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翌日、ディランさんから譲り受けたノートを持って、学園に行くと、まだダミアン様は登校されてなかったのか、ダニエル様からコソッと声をかけられました。
もし困るようなら試験中、使い魔に御自分の解答用紙を見せてもいいけどと申し出がありましたが、それは人としてダメな気がして丁重にお断りしました。
せっかくディランさんが協力してくれているので、自分で頑張りたいと思います。
それを伝えると、ダニエル様からも“頑張って”と応援していただけました。
宣言した通りに努力しようと、歴史などの覚えなければいけないものは、ディランさんが小さなノートにまとめてくれたので、常に持ち歩いて時間がある時に眺めていました。
昼食後にテラス席でそれを開いていると、
「あら。ステラ、試験勉強?」
「はい」
「頑張っているわね」
私の手元を覗き込むお姉様は、今日も笑顔が溢れています。
アリソン様も、私のノートを見つめていました。
「よくまとめてあるわね。さしずめ、貴女の救世主となるノートってところかしら」
「これ、なんだか知り合いの字に似てるわ」
そこで、ひえっと、焦りました。
あああ!
そうでした!
筆跡!
「知り合いの方が、知り合いの先輩から譲り受けたものだと仰っていたので、もしかしたら、エステルさんの知り合いかもしれませんね」
これで誤魔化せたでしょうか?
「ああ、なるほどね。あり得るわ。その知り合い、家族のような幼なじみで、今は王都の騎士団に所属しているの。黙っていれば眉目秀麗で立派な騎士だけど」
眉目秀麗??
ディランさんの顔を思い浮かべました。
確かに整った顔立ちをされているとは思いますが、目つきが怖いので、そんな感想を抱く間もなかったです。
お姉様はディランさんの事を格好良いと思われているのですね。
「子供の頃から領地では人気で、家に帰るたびに女性に囲まれているわ」
ディランさん、そうなんだ……
騎士団も魔法士団も女性が少ないので、そんな現場には遭遇した事がなかったです。
「あ、女性関係は真面目なのよ?近いうちにステラを紹介できたらいいけど」
「えっ、いえ、騎士様など、緊張で窒息死してしまいます!ご遠慮させてください!」
「まぁ、確かにディランは目つきが悪いから、いきなりだと貴女を緊張させてしまうかもね。その前にもっと物腰の柔らかい人を紹介するわ」
「お気遣いなく!」
「あら、出会いの場を提供するの?私もその話に混ぜてくれない?」
後方からかけられた、その声の方を振り向くと、一人の女生徒が立っていました。
悠然と微笑み、気品を感じさせますが、それが余計に薄気味悪く感じて寒気がします。
お姉様の従姉妹のソニアさんです。
今は妙な魔力は感じませんが、どうしても警戒してしまいます。
「ソニア……殿下と一緒に勉強に励んでいたんじゃなくて?」
お姉様の言葉の響きは、普段の優しいものではありませんでした。
どこか冷たいように感じられ、お二人がどのような仲なのか窺い知れます。
「そんなに邪険にしないで。お兄様がエステルに会いたがっていたわ。今度二人で食事でもどうかって。それはそうとして、今日は、ステラさんと仲良くなりたいと思ってここに来たの。男性を紹介して欲しいの?よかったら、試験が終わった後に、私と一緒にゲーム会場に行かない?」
「ゲーム会場?」
「ちょっと、ステラをそんな場所に誘わないで。賭博場ってことでしょ」
「もう少し気軽な場所よ。ほんの少しのお小遣い程度で遊べるわ。カードゲームをしたりして、楽しく過ごす場所なの。素敵な男性がたくさんいるし、貴女も華やかな場所には興味があるでしょ?ずっと領地のお屋敷で療養していたのなら、田舎暮らしが長かったでしょうから」
こんなにわかりやすく怪しい場所に誘うものでしょうか?
それとも、普通の御令嬢だと、お誘いを受けるのが当たり前のことなのでしょうか。
でも、お姉様の反応を見る限りは、あまりいい話ではないようですし。
「ステラさん一人で不安だったら、エステルも一緒にどう?アリソン様は……お誘いできないのが残念ですけど」
「ソニアさんは、余裕ね。もう、試験が終わった後の事を考えているだなんて」
アリソン様も、厳しい目を向けていますが、ソニアさんの態度には余裕がありました。
目の前で火花が散っている様子に、オロオロする事しかできません。
もちろん、私はこの話をお断りしましたが、妙な空気のままこの場は解散となり、ソニアさんの姿を見たせいかしばらく落ち着かない気持ちになっていました。
夕方、植物園に家庭教師をしに来てくれたディランさんの姿を見て、やっと緊張から解かれたような状態でした。
あの人には関わりたくない。
できる限り離れて警戒して、ダミアン様との関係にも注視しなければと、強く心に決めました。
本来の役割りを意識しつつも、試験日まで続いたディランさんの家庭教師のおかげで、結果は、ちゃんと平均点近くを取る事ができて、やり遂げた感がありました。
その事を、ディランさんはもちろんのこと、お姉様やアリソン様や、ダニエル様も喜んでくれていました。
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