第2話 ソウゲン②

 食事を終え、お風呂から上がり、ルイとヨウはチェスをしていた。


 「はい、チェックメイト」

 「えーなんでなんで?」


 ヨウはどんどん駒を倒してルイのキングを追い詰めた。

 ヨウはボードゲームが得意だった。ルイは毎回、挑んでは負け、挑んでは負けを繰り返していた。


 「だってここに逃げれば・・・」


 数少ない駒で試行錯誤し、逃げ道を見つける。左斜め前にキングを動かし、なんとか逃げることができた。そう思っていた。


 「そこには、ほら、クイーンがいる。」


 ヨウは黒のキングを倒し、そこに白のクイーンをおいた。

 ヨウが勝つ時はいつもそうだ。どこかにクイーンが隠れている。全体を注意しているつもりでも、いつの間にかクイーンが僕の視界からいなくなって、キングを追い詰めている。だからと言ってクイーンにばかり気を取られているといつの間にかナイトやルークに追い詰められてしまう。


 「俺、機械いじりとボードゲームは負けないから。」


 ヨウは額にかけているゴーグルの位置を片手で直しながら、自慢げにいった。


 「そういえば、ヨウってどうしてずっとゴーグルしているの?」


 ヨウがゴーグルに手をかけた時に、ゴーグルが急に気になった。ルイはチェスで負けたことなんて頭から消えていた。

 そのゴーグルは古く、左のレンズにはヒビが入ってた。ヒビがあるゴーグルなんて機械をいじるときに目を守りきれない。だからヨウは機械をいじるときはそのゴーグルと別のゴーグルをつけて作業している。

 ヨウは、ご飯を食べる時も、チェスをする時も、寝る時も・お風呂の時以外ずっとゴーグルをしている。それはここ最近始まったことではなく、ルイの記憶にある限り、ヨウはずっとゴーグルをしていた。だけど、ヨウがそのゴーグルを使っていることは見たことがなかった。


 「これは・・・。」


 ヨウはさっきまでの自慢げな表情から急に視線を下げ、暗い表情を見せた。


 「これは、お父さんの形見なんだ。」


 ヨウはすぐに顔を上げ、いつも通りの表情で言った。


 「そうなんだ。」


 ルイたちにはお父さんもお母さんもいない。ルイのお父さんお母さんはルイが物心ついた時からいなかった。ヨウの両親もヨウが物心ついた時にはもういなかったらしい。だからルイたちはヨウのおじさんに引き取られた。


 「おじさんが『お前が持っとけ』って。顔も知らないお父さんのだけどね。」


 ヨウは笑いながらいった。だけどその笑顔にはどこか影を感じた。

 ルイはヨウがちょっと羨ましかった。ルイは、お父さんの顔も知らなければ形見もない。肌身離さず持っておく大切なものなんて一つも持ってない。だけどヨウはルイと違ってお父さんの形見がある。ちゃんとお父さんがいた証拠がある。それなのにどうしてヨウの顔は、笑っているのに少し寂しそうなんだろう。


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