第28話 セイギ⑥

 ヨウが廃材をいつもの場所に捨てて戻ってくる時、いつもと街の様子が違った。


 また、誰か殴られたのか。そう思いながら近くの人に様子を聞くとどうやら少し違うらしい。


 「人が撃たれたんです。」


 撃たれた人を確認しなくてもヨウにはそれが本当だってわかった。

 あまりにも衝撃的な光景を目の当たりにしたのと悲しみが混ざり合い、涙なんて出したくても出ず、自分が今何を見ているのかわからなくなってしまう。その時の表情はとても複雑で言葉では表しにくい表情になる。

 ヨウも小さい時、人が撃たれたのを見たことがある。きっとその時のヨウはこの人と同じ表情をしていただろう。


 「薬を盗んだみたいです。」


 その人はヨウにボソっと続けて言った。


 「え?」

 「警官さんたちが使う薬を盗んだから、撃たれたみたいです。」


 その人が何を言っているかわからなかった。どうやって薬を盗んだのか、そういう意味じゃない。どうしてその場で撃たれなければいけなかったのだろうか、どうしてこの人が盗んだって確信があったんだろうか。




 工場に戻るとヨウはすぐおじさんに言った。


 「いつまでこんなの作らなきゃなんだよ?」


 おじさんは銃弾を作る手を止めて、ヨウの方を見ていった


 「なんだ、お前、また、昔みたいなこと言うのか?」


 ヨウも仕方ないことはわかっていた。銃弾を作る代わりに戦争へ行かなくていい。だから仕方なく戦争のために働いている。だけどヨウには一つの疑問があった。今自分達が作っている銃弾は誰が使っているんだろう、と言う疑問だった。

 戦争はヨウが子供の時から始まった。それなのに大人になった今でもまだ続いている。一体、いつまで戦争を続ける気なんだ。もし、外では戦争なんてないとしたら、今自分達が作っている銃弾は誰が使っているんだろう。

 この工場で作っている車、銃、銃弾は定期的に警官に納品している。彼らが戦争の物資を届ける窓口になっているらしい。ヨウの中でさっきの疑問の答えはすぐに出た。だけどその答えには嘘であってほしいと願うばかりだった。もしヨウの出した答えが現実に正解だとしたら、ヨウは戦争に加担しているのではなく、意味もない人殺しに加担していることになる。


 「おじさんは悔しくないのかよ。」

 「悔しいさ。」

 「じゃぁなんでそんなすぐ飲み込めるんだよ!」


 ヨウは「悔しい」と言いながらも、何一つ文句を言わずに銃弾を作っているおじさんのその行動が「仕方ない」の言葉で片付けられるのが嫌だった。


 「仕方ないだろ、じゃなきゃ俺たちがこの銃弾を食らう羽目になる。」


 そう言うとおじさんはヨウに向けていた目を再び銃弾に移し、再び手を動かし始めた。

 「仕方ない」の言葉で片付けられるのは嫌だった。だけどそれを無理に飲み込むしかなかった。



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