第15話 ヒコウキ⑤
ガラガラガラ
工場の扉が開く音がした。きっとヨウがパーツを持ってきたんだ。
「ヨウ!」
工場には、ヨウと一緒におじさんも入ってきた。
「ここでルイと一緒に作っていたのか?」
どうしておじさんも・・?と戸惑っているとおじさんがヨウに聞いた。それに対してヨウは声を出すことなく、コクリとうなずいた。
するとおじさんはルイのところに来て頭に1発、重い拳骨をした。
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ある日の夜、ヨウはいつも通り街が寝静まった頃に、おじさんの工場に忍び込んでいた。
防護用のヘルメットと少し厚めのグローブをして、ジリジリジリと音を立ててパーツをくっつける。
毎日忍び込んでいると、自然と慣れてくるもので、最初の頃はあったハラハラドキドキした緊張感が全くなく、平常心で溶接をしていた。
「何をしている!!」
人の声が聞こえた。溶接していた手がピタッと止まった。声のした方を振り返るとそこにはおじさんがいた。
バレてしまった。
だけどおじさんの手には銃が握られていて、銃口はこちらを向いている。溶接をしていただけで殺されるのか。初めて夜中に忍び込んだ時以上の緊張感が走り、汗がたらりとヘルメットの内側の輪郭をなぞった。
「ヘルメットを取れ。」
脅すように強い声でおじさんが言う。
ヨウは、おじさんに言われるがままゆっくりとヘルメットを取った。
「ヨウ・・・・・?」
さっきまで険しい顔をしていたおじさんが、目を見開いた。
「何をしているんだ?」
銃を下ろし、こちらの様子を伺いながらおじさんは近づいてきた。
「お前何勝手に使ってるんだ!」
おじさんはヨウを怒鳴ると重い拳骨を1発、頭のてっぺんにくれた。
少し落ち着いた頃、おじさんは銃を置き、落ち着いた声で言った。
「どうして勝手に溶接なんてしてたんだ?」
おじさんの質問に、ヨウは涙目でパーツをじっと見ながら答えないように、ルイとのルールを守るために、ただ唇を噛んでいた。
するとおじさんはヨウの作ったパーツを持ち上げると、回しながらじっくり見た。
「車でも作ろうとしているのか?」
おじさんがヨウに車の直し方を教えた。だから当然、おじさんはヨウ以上に車に詳しいし、それ以外の機械のことも知っている。
おじさんは、パーツを見終えると工場の出口へ向けて歩き出した。
「お前も来い。」
工場の扉を開けながらおじさんは言った。
おじさんと二人で暗い道を歩く。行き先はヨウにはわからなかったが、すぐについた。
「きっとここで車でも作っていたんだろ?」
おじさんは電気のついている空き工場の扉に手をかけ言った。
中ではルイがいつも通り作業をしている。
ガラガラガラ
「ここでルイと一緒に作っていたのか?」
おじさんは扉を開け、ルイを見るとヨウにそう言った。
ヨウはもう隠すことができずにうなずいた。全てバレてしまった。
するとおじさんはルイに1発、ヨウと同じところに拳骨をした。
「お前ら何やってるんだ!」
おじさんはヨウたちを怒鳴った。きっと工場の外にまで聞こえるぐらい大きな声で怒鳴った。
「明日朝から二人とも工場に来なさい。今日はもう帰って寝ろ。」
「・・・・はい。」
真っ暗な家で、明かりをつけ、二人とも椅子に座った。
「ごめん・・・」
ヨウが小さい声でいった。ルイはおじさんに拳骨をもらったところが、まだ痛いのか少し涙目だった。
「おじさんにバレちゃったんだ。溶接しているの。」
「そうなんだ。」
お互い、お互いにギリギリ聞こえるぐらいの小さい声だった。
「これから、どうする?」
飛行機についてどうするか聞いたのはルイの方だった。
「わからないよ。おじさん怒っていたもん。」
「それは夜中に工場を勝手に使ったからじゃないの?」
「わからないよ。おじさんがなんで怒っているかなんて。」
ヨウはおじさんがなんで怒っていたかわからなかった。だけどこの時は、それ以上におじさんから拳骨をもらったことがショックでそんなことどうでもよかった。
「ヨウがおじさんに言ったわけじゃないんだよね。」
ルイの質問にヨウはうなずいた。
「ならよかった。ルールはちゃんと守っていたんだ。」
ルイは目の涙を拭きながら言った。
「じゃぁ僕はもう寝るね。明日おじさんに叱られるの怖いけど。」
ルイはそう言って布団に入った。
拳骨のショックが薄まり、おじさんがどうして明日叱ることにしたのかが気になり出した。
ヨウは小さい頃から何度も工具を勝手に使ったり、お客さんの車を勝手に開いてみたりしていて、その度に「借りるならちゃんと言え!」「お客の車は勝手に触るな!」とその場で怒られていた。だけど拳骨をくれたことなんて一度もなかった。それどころか、少し叱るとその後に道具の使い方や機械の構造を教えてくれた。
でも今回は拳骨をくれた。そしてその場では叱らず、「明日朝から二人とも工場に来なさい。」と言った。その言葉が何度も頭の中を回る。
きっと叱られるんじゃなくて見放されるんじゃないかという考えと何度も頭の中を回るおじさんの声で不安でいっぱいになった。
不安を紛らわせるために寝ようと布団に入り目を閉じると、おじさんの声がより強くなった。
こう言う時に寝ることができるルイが羨ましい、またそう思っていた。
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