第34話 ダッソウ④
ドカーンッ!
大きな音がしてヨウが落ちてきた。そして煙の外へ消えていった飛行機も一緒に落ちてきた。
それは街のはずれ、外とこの街を隔てる壁のそばに落ちた。
「ヨウ!!」
ルイが墜落した飛行機の所に着くと、機体に炎が周り、ヨウの脚は機体の下敷きになっていた。
目から涙がこぼれそうになった。
「ああ、ルイ。」
「ヨウ!!生きているのか!今助けるからな!」
ヨウを助けるため、機体に近づくとヨウが続けていった。
「なぁ、聞いてくれルイ。外の世界を見てきた。」
「どうだった!?」と聞きたかった。それで一瞬体が硬直した。ルイ自身もわかった。ヨウを助けるのと話を聞くのとで迷ったんだ。
「喋るな、その話は助かってから聞く!」
ルイは、まだ火が回っていない機体を持ち上げようとする。当然機体が動くこともなければ、熱でルイの手が焼けていくだけだった。
「そんなことしても無駄だ。だから聞いてくれ、ルイ。」
弱々しくヨウが言った。
「まだわからないだろ!」
「なぁ、頼む。」
焼ける手の痛みを堪え、機体を持ち上げようとするルイにヨウはニコッと微笑んだ。
「わかったよ。」
ルイは機体を持ち上げるのをやめ、ヨウの手を取った。
涙を堪えるのに必死だった。それは手が焼けて痛かったからなのか、ルイには涙がこぼれそうな理由はまだわからなかった。
「もっと遠くまで行けるはずだったんだけどな。こんなところで落ちちまった。やっぱり俺は機械作るの向いていないのかもな。」
「ハハ、あの設計図、今考えれば不備だらけだよ。アレで作ったんだったら飛んだだけでも奇跡だよ。それなのにあんな高くまで飛べるなんてヨウはすごいよ。」
「次はもっと高く遠くまで飛べるのを作ろう、一緒に。」
「ああ、次は一緒にな。僕も飛ぶときは連れていってくれよ。ソウゲンを見たいから」
「そうだ、ルイ、外にソウゲンはなかったよ。外の世界でも殺し合いが広がっていた。血で真っ赤に濡れていた。」
「・・・・そうか。」
「きっと外に逃げても一緒なんだ。手を取り合うよりも銃で撃ち合う。どこまでもどこまでも人と人とは殺し合っている。」
ルイが握った手をヨウは弱々しく握り返した。
「だからソウゲンはなくなっちゃったんだ。人の血で染まっちゃったんだ。だけどな、ルイ。空はあった。ここから見える薄暗くて汚い空じゃない。鮮やかで綺麗な青い空がこの上にあったんだ。だからきっと、もっと遠くに逃げることができたらソウゲンだってあるかもしれない。人と人とが手を取り合っているかもしれない。」
ヨウはもう片方の手でルイに何かを渡した。
「だからその日まで、ソウゲンが見える日まで、人が殺し合うのを止めるまで、逃げろ。」
ヨウがルイに渡したのは銃だった。工場で作っている銃だった。
「ヨウ・・・ヨウ!!」
ルイの目からボタボタと涙がこぼれた。これは決して焼けた手が痛いからじゃない。
ヨウは動かなくなったからだ。
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