第26話 セイギ④
罪のない人へ向けられた暴力、それはルイ一人じゃ止めきれなかった。ルイと共に行動する警官の暴力ですら止めきれず、それが他でも起こっている。しまいには人に銃を向ける。そんな組織での活動にルイは滅入っていた。何度も投げ出そうかと思ったけど、ヨウと一緒にソウゲンを見にいく、そう思うと投げ出すわけにはいかなかった。
いつも通り食事を済ませ、仕事に向かう。
仕事では共に行動する警官の暴力を止め、被害者を抑える。これもまたいつも通りだった。
いつも通り、投げ出したくなるほど、心へのダメージがあった。
住民からしてみれば、同じ服を着ているだけでルイも悪者なのだから。
傷薬を渡したあの男がこの世からいなくなってから、この街にルイの味方がいなくなったかのようだった。あの人の「ありがとう」の言葉が救いだった。だが、あの人がいなくなってから、その言葉もルイを苦しめてしまう原因の一つになっていた。
仕事を終え、家の前に立つ。
「投げ出してしまうんだったら、今がチャンスなのかもしれない。」と思いながら扉を開ける。
「ただいま。」
「おかえり。」
「おかえり」と聞いたのはいつぶりだったか。ボソッとした声のするリビングをみるとヨウがいた。
返ってくる声に戸惑いながらもヨウと向かい合わせるように椅子に座った。
「起きてたんだ。」
いつもどう話していたっけ、 と思いながら切り出した。それに対してヨウの返事はなかった。ヨウはただ、何もないテーブルの上を見ていた。
「えっと・・・ご飯は?」
反応のないヨウに戸惑いながら聞いた。だけどヨウの返事はなかった。
薄暗い空間がしばらく、静けさに包まれた。
「なぁルイ。」
静けさを絶ったのはヨウの方だった。
その声に少し驚き、体が反応する。「おかえり」の声よりも強くまっすぐな声だった。
「逃げよう。」
「え?」
ヨウがどこから逃げると言っているのか、何から逃げると言っているのか、ルイはすぐわかった。
「どうして今なの?外の世界になら僕が出世してから行けるようにする。」
ルイがそう言うと、ヨウは何もないテーブルからルイの目に視線を移した。
「おじさんが殺された。」
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