第11話 何も知らずゲーム配信をする後輩

 俺は社長とのお茶を終えて、いつものように動画サイトを開いた。


『こんすがわ~、クリスタル・クリエイト所属・有栖川みすずです。今日もみんな集まってくれてありがとうございます』


 いつものようにみすずのゲーム配信を見る。ASMRは台本の準備なども必要で、毎日はできないので、みすずの配信はゲームと企画、雑談をメインにしている。たまに、切り札のASMRを配信し、ギャップで視聴者を魅了しているんだ。


 みすずの普通の配信は、優しい声質でまったり癒し系の配信と言われている。癒し系なのに、人懐っこい感じがにじみ出ていて、それが庇護欲をそそるのだ。


『今日は、ユアーズ・クラフトをやっていくよ』


 ユアーズ・クラフト。それは非常に自由度が高いゲームである。特にゲームの目的はなく、ブロックや素材で建築物を自作したり、世界を冒険したりするゲームだ。


 Vチューバー界でも大人気のゲームで、会社ごとにサーバーを作り、先輩後輩のVチューバーが同じ世界で協力しながら、建築物を作ったりするのを見るのが楽しいのだ。特に、こういうゲームは配信者の性格が出やすい。


 建築に目覚めて、複雑な建造物を量産する孤高の建築士。

 仲間を集めてダンジョンや裏世界に潜り、レアアイテムを獲得するために、ドラゴンやゾンビを狩りまくる冒険者たち。

 かわいい動物たちを集めて農場を作るスローライフ好きなまったり農家。


 みすずは、特にバランスが良く、基本的にかわいい動物を集めて愛でていて、先輩たちの冒険や建築を手伝ったりしている。ソロ配信ならほとんど、雑談枠になりやすいまったりエンジョイ勢。


『ねぇねぇ、見て見て。この前、先輩たちの冒険を手伝ったら、偶然、空飛ぶマント見つけたんだよ。これって、高いところから飛ぶと飛べるんだよね。先輩たちが持っているのずっとうらやましかったんだよねぇ。今日はこれの練習枠だよ!!』


 新しいレアアイテムを手に入れて、ルンルンのみすずに、視聴者たちは嫌な予感がよぎっている。


『え~、みんな心配し過ぎだよぉ。私も結構配信で遊んでいるんだからぁ。じゃあ、行くよ、はい! 飛んだーすごい、早いねぇ』

 みすずは、意気揚々と先輩が作った空飛ぶマント滑空用の高い塔から飛び上がる。


『楽しいね。あれ、ねぇ、みんなこれどうやって降りればいいの?』


 その言葉にコメント欄は阿鼻叫喚の状況になっていく。


 ※


『うん?』

『さっそくフラグ回収して草』

『あっ()』

『すごい、空飛ぶマントを失うの(他のメンバーより)ずっと早い!』

『空飛ぶマント全ロスRTAの会場はここですか?』

『おい、そっちにはマグマが大量に溜まった火山地域が』


 ※


『ねぇええええええ、なんか地面真っ赤なんだけど。どんどん落ちていくぅ』

 完全にコントロールを失ったみすずは、まるで太陽に近づきすぎて燃え尽きたイカロスのように、マグマの中に突撃し、レアアイテムもろとも煉獄の炎の中に消えていった。


『いやあああぁぁぁっぁあぁあああああああ』

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