第10話 ソウゲン⑩
「あの人は何で殺されないといけなかったんだ。」
あの時、何があったか話終えるとヨウは小さく言った。
「仕方ないよ、逆らったんだから。」
この街では、警官に逆らうと痛い目に合う。そういう暗黙のルールがあった。
徴兵を断り、戦争に行くことを拒んだ。だからきっと警官に殺されてしまったんだ。ルイはこれに何の疑問も持たなかった。ただ、『人が死んだ』という事実に戸惑い、警官の言うことは絶対を再確認しただけだった。だけどヨウは違った。
「仕方ないわけないだろ!」
ヨウは急にルイの胸ぐらを掴み、大声で言った。
「あいつらが銃を作れと言ったから銃を作る、あいつらが戦場に行けと言ったから戦場に行く、そんなのあんまりだろ!!俺たちは生まれながらにして自由であるべきだ!!」
そう言うとヨウは、本棚から一冊の本を持ってきた。その本は、ルイがいつも読んでいる外の世界について他言語で書かれている本だった。
そしてあるページを開きヨウは言った。
「どうしてソウゲンが見れないかわかるか?」
「それは・・・・」
小さく声を出す僕に対し、ヨウはソウゲンのページを開いたまま、問い詰めるように目線を向けた。
「この街にソウゲンがないから・・・。」
この答えに対し、ヨウは首を振って「違う。」と答えた。
「あいつらがいるからだ。」
この時、ヨウが言った「あいつら」と言うのはすぐに理解できた。紺色の服を着た警官だ。
「あいつらがいるから車を作れない、あいつらがいるからソウゲンが見れない、あいつらがいるから自由がない。」
「じゃぁ・・・僕たちはソウゲンを見れないってこと?」
「そうだ。」
ヨウは本を閉じ、本棚にしまった。
「でも、俺たちはソウゲンを見ることができる」
ヨウはルイに背を向けたまま言った。
「どうして・・・?」
ヨウがこっちにきて一枚の折り畳まれている紙を開いていった。
「あいつらがいない、街の外に行こう。」
ヨウが静かにそう言った。その声には、さっきまでの怒りはなく、ヨウの目は本気だと言うことを物語っていた。
「大人になるまでに二人でお金を貯めて鉄やアルミを買うんだ。そうすればきっと作れる。俺たちならきっとできる。」
その飛行機の設計図を見てヨウにどうしても言いたかったことを思い出した。
「できるよ!僕見たんだ!おじさんに頼まれてゴミを捨てに行った時に見たんだ!そこには山のように鉄屑があって、きっと、きっと大人になる前にできるよ!」
「本当に!?!?」
ヨウの目が大きく開き、設計図を持っている手に力が入ったのか紙がくしゃっとなる。鉄屑の山を見る前のルイだったらきっと「くしゃくしゃにしないでよ」と言っていただろう。だけど今の僕はそんなこと気にならなかった。ここに書いてある飛行機が現実に出てくる想像が膨らんでワクワクが止まらなかった。
「本当だよ!ヨウ!鉄だけじゃない、いろんなパーツもあったんだ!だからきっと飛行機に使えるパーツもたくさんあるよ!」
「やったぞルイ!俺たちが大人になる前にこれを作れるぞ!」
喜び、はしゃぐルイたちは、その日、食事やお風呂を忘れ、飛行機の設計図について話し合った。その話し合いは以前話したように否定的なものではなく、ヨウの方から「ここはもっとこうしよう」と言う意見をもらい、ルイはそれを必死に書き込んだ。
設計図は夜が明ける前にとりあえず完成し、一晩中話し込んで疲れた僕たちは、明日鉄屑の山から、パーツを探す約束をして、眠ってしまった。
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