第7話 ソウゲン⑦
数週間後、外の世界では戦争が起こった。戦争っていうのは、国同士での殺し合い。領土を求めて人は人を殺す。
外の世界とは、川、崖、壁で隔離されたこの街にも影響はあった。
徴兵制といって、軍人じゃない人でも戦争に行くことになった。徴兵されるのは、工場で働いている人か警官じゃない大人の男の人で、女の人や子供は免除された。
警官は、この街を守るのに必要だからという理由で、工場員は兵士たちが使う銃やその弾を作らされるために免除された。
ヨウとルイは、まだ大人ではないから徴兵はされない。おじさんも車の工場で働いているから徴兵されなかった。だけど、その日から工場では、銃とその弾を作るようになっていた。
「ヨウ、そんなのはいいからこっちをやってくれ。」
車の整備をするヨウに、おじさんは不機嫌そうに注意した。
銃とか弾なんて作っていて何が楽しいんだ。どうせやるなら楽しい仕事の方がいい。そう思い、ヨウは戦争が始まる前に来た車の整備をしていた。
戦争が始まった今でも、時々車の整備の仕事は来る。そのほとんどは、軍や警官が使っている車で、俺はその仕事が来た時だけ喜んでその仕事をした。
「・・・わかった。」
ヨウは、ため息をつき、返事をした。
手に持っていたレンチをおいて、おじさんたちが作業しているところに行った。
「どうしておじさんの言うこと聞かないの?」
ルイは、むすっとしているヨウに言った。
「聞いたじゃん。聞いたからここに来たんだよ。」
「何そんなに怒っているの?おじさんに怒られたから?」
手を止め、ヨウの方に顔をこちらに向けてルイは聞いた。その顔は、ヨウが不機嫌な理由を本当に知らない様子だった。
「じゃぁ、ルイはこんな仕事していて楽しいのかよ?」
いつもより強くルイにあたった。
「楽しくないよ。だけどしょうがないじゃん。仕事なんだから。これをしなきゃ僕たちはご飯食べれないんだよ?」
ルイはまた手を動かし始めた。
「ルイの方が大人だな」とおじさんが、わざと俺に聞こえるようにいった。
何が大人だ。楽しいことができないんだったらずっと子供のままでいいし。言葉が上ってくるが、それを押し戻して作業をした。
こんなところで喧嘩しても、ヨウの好きなことができるようになるわけじゃないだろうな。
「なぁ、ルイ。」
おじさんがルイを呼び出した。
「これ、捨ててきてくれないか。」
おじさんは、子供には少し大きめの箱をルイに渡した。
「どこに捨ててくればいいの?」
「この地図を見て行ってきてくれ。似たようなのがたくさん捨ててあるから行けばすぐわかるよ。」
ルイは、自分の身に箱を少し乗せるように片手で持ちながら、地図を見ていた。
「わかった!行ってくるよ。」
「気を付けろよ。」
ルイは元気よく返事をして外へ走って行った。
「何で俺じゃないんだよ。」
ぼそっと呟くように言った。
普段ならルイには、ほとんど同じ作業の繰り返しのような仕事が与えられ、何かを捨ててきてくれと言うことは俺に回ってくる。だけど今日はなぜかその仕事は、ルイに与えられた。
さっきおじさんに注意されたこともあり、どこかおじさんの信用を失ってしまったのではないかと言う心配と、おじさんが俺を避けているんじゃないか、そう思うとどこかイライラして言ってしまった。
「お前だと仕事ほっぽって逃げるかもしれないからな。少しは頭冷やせ。」
大人ぶってそう言うおじさんにイライラが増した。そして「は?」とヨウが怒り出す前におじさんは続けて言った。
「俺たちだってやりたくてやっているわけじゃないんだから。」
小さく吐き捨てるように言ったおじさんのこの言葉の意味が、ヨウにはよくわからなかった。ヨウから見るとおじさんはただ、命令に従っているだけだったから。
「どう言うことだよ。」
呆れながらヨウもおじさんと同じぐらいの声で言葉を吐くと、おじさんはため息をついてから言った。
「あぁ、わかったよ。んじゃ表にあるオイル取ってきてくれ。機械の調子が悪くなっちまったからな。」
ヨウは返事もせずに表にでた。
あんな仕事をやっているぐらいだったら、外で薄暗くて、煙に染まった空を見ていた方がまだ楽しい。
ボーッと空を眺めていると荒い声が聞こえてきた。また喧嘩かな、と思いながら声のする方に目をやると紺色の服を着た人と誰かが揉めていた。
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