第20話 リョウシン④

 ルヴェンもウェルもお互いの奥さんを説得し、大人4人と子供1人、そしてお腹の中にいる赤ん坊1人を乗せていくことになった。

 ルヴェンの書いた設計図をもとに、ウェルは空気を温めるバーナーを、ルヴェンは気球の骨格を作った。

 もちろん作業は夜中にやっていた。日中はお互い仕事があるし、他の人に見つかってしまうからだ。

 大きくなった部品は工場に隠して置けないから、裏山に雨が当たらないようシートをして置いていた。


 「そろそろバーナーは完成するけどそっちはどんな感じ?」

 「こっちももうほとんどできている。あとは組み立てるだけだ。」

 「わかった。それじゃぁ明日の日中にでも組み立てよう。山の中なんて誰もいないだろうし、明日休みだろ?」

 「ああ、ついでに飛行テストもしよう。少し浮かせてちゃんと飛ぶかどうか試しておきたい。」


 ウェルは完成したバーナーのパーツを工場の奥に置き、シートをかぶせた。


 「これも持ってきてくれよ。」

 「ああ、必要なんだろ。」


 ルヴェンは工場に置いてある大きめの送風機を指差した。ウェルは何に使うか全くわからなかったが、ルヴェンが言うんだから必要なんだと思い、何に使うか、考えようともしなかった。


 「出発は明後日の夜中。飛行テストが失敗したら作り直しだ。」


 ルヴェンがそういうと、明日のちょうど昼に裏山集合と約束し、工場から出た。

 工場の扉から出る時、ルヴェンは嬉しさを隠すような、少し硬い表情だった。


□□□□□□□□□


 翌日、裏山で気球を組み立てた。

 完成してみると設計図にある反対になった雫の部分は、ベッタリと地面に倒れ込んでいた。


 「これで本当に完成なのかよ?」


 ウェルは完成した気球を見ながらルヴェンにいった。


 「ああ、これで完成だよ。」

 「ちゃんと空飛べんのかよ?」

 「だから今からテストするんだ。」


 そう言うとルヴェンは、昨日ウェルの工場から持ってきた送風機で、気球に中に風を送った。


 「これで気球が膨らんだらバーナーで空気を温めていけば飛べる。」


 送風機によってどんどん空気が送られていく。

 ウェルは、自分達が作った気球に空気が送られていくのを見ながら、この街で育った思い出を振り返った。気づけば小さい頃の思い出のほとんどにルヴェンがいた。ルヴェンの父親も学者で、ルヴェンは父親の本を勝手に読んではウェルに話していた。その話のほとんどがこの街の外のことで、ソウゲンのことは小さい頃から聞いていた。そしてルヴェンの父親はルヴェンがその話をするのをみると、「外でそんな話するな!」と叱っていた。ルヴェンの父親はしばらく遠くの学校に行くと、行ったっきり今まで帰って来ていない。それがなぜなのか、今ならなんとなくわかる気がする。


 「そういえば、いつ出発するんだ?」


 この街ともうお別れするモードのウェルがルヴェンに聞いた。


 「明日の夜にしよう。日中だとバレるかもしれないから。」

 「わかった。」


 送風機の音に混ざりながら出発時間が決まった。


 「ん?それなら今膨らませる必要あるのか?」


 日中だとバレるから夜にしよう。そう言いながらルヴェンは送風機で空気を送り、気球は少しずつ大きくなっている。



 「飛べるかのテストをするんだ。飛べるかわからない状態で出発するわけにも行かないからね。大丈夫、ここにある木より高く飛ばないし、飛んでどこかに行かないようにちゃんとロープで繋いでる。理論上はちゃんと飛べるけど、もし飛べなかったら、明日の予定はなしだ。」

 「わかった。」

 「後はどれぐらいの間飛んでいるかわからない。だから水と食料を1日分は準備しておいてほしい。後は僕一人で十分だから。」

 「わかった。見つからないように気をつけろよ」


 ウェルは、水と食料を準備しに、家に戻った。


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