォーマンス。


 まさに金のたまご。まだ人気はそこまでなんだけど、絶対、これからテレビとか色々出まくるはず。もしかして、わたしが最初に発見したってやつ?


 全曲、動画配信されてるから、もう食い入るようにリピートしてしまった。彼らを発見した時から、わたしの世界は変わったね。別に大げさなんかじゃなくて、ほんとに。


 学校なんて、別にキライじゃないけど特に好きでもない。まあ、ようするに面白くなかったけど、なんだかクラスメイトが子供ぽく見えちゃった。

 わいわいおしゃべりしている女子たちの話題がつまらなく思えた。無理に合わせようなんて思わなくなっちゃった。



 わたしはね――皆とちがうから。



「村山。ちゃんと授業聞いた方がいいぜ。女帝はまじでやばいからさ」


 そう、こいつみたいに子供じゃないの。


 話しかけてきたのは隣の佐藤。てゆうか、この名字ってクラスに3人もいるから紛らわしいんだけど。ありふれた名字のくせして、やたらとわたしに声をかけてくる。こいつとはいつもお隣どうし。家だって、わたしん家が201なら、佐藤は202。クラスだって小学校から同じ2組。しかも、ずっと席も隣。本気でイヤがらせじゃないかと疑ってます。


 頭も、運動も、顔も、ふつう。


 まあ、裸で走りまわる弟より、ちょっとお兄さんってだけ。


「宿題、忘れたなら、俺のプリント見せてあげるぜ」

「いいって」

 ほんとにいいって。そのおせっかい。



 勝手に皆みたいに笑ってればいいって。


 *


えみ

「ん? なに?」ずずっと夕飯のなめこ汁をすすりながら、だるそうにお父さんを一瞥。

「なんだっけ、えみが好きな、あのグループ。え~と……。スト……レッチャーズだっけ。三代目の?」

「ちがうし」と間髪入れず否定。

 第六章 ストマックエイクだって。答えるのもめんどくさいな。年とるのっていやだね。わかんない人は、わかんないし。

「今度の日曜日に希望が丘のショッピングモールでイベントするみたいだぞ」


 ん。


 ちょっとまって、それって。


 うっそ――――――っ!!


 びっくりしすぎて、なめこを吹き出しそうになっちゃった。


「なになに、なんでなんで」

「ほら」とお父さんは一枚のチラシを見せてくれた。ばっとそれを奪い取り、セール品が並ぶチラシの端っこに、ソレはあった。


『六代目ストマックエイク――緊急ゲリラライブ!』


 なんと、ショッピングモールの特設ステージで、彼らは新曲「BOG~Brave Of Grain~」を初披露するみたい。でかでかと告知しているから、ゲリラっていうのは多少引っかかるけど。しかも、じゃなくてだし。わざわざ多忙な彼らを呼んどいて、グループ名を間違えるなんて失礼じゃない。ファンはそういうのちゃんと見てるからね。まあ、でもいいや。今はそんな文字遊びなんてどうでもいい。


 つ、ついに、生でJUKIYAに会える……。


えみ、にやにやして気持ちわりー」

 この感激に、隣でから揚げを食べている弟が水をさす。

「うるさいわね。だいたい、変なのはあんたよ。ご飯食べるときぐらいパンツはきなさいよ」

「だって、あちーんだもん。今年はあつすぎるって」

「はあ」呆れてものも言えない。「それに、わたしのことはえみじゃなくて、お姉ちゃんでしょ。皆、そうしてるよ」

「皆って、だれよ」

「皆は、皆よ」


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