第35話 ダッソウ⑤
ヨウが死んでから数日。
そんなに日は経っていないと思うけど、何日経ったかまではわからない。日にちなんてこの時のルイにはどうでもよかった。
ルイは一人ぼっちになってしまった。朝起きても食事が作られていることはない。仕事から帰ってもヨウの寝息が聞こえるわけじゃない。
一人になってもこの世界を変えるためにと仕事に向かった。
警官たちには褒め称えられた。この街から出ようとするやつをルイが止めた。ルイが殺したって。ルイは正義だって。
何が正義だ。助かるかもしれない人を見殺しにしたのにか。
止められなかった後悔、助けられなかった後悔、怒り、悲しみ、周りへの失望感と、色々な負の感情が入り混ざっていた。
「ただいま」
「おかえり」なんて当然返ってくるはずもない。ルイが晩御飯を作っておいてくれるわけでもない。
自分でどうでもいい食事を作り、食べる。味なんて感じない。食事は味を感じ、楽しむためものではなく、ただ胃袋に何かを詰め込むだけの作業になっていた。
「ヨウ、久々にチェスをしようよ。」
そういえばヨウが返事をしてくれると思った。
だけどヨウの返事はなく、部屋の静けさと暗さが返ってきた。
「そうだ、飛行機の新しい設計図を書こうと思うんだ。小さい頃はおじさんに怒られちゃったけど今度はちゃんとバレないようにできるよ。」
そういえばヨウが返事をしてくれると思った。
だけどヨウの返事はなく、部屋の静けさと暗さが返ってきた。
なんで生きているのか、ヨウに言ったことはないが、ルイは小さい頃から何度もこのことを考えていた。大人になってからは世界を変えるために生きていると答えを出していた。小さい頃はこの問いにどんな答えを出していたのか。大人になってから思い出せずにいた。
ヨウからもらった銃にはヨウの血がついている。
「逃げろ」
銃をみるとヨウが最後に残したこの言葉が耳に聞こえる。
ああ、そうか。小さい頃はヨウがいるから生きているって答えにしていたんだっけ。
それじゃぁもう生きる意味なんてないのかな。
ルイにとってヨウの存在はルイが生きるための支えになっていた。だけど一人になった今、ルイは生きる意味がわからなくなってしまっていた。疲れ切って世界を変えることなんてもう投げ出していた。
「逃げろ」
銃の中には、弾が1発だけ残されていた。
「ルイを頼んだぞ。」
夢で見たおじさんの声が聞こえた。
「そうだよね、おじさん。ヨウを一人にしちゃいけない。」
ルイは銃口を自らの頭に突きつけ、この世界から、そして、一人の自分から逃げた。
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