Track 6. 最高の推し活
「
涙ぐみながら語るルナールを前に、類人は言葉を詰まらせる。
自分は何者でもない。何にも成れない空虚な時間を過ごしてきた。全ては叶わぬ夢のまま終わっていくのだと心のどこかで諦めていた自分を殴り飛ばしてやりたい。
こんな自分が誰かを照らしているなんて、思ってもみなかった。明るさばかりに気を取られて、自分を見てくれている人たちが見えていなかった。なんて自分勝手なアイドルなんだろう。なんて自分本位な努力だったんだろう。
食いしばる歯に気づいたルナールが、繋いでいた手をやんわりと
泣き笑いのような笑顔すら綺麗で、類人の胸は強烈に締め付けられた。
何か言葉をかけないと。そう思っても感情が上手く言語化しない。
呆然と振り返る一番星を見て、ルナールははにかんだ。
「ダンスもね、類人さんに憧れて始めたんだ。それに類人さんみたいな綺麗なロンダートを飛びたくて体操教室にも通ったし、いつか会えた時に直接お礼を言いたくて日本語スクールの授業も受けたんだよ」
幼い頃の類人が憧れたトップアイドルと、ルナールが見つけた一番星。
輝度は全く違うけれど、同じ星空で同じ夢を与えている。
「僕が推してきた四ノ宮類人は、歌もダンスも人並みで突出した才能が見当たらない超平凡な人。喋ったらボケもいまいちでツッコミも緩すぎてつまらないし、演技も名前のある役をほとんどやってないから上手いのか下手なのかわかんない。それから
「なんっだよ、それ……」
「ふふっ。だけどね……」
悪戯っ子のように笑ったルナールが夜空を見上げる。
東京の街を彩る光の中でも目に映る、冬の大三角。それを指でなぞって、いっとう光る星の下で二つのマリンブルーが波打った。
「みんな僕を一等星だって言うけど、僕が光って見えるのは全部類人さんのおかげ。類人さんは誰かを輝かせられる特別な人なんだよ。だから僕、百合子に声をかけてもらった時に誓ったんだ。僕が見つけた一番星をみんなの一等星に……――シリウスにしようって」
街を彩るイルミネーションに溶けて消えてしまいそうなプラチナへ、類人は堪らず手を伸ばす。
だが、ルナールが類人の手を取ることはなかった。
「僕を照らしてくれてありがとう。僕の一番星になってくれて、ありがとう。これが僕が考えた最高の推し活! どう、すごいでしょ?」
目の端から光を吸い込んだ涙を零して笑うルナールが、見えないリードを引き千切る。類人の手からぶら下がるだけの紐が、足元でくったりと首を
失いたくない。類人はとっさにそう思った。
切られたリードを形振り構わず雁字搦めに結び直したい。二度と解けないくらい固く頑丈に。類人はようやく気づけたのだ。自分たちはお互いがお互いを光源とする双星であることを。
それなのに、これじゃあまるで――……。
年明け、
特に話題を呼んだのは一人のメンバーの所属歴の長さ。デビューするまでの年数で歴代最長を記録したとメディアがこぞって伝えた。
長い下積みが確かな経験となった彼を中心とした期待の五人組は、デビューシングルが初週ミリオンを達成するという前人未踏の記録を打ち立て、その後もエンタメの最前線を走り続けている。
そんなトップアイドルと共に活動し、アイドル業界の至宝と声高々に謳われた少年の名前は、事務所の公式プロフィールから静かに消えた。
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