第25話 セイギ③
「罪は裁かれなければならない。」
警官の一人がそう言った。目の前で傷薬の瓶を握った男が震えていた。
警官は銃を手に握っている、その銃口を男に向けられていた。
「あんた何したかわかってるよな?」
男は何も言わず、怯えた表情でルイを見た。ルイはただ目を逸らすことしかできなかった。
ルイたちはいつも通り警備をしていた。その時、警備のうちの一人の視界に瓶を握っている男が入った。
「何を持っている?」
それを聞かれ男は正直に手に持っている瓶を見せた。そうしなければまた殴られていただろう。しかし、今回はそれが裏目に出た。
「うちで使っている傷薬だ。」
その瓶はルイが渡した傷薬の瓶だった。
「何で持っているんだ?」
警官の問いに男はただそこで固まることしかできず、ルイに出していなかったものの、心境では何事もなく終わってくれとただ祈っていた。
「そうか、盗んだのか。」
しばらく黙る男に警官が出した結論はこれだった。
「まだ結論を出すには・・・」
早すぎる。ルイがそう言おうとした時、警官は男に銃を向けた。
いつもこいつだ。こいつはいつも何かといちゃもんをつけては意味のない暴力を振りかざす。この街の住民がこちらに逆らえないことを知っていて暴力に手を染めている。
子供を助けた日、その日からルイの正義感はさらに強くなった。傷薬を渡した男の「ありがとう」という言葉の重みがルイをそうさせた。その日以降、ルイが、出世のため、世界のためと目を瞑り、暴力に手を染めることはなかった。そして、共に警備している警官の意味のない暴力を止めることに徹していた。
そんな日々が重なってなのか、今銃を握っているこの男のイライラは頂点にまで達してた。何か自分のイライラを晴らすものはないか、そう目を光らせていたところに、傷薬の瓶を握った男が目に入った。
「罪は裁かれなければならない。」
銃口を向けられた男は両手で瓶を持ちながら震えていた。
今ここで止めることはできる。だけど結果は絶望的だ。まず、この男が傷薬を盗んだかどうか調べるためにこの男を拘束する必要がある。拘束された時点でその人の人生は終わりだ。牢屋で殴られて死ぬか、銃で撃たれて死ぬか、いずれにせよ生きるという選択肢は与えられない。
仮に男が盗んでいないという結論に至ったとしても、標的がルイへと変わってしまう。そうなればこの男の将来を守ることができても、この街の未来を変えることはできないだろう。
「あんた何したかわかってるよな?」
警官の問いに男は何も言わず、怯えた表情でルイを見た。
ルイはただ目を逸らすことしかできなかった。こんなことになるのなら、あの日、拳を振るわなければよかった、変な善意で傷薬を与えなければ、そうすればこの人の命がここで断たれることはなかったのに。そう思いながら目を逸らすことしかできなかった。
今の自分には、何もできない。
バンッ
銃声が響くのとほぼ同時に男は赤く染まった。
そしてそれを見ていた群衆が声を出さずに悲鳴を上げた。
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