第29話 セイギ⑦

 「おじさん、俺もうあが・・・」


 夕日の差し込む頃、ヨウが仕事から帰ろうとすると、おじさんは誰かと話していた。その姿を見てヨウは反射的に身を隠してしまった。

 少し覗くとおじさんの他に三人の男の姿が見える。一人はおじさんと話している。もう二人は何か荷物を運んでいた。逆光で顔がよく見えない。だけどルイにはその人たちが誰なのかすぐわかった。

 その日は納品日だった。


 「こっちはもう済んだぞ」

 「わかった、すぐ行く。」


 男たちはそう言うと一人がおじさんの方に来た。


 「次の納品は一週間後、数は同じだ。」


 男からおじさんは何か受け取っていた。


 「俺たちはいつまでこんなことしなきゃいけないんですか。」


 おじさんがそう言った。おじさんの後ろ姿は、いつもと比べて小さく見えた。


 「外の戦争が終わるまでだな。」


 男はそう答えていた。それにため息をついて下を向き、おじさんの影がさらに小さくなったように見えた。


 「俺はこんな仕事がしたいわけじゃないんだけどな。」


 ヨウにも聞こえるぐらいの大きさだが、さっきよりも小さい声で答えた。


 「フッ、まぁ今回は聞かなかったことにしてやるよ。」

 「毎日毎日いやいや仕事して、夢もやりがいもない。この仕事の先にあるのは人殺しだけだ。」

 「これ以上言うとわかっているのか?」

 「警官がなんだ、この街の治安を守るとか言いながらお前たちが治安を乱しているじゃないか。」

 「わかった。」


 男は、そう言うと銃をおじさんに向け、引き金を引いた。


 「おい、いくぞ。」


 男は仲間と行ってしまった。


 「おじさん・・・」


 ヨウは工場の倉庫に向かった。

 次の納期に納めるための完成した銃を1つ手に取り、シリンダーに6発の弾を込めた。そしてそれを隠すようにポケットに入れ、それを握っていた。


 「まだきっと近くにいる。」


 ヨウは工場を出て警官を追いかけた。

 工場を出てしばらく、警官の後ろ姿が見えた。その姿が路地裏へと入るとポケットの中の銃の撃鉄をカチッと立てた。

 ヨウも、警官の後を追い、息を潜めながら人気のない路地裏に入った。

 二人が荷車を引き、一人がその後ろを歩いていた。見つけた時からわかっていた。おじさんを殺したのは後ろのそいつだ。

 ヨウは銃口をそいつに向けた。怒りで銃口が震える。息を静かに大きく吸い、両手で銃を持った。そして引き金を引いた。


 銃声がしたか、覚えていない。

 警官が3人、そこに倒れていた。

 目の前が赤く染まっていくのと2発目以降の引き金の重く、弾丸を2つ無駄にしてしまったことだけが強く印象に残っている。


 ヨウに人を殺す躊躇いがなかったわけじゃない。それ以上におじさんを殺された怒りと警官さえいなければという正義感が強かった。


 「少し早くなっただけだ。」


 ヨウは煙で黒く染まった空を見上げ、ため息をついた。

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