そわそわしちゃって ~PART1~

小林勤務

第1話 日常

「●●君って、イケメンだよね」

「△△くんの方がタイプかな。えっと、アレアレ、似てるじゃん、アレに」

「え。でも、◆◆君の方がよくない? すごく頭いいみたいよ」


 キーンコーン、カーンコーン――。


 お昼休みの終わりを告げる鐘が、今日も元気よく教室にひびきわたる。

 クラスメイトは午後の授業がはじまる前に、一斉に動きだした。あわててトイレに走る男子がいたり、教科書を忘れたことに気付いて青ざめる女子がいたり。わたしの周りはいつもばたばた忙しい。


 わたし? 


 わたしは別に動じません。


 午後の授業が、女帝で有名な数学の教師だろうが、関係ありません。


 ソッコーお弁当は食べ終わったし、自分の席で、校庭でも眺めながらリラックスしてたしね。もうね、わたしは皆と違うわけよ。時間に追われて、ばたばた授業に備える子といっしょにされても困るしね。


 だって――もう、中学1年でしょ。


 そういうのは小学校でおしまい。


 子供じゃないんだから。


 算数だって、呼び名が数学に変わるんだから、いつまでも子供じゃね。

 それに――さっき、となりの女子グループがきゃっきゃっとウワサしていた、男子の話? 誰それがかっこいいとか。はあ、これだから、まだまだ幼い女子は困っちゃうね。


 同い年の男子をそういう目で見るなんて、ありえなくない?

 だって、わたしから見れば、小2の弟となんら大差ないけど。

 ちなみに、うちの弟は幼稚園の頃からあいも変わらず、未だに裸で家中走りまわってるけど。当然、パンツもはいてないし。そんなもんよ、男子なんて。


 ようは、アホなの。幼い男子って。


 そうこうしてる間に、開始時間ぴったりにガラガラと扉を開けて、女帝がやってきた。

 わたしたちをじろりとにらみ、


「今日は25ページからね。予習は……当然、やってきてるわよね」


 皆はへびににらまれたカエル状態。言われた通り、遅れまいと机の上に教科書と宿題を置いた。


 ――と。


 あぶない、あぶない。

 宿題じゃなくて、の下敷きを引き出しから取り出すところだった。

 こんなの女帝に見つかったら……。

 夏だというのに、ぶるっと寒気が走る。

 すぐに没収されるにきまってる。

 だめだめ、そんなの。



 せっかく手に入れたんだから――


「第六章 ストマックエイク」の公式グッズを。



 ●●君がイケメン~?

 ふっ、なにそれ。リードボーカルのJUKIYAの方が数億倍かっこいいし。


 △△君が誰かに似てるう~?

 どうせ、しょぼいアイドルグループの誰かでしょ。リードダンサーのKAZUHIKOの中性的な顔立ちと、天然ボケのギャップを知れば、そんなセリフ恥ずかしくなると思うな。

 

 ◆◆君がすごく頭いい~?

 悪いけど、個性派ぞろいの彼らをたばねるリーダー、T-dashはアメリカのアーカンソー州出身で英語なんてペラペラ。なんだっけ? バイリンガール? なんかそんな感じで超頭いいし。


 それに、それに――。


「村山」


 ん? なに? なんなの、その名字。それって――。


「聞いてるか? 村山 笑むらやま えみ。この数式の正解は?」


 村山 笑むらやま えみって……。

 その名前、わたしじゃない!?


「は、はい」


 あわててがたんと立ち上がる。どこどこ、女帝が言ったのは、どこのページのこと!?


「誰も立って答えろとは言ってない。ちゃんと授業聞いてたか?」


 くすくす、時にぷぷぷ、あるいはゲラゲラ。たけのこのようににょきにょきと笑い声が生えてくる。


 今日も、皆に笑われた。


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