第12話 落ち込む後輩とイチャイチャ通話
「ああ、今日も面白かったな」
俺は、パソコンの電源を落として、1日を終える。さすがに、学校の準備もあるから、みすずの配信時間は専業配信者と比べたら短めだ。土日は長時間配信になるが、平日は1時間から2時間程度で終わる。
「じゃあ、そろそろ寝るか」
ベッドにもぐりこもうとした瞬間、スマホが鳴った。
画面には、しずかの名前が浮かんでいる。
「どうしたんだ、しずか? 配信終わったばかりだろ」
「うん、そうなんだけど……ちょっとだけ、お話してもいい?」
「ああ、いいぞ。どうした、落ち込んでいるのか?」
「……どうしてわかったの?」
「声がさ、ちょっと低いから。いつも叱られた時とか、そうなってたじゃん」
「センパイは何でもお見通しだね」
「まあ、付き合いが長いからな。さっきの配信での失敗か? でも、あれは動画的には美味しかったじゃないか。みんな笑っていたし、終了後1分には切り抜き師さんたちが動画にまとめて、再生数も伸びてる」
切り抜き師とは、人気動画配信者の生放送の面白シーンを編集して、投稿している人たちのことだ。丁寧に字幕付きで配信の名場面を編集して、海外の人にまでわかるように編集する職人も多い。実際、数時間のまとまった時間が用意できない忙しい人たちに重宝されている。そのおもしろ動画が、配信者本人の人気も高めてくれてくれる。切り抜きからファンになった人が結構多いんだ。
「それは、そうなんだけど……やっぱり、少しだけコメントであきれられちゃって……仕方のないことだとはわかっているんだけど、やっぱりどうしても落ち込んじゃうんだ」
実際、数千人・数万人クラスの視聴者を集める生放送では、多数のファンのコメントにあふれるが、どうしても悪意に満ちたコメントも少しは出てしまう。今回のみすずの失敗も『草』や『ワロタ』と好意的なコメントばかりだったが、いくつか『また、同じことやっているよ。ゲームの才能なさすぎ』とか『もう、ユアクラやめろよ、へたくそ』みたいなコメントも散見した。
悪意あるコメントは、善意に囲まれているコメント欄によって、目立ちやすい。それで病んでしまう配信者が実際に多いのも事実だ。
「でもさ、俺はしずかがやっている配信、すごいと思うぞ」
「えっ?」
「だって、そうだろ。みんな、仕事や勉強とかで疲れてると思う。でもさ、みすずの配信を見たら、心から笑うんだぞ。俺だって、みすずの配信でたくさん元気をもらった」
「……」
「それだけですごいんだよ。忙しい日常を忘れさせて、楽しかった一日に変えてしまう配信ってさ。全員にみすずの善意が伝わらないのは仕方ない。でもさ、それでも、皆が見たいと思ってくれる配信をしているのは、本当にすごいと思う。しずかだって、学校や勉強で大変なのに、そんなところを見せずに楽しく配信している姿を、俺は尊敬している。だから、俺はみすずが好きなんだ」
我ながら、青いことを言ってしまったのはわかっている。でも、推しにはしっかり気持ちを伝えないといけない。インターネット上の別れなんて、もしかしたら突然来るかもしれないからな。
「……そうやって、センパイは無自覚に私を褒めるぅ」
「えっ、なんで怒られてるの?」
「照れ隠しですよ、それくらい察してください!!」
ちょっとだけ、語気を強めて、みすずは笑いながら怒っていた。もう、大丈夫そうだな。
「ありがとうございます、センパイ。元気出ました」
「そっか、よかった」
「はい、じゃあ、おやすみ、センパイ」
「ああ、おやすみ」
少しだけ名残惜しそうに通話は終了した。
※
「はい、じゃあ、おやすみ、センパイ」
通話を切った後で、私はしずかにつぶやく。
「大好き」
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