第6話 後輩が朝おこしに来てイチャイチャする

「センパイ、朝ですよ。起きてください」

 まるで、ASMRのシチュエーションみたいな台詞が聞こえて、俺は目が覚める。寝る前に動画サイトの連続再生を消し忘れたかと思ったが、違った。


 そこには、隣の後輩幼馴染が待っていた。

「あっ、やっと起きた。今日から一緒に登校してくれるって約束じゃないですか。何度起こしても目が覚めないから、困ってたんですよ」


「しずか、お前どうやって……」


「大丈夫です。センパイのお母さんにはちゃんと話がついていますから。ストーカーっぽい人がいるから、しばらくセンパイに登下校一緒にしてもらうって……」


「すごくいい段取り力……」


「当たり前ですよ。コラボ配信とか企画とか鍛えているんですから、だから、早く起きてください!!」


 そうやって、布団を取ろうとするしずかの手が止まった。


「うん? どうした」


「いや、そのぉ」


「ん?」


「こういう時って、無理に布団をめくると、そういうイベントあるじゃないですか」


「イベント?」


「うん。センパイのセンパイがその……大きくなっていたりぃ」


「あっ」


「言わせないでくださいよ、ばかぁ。気まずい雰囲気作りたくなくて、言いよどんだのにぃ」


 ちょっと涙ぐむ後輩にドキッとする。

 だめだ、推しに手を出すなんて、最低のことはできない。俺には30万人のみすず・フレンドたちの期待が……


「もう、先に行ってますからね、早く準備してきてくださいよ」


「うん、わかった」


 そう言って、気まずそうにしずかは、部屋を後にする。紺のセーラー服を着たあの後輩が、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで成長しているVチューバーか。ずいぶんと離されたもんだよなぁ。


「あの、センパイ?」

 部屋を後にしたはずのしずかが、ドアの奥から顔を出した。

 ボブカットの髪が勢いで揺れている。


「恥ずかしいから、何回も言いませんよ。一回だけですからね」


「うん?」


「実は怖かったんです。センパイにVチューバーをやっていることを知られて、嫌われたらどうしようって。活動してきて、皆に好きになってもらえることの難しさはよくわかっていたから……でもね、センパイは私を受け入れてくれた。私の努力を認めてくれた。すごいと言ってくれた。それが本当に嬉しかったんだよ?」


「それは、お前が頑張っていたからで……」


「でもね、努力を努力と認めてくれる人がいるだけで、全然違うんだよ? 私は、センパイみたいなリスナーさんのために頑張っている。それがよくわかったんだ。ありがと……じゃ、じゃあ、先に行ってるね!」

 しずかは、久しぶりに見せる満面の笑みで階段を下っていった。

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