第30話 セイギ⑧
ヨウの話を一通り聞き終えると、ルイの気持ちの整理をつけるよりも先にヨウが聞いた。
「それで、ルイはどうする?」
「どうするって?」
おじさんの死を知らされた直後でもこの質問の意味がわかった。だけどそれが本当にルイが予想したことと、同じ意図でヨウが聞いているのか確認したかった。
「逃げるかどうか。」
「逃げれるわけないだろ。仮に逃げられたとしても外では戦争している。巻き込まれて死んじゃうよ。」
「そうか。」
ヨウの口調は落ち着いていた。
きっと子供の頃のヨウだったら、もっと感情的に声を大きしたり、泣きながら訴えてきただろう。だけど今のヨウはまるで別人かのように落ち着いていた。
「悔しくないの?」
ルイは、椅子から立ち上がり、寝室へと向かうヨウにそうきいた。
「悔しいさ。」
この時の声も怖いぐらいに落ち着いていた。
ヨウがいなくなってからすぐ、ルイの目から涙が溢れた。ポタポタとテーブルに落ちるそれは、次第にボロボロと激しく、大粒になっていった。
ルイはここ最近で、2人も人の死を経験した。それも理不尽な死だ。その悲しみと怒りが涙という形で心を通って目から溢れてきた。
悲しみは2人の死を嘆くもので、怒りは警官へ向けられたものではなく、自分に向いていた。
いつになったら警官の無意味な暴力を止められるんだ、いつになったらこの街を変えることができるんだ。
ルイは力のない自分が嫌だった。
その日、眠りにつくと珍しく夢を見た。
そこは膝ぐらいの高さの植物で埋め尽くされていて、爽やかな風が吹いていた。そしてしろく綺麗な雲が浮かび、青く透き通った空が広がっていた。
ルイにとってはそんな街で見たことのない綺麗な景色よりも、死んだはずのおじさんがそこにいることの方が不思議だった
「ルイ」
「おじさん!死んだんじゃ!?」
おじさんは、いつものように笑っている。
「なぁ、ルイ。ヨウを頼んだぞ。」
おじさんがそういうと視界が真っ暗になった。
目が覚めるといつも通りの天井が見えた。
「ヨウを頼んだぞ、かぁ」
いつもヨウが寝ている場所を見ても、いつも通り、ヨウは工場に行っていてそこにいない。
ルイはいつも通りヨウの作った朝食を食べ、仕事に出かけた。いつもと違うことがあるとすれば、この世にもうおじさんがいないということだ。だが、それもいつか『いつも通り』になってしまうんだろう。
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