第31話 ダッソウ①
今朝はいつもと違った。「異常があれば報告するように」といつも言っている上官の口から別の言葉が出てきた。
「犯人を捕まえろ。」
昨日、警官が3人殺される事件が起こったらしい。弾薬の納品日で運搬中に3人とも十で撃たれて死んでいたが、弾薬は残っていたらしい。
嫌な予感がした。
「目撃者によると犯人の特徴はゴーグルをしている。」
嫌な予感が的中した。犯人はヨウだ。窃盗目的で殺したのでなければ、きっと殺されたのは、おじさんを殺した警官たちだろう。
ルイはすぐに走り出した。ルイはきっとおじさんの倉庫にいる。ルイを捕まえる。目的はそれじゃなかった。「犯人の特徴はゴーグルをしている。」それしか情報がない。顔も良く覚えられていないんだろう。ゴーグルを外し、髪型と髪色を変えさせる。そうすればいくら目撃者でも気づかれないだろう。
「僕が行くまで他の警官に見つかるなよ!ヨウ!」
夢の中でおじさんが「ヨウを頼んだぞ。」と言った意味がわかった気がした。
工場の前に行くといつも聞こえてくる作業の音が全くしなかった。
急いで扉を開けると作業員が驚いた様子でこちらをみた。そしてルイだと認識すると少しホッとした表情を浮かべた。みんな集まり、おじさんの死を嘆いていたのか、涙の跡がうっすらと見える。
「ヨウは!?!?」
集まっている中にヨウの姿はなかった。
まだ整っていない息でヨウがそこにいるか確認する。
「今日は、まだ来てない」
ルイがいると思っていた場所にヨウはいなかった。
ここ以外どこにいるか検討もつかない。ルイが起きた時にはもう家にいなかった。ルイの分の食事があったということはきっとヨウも食事を済ませている。自分よりも早く出かけて工場にも行かずに帰ってくることなんてあり得るのか。可能性はゼロではないが・・・ダメ元でも家に行ってみるか。
ルイは家へと足を進めようとした。その時だった。
バキバキバキ!!!
何かを破る大きな音がした。
「何が起きたんだ!?」
街の人たちがその音を聞き、外に出てきた。
ルイは、その音を聞いて昨日のヨウの言葉を思い出した。
「逃げよう。」
ルイの中には、ヨウがこの街から出ることができないという確信があった。
外に出る方法は大きく分けて二つ、一つは陸路だ。一般人が陸路で外に出ようとすると必ず門を通る。その門には警官がいて夜中でも警備をしている。見つからないで通るのは無理だろう。そしてもう一つは空だ。ルイ以上に機械には強い。ヨウはルイほど頭がいいわけではない。いくら機械が理解できてもどんな原理で空を飛ぶことができるのか、理解できないだろう。ルイとヨウの両親の話に出てきた気球ですら設計図を書くことができない。それなのに飛行機を一からヨウが作れるとは思わなかった。
だけどヨウは飛行機を完成させた。
古くて大きな建物。小さい頃、ルイとヨウが飛行機を作ろうと夜な夜な通い詰めたあの場所をそいつは姿を現した。
「なんだあれは!?」
「新しい車か?」
工場を破り、走りながら少しずつ浮いていく。
住民の全員が何かわからない鉄の塊を目にした。
だけどルイは、それが何か一目でわかった。子供の頃のルイが設計したあの飛行機だ。
「あれを・・・どうすればいいんだ。」
外では戦争が起こっている。街の外に出られたとしても巻き込まれて死んでしまうだけだ。それに、あの頃の設計図にはいくつも不備がある。設計図通りに作って今飛んでいるのが奇跡だ。絶対に操縦が効かなくなってどこかに吹き飛ばされてしまう。
いろんな可能性を考える中、ルイの頭の中でふと、夢の中でのおじさんの声が再生された。
「ヨウを頼んだぞ。」
そうか、ヨウを救ってくれじゃなくて、ヨウを止めて欲しかったのか。
ルイは飛行機を追いかけるために走り出した。警官としての正しさなんかじゃない。墜落してもすぐに助けに行けばヨウが死ななくて済むかもしれない。その後のことは、その時考えればいい。今はただ、どうすればヨウが死なないかだけを考えていた。
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