第22話 リョウシン⑥

 「その日、兄貴が、いや、ヨウの父親は工場にこなかったんだ。休みでもないのに工場にこないのはおかしいと思って、俺は家に行った。そしたら部屋で一人泣いているお前がいた。」


 おじさんは、ヨウを指差しながら言った。ヨウとルイはいつの間にかおじさんの顔を見て話を聞いていた。


 「そして、兄貴の気球を完成させるまでの日記を見つけた。後日、この日何が起きたのかと、お前を頼むと書いてある手紙が来た。」

 「じゃぁお父さんは!」


 ヨウは立ち上がり、大声で言った。


 「お父さんとお母さんは・・・殺されたんだ・・・。」


 ヨウは、ルイとおじさんにだけ聞こえる声でそういうと、かけてあるゴーグルを握り、涙を堪えていた。


 「だから俺は、一人なんだ。」


 地面に置かれているパーツに、ポタポタと涙が落ちる。

 ルイは泣かなかった。悲しかったわけじゃない。ルイには一つの疑問があった。


 「僕のお母さんは?」

 「お前のかーちゃんは、お前を産んだ時に亡くなった。」


 おじさんからそう聞くと、どうしておじさんに引き取られたかを聞く気にはなれなかった。

 悲しすぎて涙が出なかった。心が真っ暗な闇に包まれて見つからないような感じがした。


 「最後にひとつ。もう飛行機は作らないって約束してくれ。」


 おじさんはルイとヨウの前に小指を出して言った。


 「おじさんは、お前たちが殺されるのは嫌だ。お前たちがいなくなるのは悲しい。約束してくれるか?飛行機を作らないって。」


 二人は、「どうして?」なんて聞かなかった。その言葉だけでも十分わかったからだ。

 ヨウは片手で涙を拭きながら頷いて小指を出した。ルイも小さく頷いて小指を出した。

 3人で指切りをするとおじさんはオイル缶から立ち上がった。


 「さて、これから仕事だ。」


 体を伸ばしながらおじさんが言った。


 「だけどお前たちは今日は休みだ。夜更かしばっかりしていただろ?たまには休め。」


 伸び終えるとおじさんは二人の頭をわしゃわしゃと撫でた。


 「それに、こんな話聞いた後じゃ仕事なんて気分じゃねーもんな。」


 頭を撫でながら、ルイとヨウに聞こえない小声で言った。


□□□□□□□□□


 家に帰るとヨウはすぐに布団に倒れ込んだ。枕に顔を埋め、泣いているのかわからない体勢のまま、寝返りを打つことなく、じっとしていた。

 ルイはリビングの椅子に座り、気を紛らわそうと本を開いた。いつもなら何度見ても心がワクワクとソワソワで埋め尽くされるソウゲンのページも、今は何も感じない。他のページを見ても今までのように心が躍ることはなかった。

 本を閉じ、ぐったりと机に伏せながら、そのまま眠ってしまった。



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