空は、いつまでも蒼い。

月 日向

私は空に恋をした。


六歳の頃、私は絶対に叶わない恋に落ちてしまった。







––––––––そして、あれから十年が経ったある日。



「真桜、あんたいいかげん彼氏の一人くらい作ったら?ずっと叶わない恋をしてるより、そっちの方がいいじゃない」

「そんなこと言われても……。無理だよ」


学校帰り、友達の結奈からついにそう言われてしまった。

私、神凪かんなぎ真桜まおはそう思いながら、そっとため息をついた。

私の友達、結奈がこう言ったのはわけがある。とても深いわけが。


……あれは、私がまだ六歳の頃。

最近引っ越してきたばかりで色々と不安だった時。私は、

意味がわからないかもしれないけれど、本当のこと。

街を探検していて、たまたま見つけた、神社の鳥居を潜ったその先にある小さなお堂。

私は、そのお堂の奥が気になって入ってしまった。

でも、その中は見た目とは全く違ってとても生活感のあふれる部屋だった。

誰かが住んでいるのかと思ったけれど、誰もいないから少しだけ探索していた時。



「誰だ。…なんだ人の子か。……何故この中にいる?まあ、すぐに送り届ければ大丈夫か」



後ろから全く知らない声が聞こえてきて、びっくりして振り返ると、そこにはとても綺麗な顔をした、着流しのような服を着ている男性がいた。

その人は澄んだ空色の目をしており、髪は白色で腰あたりまで伸ばしている。

とてもかっこよくて私は見入ってしまったけれど、すぐにハッとしてこう聞いた。


「あなたは、誰?」


そう問いかけると、その男性は少し考えるような素振りを見せてからこう答えた。


「空だ」

「空…空!」

「ああ。そうだ」


私はそう言って返事がもらえるのが嬉しくて、何度も名前を呼んで、呼んで。

ずっと呼んでいたら空はクッと笑ってこう言った。


「人の子は面白いな」


その時、私は絶対に叶わない恋をした。





「でもさあ〜。昔の恋をずっとその人に捧げてるって、すごいね。私だったら結構目移りするかも〜。……もしや、そんなにイケメンだったの?」

「もう、結奈ったら。まあ、確かに顔は良かったけど、あれはもはや人外の美しさって感じがしたし……。それに、約束、したから。目移りしないって」


空は、最後に私にこう言った。


『……十年後、絶対に迎えに行く。だから、絶対に目移りしないでくれ』


と。だから、私はそれを守るだけ。

十年が経った今でも彼のことを忘れた瞬間は一度もない。

それほど、私の想いは強いものなのだ。

たとえ、彼が私を迎えに来なくても。



––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––



「じゃあ、またね」

「また明日ね〜。…真桜、ちゃんと寝るんだよ?」

「ふふっ。結奈、お母さんみたい」

「もう。これでも真桜のこと心配してるんだからね!」

「分かってるよ」


私は結奈と別れた後、少し寄り道をすることにした。

もちろん、寄り道するのは空と出会ったあの神社だ。あそこは山奥にあるので人はこない。だから、空がいなくなった後もよくあそこに行ったりしていた。


「最近来てなかったからなあ……。あ、御神木……。懐かしいなぁ」


この神社には一応御神木があって、とても大きい。

だから、よくここで木登りもしたりしていた。


「空がいたらなぁ…」


物思いに耽っていると、いつの間にか神社についていた。

鳥居を潜って、お堂の前に行く。

そっと、心で思ったことをつぶやいてみた。


「会いたいよ……。空」


でも、誰の声も聞こえない。少し寂しく思いながら、歩を進める。

空に会えたらって、思ったから。



「呼んだか。真桜」



だから、その声は私の聞き間違いかと思った。

だって、そこに空がいるはずがないから。空は、いないはずだから。

いてほしい。いや、いてほしくない。でも、いてほしい。

そう思いながら、そっと後ろを振り向いた。

私の背後には………



「真桜、会いたかった。……迎えにくるのが遅れて、すまなかった」



空が、いた。

その瞬間、私は空に抱きついていた。

嬉しくて、涙も出てくる。

本当に、迎えに来てくれた。私を、覚えていてくれた–––––っ


「真桜、……愛してる」

「ひゃっ!?」


空に抱きついて泣いていると、空は私の背中に手を回して、耳に口を近づけてそう言った。

心地の良い低い声が耳元で突然聞こえたから、背中がゾワっとして思わず変な声が出てきてしまった。

そんな私の様子を見て、空はくつくつと笑っている。

ムッとしたけれど、空と出会えたことの方が嬉しい。


「やっと、迎えにきてくれたんでしょう?」

「ああ。やっと真桜を迎えられる準備が整った。これで、真桜を花嫁として迎えることができる……」

「ふふ。私、空に会える時を、ずっと待ってたの」

「ああ、私もだ。ずっとずっと、恋焦がれていた」


そう言って、二人でクスッと笑う。


「私たち、一緒のこと考えてたんだね」

「ああ、一緒だ」

「これからも?」

「ああ。これからもずっと」


そう言って、空は私の顎に手を添える。

今、私の目には空しか映っていない。

そして、もう、この感情を抑えなくていい。そう思うと、とても気が楽になった。


「真桜、愛してる」

「私もだよ。空」


そうして交わした口づけは、とても幸せな気持ちで溢れていた。








––––––––二人を見下ろす空は、どこまでも蒼く澄み切っていた。

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