第18話 リョウシン②

 「街の外に行く」


 目の前にいるルヴェンは確かにそういった。


 「また始まったよ。子供の頃から変わらないな。お前は。」


 きっと街の人が聞くとパニックになるようなことだろうが、ウェルにとってみれば、ごく普通にことだった。

 だが、いつものことのように流すウェルに対し、ルヴェンの表情は真面目で、ウェルの目真っ直ぐを見ていた。


 「本気か・・・?」


 ウェルの言葉を聞いて、ルヴェンはゆっくり頷いた後、小さく息を吸い、話し出した。


 「ソウゲンが見たいっていう好奇心はもちろんある。だけどそれ以上の理由があるんだ。俺は妻とこの街を出る。ウェル、お前はどうする?」

 「待て待て、俺はどうするっていきなり言われても答えられるわけないだろ。」


 ウェルにとって、ルヴェンの言葉には、すぐにでも街の外へといくぐらいの勢いがあるように聞こえた。今すぐに答えを出さないともうチャンスはないと言うかのようで、ウェルは少し戸惑っていた。仮にウェルがここで行くと言っても、ウェルの妻や息子のヨウはどうする。置いていくことはできない。それに、ウェルの頭の中には『本当に街の外に行けるのか』という疑問もあった。


 「それにどうやって外に行くんだよ?子供の頃に言っていた飛行機ってやつが、もうできたのか?」


 戸惑いながらもウェルが聞くと、ルヴェンは一枚の紙を取り出し、「これでいく」と言い、開いた。

 そこには子供の頃、ルヴェンがウェルに教えてくれた飛行機ってやつではなく、別のものの設計図が書かれてあった。

 翼もなければ操縦席らしきものもない。縦長で籠がついているだけ。ウェルが今まで見たことのないものだった。


 「こんなのでどうやって街の外に出るんだよ!?」


 驚きのあまり、声が大きくなってしまった。工場の前を通る人が、こちらを睨むようにこちらを見たのが目に入った。


 「・・・とりあえず、入れよ。」

 

 人々刺すような視線からウェルは、工場の前で話していいことではない話になっていることに気づいた。その目線を避けるように、ウェルはルヴェンを誰もいない工場の中へと入れた。


 「それで、こんなのでどうやって街の外に出るんだよ?」


 扉を完全に閉め、窓から夕日が差し込む薄暗い工場の中でルヴェンに聞いた。


 「これは気球っていう。これで空を飛ぶ。」


 返ってきたのは、意味のわからない答えだった。

 工場の静けさと、ルヴェンの真面目な顔でウェルの頭の中は余計混乱していた。


 「こんなので?どうやって?」


 ウェルは、今までいろんな機械を見てきた。だから機械のことはある程度わかる。でも、ルヴェンの設計図を何度見ても、これで空を飛べるとは到底思えなかった。

 ルヴェンが設計図を指しながらウェルに説明を加えた。


 「まずこのバーナーをつけると火が出るだろ。それで空気を温めるんだ。」

 「それで?」

 「飛べる。」


 ウェルの頭の中は、まだクエスチョンマークで埋め尽くされていた。

 そんなウェルの状態がわかったのか、ルヴェンはさらに詳しく説明をした。


 「空気は温まると大きくなるんだ。大きくなってしまった分は、この中から抜けていく。」


 ルヴェンは、雫を逆さまにしたような大きな部分を指差した。


 「そうすると、抜けた分軽くなって浮くんだ。」


 ウェルは、本当にそんなので空を飛べることができるのか、疑いが晴れないまま、「ふーん」と理解したかのように言った。


 「これだったら昔、ルヴェンが言っていた飛行機ってやつの方がいいんじゃないか?」

 「時間がかかるんだ。」

 「どうしてだ?飛行機の方が早く飛べるはずだ。」

 「確かに、飛行機の方が飛ぼうと思ってすぐに飛べる。だけど飛行機を作る時間を考えると気球を作った方が早く飛べるんだ。」


 ウェルは、この一言に納得した。

 空を飛ぶスピードは飛行機の方が早い。だけど、何も揃っていないこの状況で、今すぐ飛んで街を出るとなると、簡単で飛べるものを作った方が早く街の外へ出れる。


 「ウェル、これならこの街から逃れる。お前も一緒に来ないか?」


 ルヴェンが、ウェルに迫った。


 「なぁ、ルヴェン、もう一つの理由を聞かせてくれ、ソウゲンがみたい以外のもう一つの理由を。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る