第33話 ダッソウ③
上昇した機体はルイを置き去りにし、この街の外、壁を越えようと高度を上げていった。しかし、飛行機はそれに耐えることができず、悲鳴を上げていた。
ビービービー
エラーランプが鳴り響いた。
メーターを確認しても正常の数値を指している。エンジンもまだ動いているし、どこからか煙が出ているわけでもない。このランプはどこが原因か、全くわからなかった。
「まだだ!この高さじゃまだ越えられない!」
ヨウは構わず、さらに機体を上昇させた。
黒い煙を抜け、街の外が見えた。
「ソウゲン・・・?」
街の外では一面赤色で染まっていた。本当ならきっと植物が広がっていたはずの世界は、人と人との殺し合いの場所になっていた。
ヨウは戦争をしていることを知っていた。だけど実際にその光景を見ると想像を超えていた。街の中にも外にも逃げ場なんてなかった。
ボンッ
エンジンがオーバーヒートしてしまった。
上昇を止め、次第に落下してく機体、どうにか飛ぶことができないかと焦るヨウ。
『ダメだ、もうこの機体は動かすことはできない』警報が止み、静かに落下していく機体の中でヨウはそう思った。
ドカーンッ!!!
空中で機体が大きく爆発し、ヨウは操縦席から投げ出されてしまった。
爆発した。落ちる。死ぬ。
ヨウは、一瞬そう考えると頭の中がルイとの思い出で埋め尽くされた。
一緒にチェスをした。一緒におじさんの工場で働いた。一緒に本を読んだ。一緒に飛行機を作ろうとした。一緒におじさんに怒られた。
小さい頃から一緒だった。でも一緒だったのは小さい頃だけだった。
ルイは頭がよかった。ヨウは勉強なんてできなかった。ルイは警官になった。ヨウは工場の従業員になった。ルイは世界を変えようとした。ヨウはそんな世界から逃げようとした。ルイはソウゲンを見たがっていた。ヨウはソウゲンをみたいなんて思わなかった。
違う。
ルイもソウゲンを見てみたかった。だけどそんなものがあるなんて信じられなかった。素直に信じているルイが子供っぽくて羨ましかった。
『俺もあんなに素直だったらな。』そんな後悔を走馬灯でした。
「草が一面に広がっていて、ポカポカしているんだって!そこの吹く風はとっても気持ち良くて青空がずーっと広がっているんだって!」
子供の時のルイの声が響く。
「なぁ、ルイ。ソウゲンなんてなかったよ。外は血でいっぱいだった。」
落ちていく時、ヨウが目を開けるとそこにはとても鮮やかでどこまでも続く青空が広がっていた。
「ああ、ルイ・・・・」
落ちていくヨウの視界が一瞬にして黒い煙に阻まれた。
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