第36話 ダッソウ⑥

 ルイが目を覚ますと、白い雲が浮かぶ青い空が広がっていた。


 「え!!」


 夢だと思って飛び起きて辺りを見渡す。

 鮮やかな植物がたくさん生え、涼しい風が吹き抜ける。フワフワと暖かい匂いがする。そして太陽の日差しがどこか心地いい。


 きっとソウゲンに来たんだ。ルイの目には本で読んだ以上の光景で、夢でも嬉しかった。


 「ルイ」


 目の前の光景に心奪われていると、後ろから声がする。

 聞いたことのある声だった。


 「ヨウ!ヨウも来ていたんだ!」


 振り返るとヨウがいた。


 「ねぇヨウ!僕らここにどうやってきたっけ?全然覚えていなくて。もしかして飛行機作ったの?」


 ルイは子供の時のように目を輝かせていた。

 もし、飛行機で来ているんだったら、その飛行機にも乗ってみたかったからだ。


 「そんなことよりルイ、こっちこいよ。もっとすごいぜ。」


 そういったヨウに、ルイのワクワクは加速しだした。


 「ねぇ、ヨウ、どんなのがあるの?」


 ヨウについていくルイは、ヨウのいうすごいものがどんなものか知りたくて仕方なかった。


 「まぁ、聞くよりも見た方がいいから。」


 ヨウはこっちを向くことなく、足を進めてゆく。


 しばらく行くとおじさんがいた。


 「お、お前ら、何してるんだ?」

 「ルイに案内しているんだ、あの場所に。」

 「おお、そうか。」


 笑顔で手を振るおじさんにルイは違和感を覚えた。


 「あれ、ヨウ、おじさんって死んだんじゃなかったの?」


 ヨウから聞いたことだ。だけど今、ルイの目におじさんはしっかりと写っていた。笑顔で手を振る姿もちゃんと目に焼き付いていた。


 だけどヨウは、その質問に答えず、足を進めていく。


 しばらくすると小さな家が見えてきた。煙突から輪っかの形をした白い煙がもくもくと出ていた。


 「ここだよ。」


 家のまえに着くとヨウはそう言った。


 「ここは誰の家?」


 ルイの質問にヨウは答えず、コンコンとノックをした。

 すると中から「はーい」と女性の声がした。

 ヨウが扉から身を引き、ルイの背中を少し押した。


 扉が開くと、女性が出てきた。

 女性はルイの顔を見るとハッとした表情を浮かべ、扉を開けたまま、「あなたー!」と中にいる人を呼んだ。


 ルイはこの女性を知らない。会ったこともなければすれ違ったこともない。なぜかそう断言できる。


 中から男の人が「なんだ?」と言いながら出てきた。

 その男の人もルイの顔を見ると目を大きく開き、一度驚いた表情を作った後に、その表情は満面の笑みに変わった。隣にいる女性は涙を拭きながら幸せそうな顔をしている。


 「ルイ」


 その男性のこともルイは知らない。会ったこともなければすれ違ったこともない。なぜかそう断言できる。

 だけどその声を聞くと、体が震え、涙が込み上げてきた。

 涙を流すルイの背中をヨウがさらに押した。


 女性はルイをギュッと抱きしめた。男性は泣いているルイの背中を優しくさすった。


 その二人のことをルイは知らない。会ったこともなければ、顔も知らない。

 だけどルイはその二人のことを知っていた。


 ルイのお父さんとお母さんだって。


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