第21話 リョウシン⑤
「あなた!!あなた!!」
玄関から大きな声で妻に呼び出された。その様子はどこか焦っているような、急かされているような呼び方だった。
「どうした!?」
急いで玄関に向かうと、開いた扉の外には、ルヴェンがいた。
気球のテストが失敗した様子ではなかった。
右胸の少し下を押さえている。その手は、赤い液体を押さえていた。
「ど、どうしたんだ・・・?」
「早く逃げろ・・・。今すぐだ・・・・。」
その言葉の内容をすぐに理解できた。
「ヨウを連れて逃げるぞ!」
「え!?」
「今すぐだ!」
ヨウが寝ている部屋へ向かおうとした時だった。
「見つけた。」
家の外から声がした。
そこには紺色の制服に身を包んだ男が3人と、おどおどとした表情の男が一人いた。
「こいつらは?」
「え、ええ、ぐるです。間違えないです。俺ちゃんと見ました。」
この男が通報したんだ。
「な、何を言っているんだ!こんなやつ知らない!急に匿ってくれって」
ウェルは咄嗟にそう言ってしまった。こう言わなければウェルとその家族が助かる方法はなかった。こいつらに捕まって仕舞えば、この計画どころか、人生が終わってしまう。ルヴェンを見捨てることに抵抗がなかったわけじゃない。だけど小さい頃からの付き合いのルヴェンのことだ。自分のせいでウェルたちを巻き込んでしまうぐらいなら、自分を犠牲にしてほしいと思うだろう。
「なぁ頼むよ!!俺を、俺を助けてくれよ!!」
ルヴェンはウェルにしがみついてそう声を上げた。その表情は助けを求める人の表情とは違い、笑顔だった。ウェルはこの選択をしたことがルヴェンから見た正解なのだと確信した。だけど、ウェルから見たらこの選択は正解じゃなかった。
「お前はこっちだ!!」
「や、やめろぉ!」
警官により引き剥がされたルヴェンはその手に手錠をされた。
助かった。という安心感などなく、ウェルの心の中には、友を見捨ててしまった罪悪感で染まっていた。
何か助ける方法はないか、頭の中でぐるぐるぐるぐると思考を巡らせるが、答えはどれも同じ、助ける方法なんてない、だった。
「お前らもこい。」
ウェルがまだ、考えを巡らせている時、警官の一人がそう言った。
「え?」
「聞こえなかったのか。お前らもこい。」
警官がじっとこちらを睨む。
「お、俺たちには関係ないだろ?」
「グルの可能性がないとはいえない。こいつがそう言っているんだ。」
ウェルの思考が、どうすればルヴェンを助けられるか、からどうすればこれを逃れられるかに変わった。
「逆らったらどうなるかわかるよな?」
警官がそういうとルヴェンの方を見た。
ルヴェンは大きく目を開き、首を小さく横に振っていた。
「この状況を説明すればいいんだろ?」
「そうだ。」
「無罪ならすぐ帰してくれるんだろ?」
「そうだ」
嘘だ。こいつらは無罪だろうが有罪だろうが、どのみち殺す。ウェルにはそれがわかっていた。
「わかったよ。じゃぁ、すぐ帰ってくるから俺の好きなシチューでも作って待っていてくれ。」
「え、ええ、わかったわ」
ウェルは妻にそういうと、妻は平常心を装うかのようにそう言った。
ウェルもルヴェンと同じ選択をした。
景観はウェルに手錠をかけると、家の中に戻ろうとする妻にも言った。
「お前もこい。」
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