【No.025】Flowering Missing Link(13.花澤 風太*8. 佐藤 彩夏)

長編映画のような夢を見た。

最後まで生き残るか、誰かとカップルにならないと脱出できないと宣言された。


ここにいた人たちは性別も年齢もバラバラで、誰が呼んだのかも分からない。

どよめきが起きる中、今度は空から流れ星が降ってきて、地面がひび割れた。


私は訳が分からないまま突っ立っていることしかできなかった。

積極的に声をかけて、できあがっていく二人組を眺めていることしかできなかった。


このまま死ぬしかないのかなって思っていた。

死ねばきっと、悪い夢から覚めるだけだと思っていた。


「すみません! 俺、この子と組むので! マジで諦めてください!」


メガネをかけた男の人がいた。

追いかけてきた女の人は、ぐぎぎと言いながら私を見る。

目鼻立ちがくっきりしていて、すらっとしていて、モデルかと思った。


「……分かりました。けど! 私は諦めませんからね!」


彼女は私をひと睨みして、その場を去っていった。

本当にぐぎぎと言う人を初めてみた。


「大丈夫ですか? あの人と組まなくていいんですか?」


周囲を見回しながら、流れ星から逃げられる場所を探す。

近くの洞窟に逃げ込んで、ようやく息をついた。

あの人に見つからないように、声は自然と小さくなる。


「俺、花澤風太っていうんだ。勝手に巻き込んでごめんね。

あの人、なんか勘違いしてたみたいでさ。ずっとしつこかったんだ」


「あんな綺麗な人やのに?」


「そう、あんな綺麗な人なのにね。マジで死ぬかと思った」


彼女は神崎こころさんというらしい。

ゲームが始まってから付き纏われており、どうにか逃げてきたらしい。

どこまで走ってもずっと追いかけてくるから、かなり困っていた。


「よかったら、私、囮になりますよ。

そうしたら、大丈夫だと思うので」


「何言ってるんだよ、一緒に脱出しよう! それでいいじゃん! 

カップルがどうのとかはあとで考えればいい!」


洞窟がぐらぐらと揺れ始め、私たちは慌てて外に出た。

洞窟は崩れてしまい、前に進むしかなくなってしまった。


花澤さんはお姉ちゃんと同じ大学に通っていて、弱竹輝夜先生のファンで作品についてずっと語っていた。フレームのないメガネをかけていて、しば犬を飼っていて、花が咲いたように笑う男の人だ。初対面のはずなのに、どこかで見たことがある。


誰かがゲームから脱出したとき、花火が上がる。

先生の名前が上がったとき、本当にびっくりした。

まさか、令和の紫式部が参加しているとは思わないじゃない。


『輝夜先生に会いたかった!』


ほぼ同時に叫んだのには笑ってしまった。ずっと穏やかに笑いながら、歴史について延々と語っているうちに、朝になっていた。

あの顔はどこで見たのだったか。確か、リビングのチラシに載っていたはずだ。


「そうだ、この人や」


商店街で配られたチラシに載っていた。

この前、時計台の下で大道芸をやっていた人だ。

名前は違うけど、花のような笑顔はまちがいない。


「アンタ、何やってるの? さっさとご飯食べな」


お姉ちゃんが不思議そうに見る。それはそうだ。

今日も学校に行かなければならない。

あんな夢、さっさと忘れないとね。




陽が傾き、空の色が変わり始めている。今日が終わろうとしていた。

駅前の時計台の下、いつもそれなりに人が集まっている。


この前の日曜日は商店街で秋祭りをやっていて、出店とか福引大会とかいろいろとイベントをやっていた。時計台の下で彼はてきぱきと大道芸を繰り出していた。


大道芸をやっていたときは、メガネをかけておらず、化粧をしていた。

みんなを笑顔にさせていたあの人と、歴史をずっと語り倒していた人と本当に同じなのだろうか。いや、別人かもしれない。そう簡単に会えるわけないもんね。


「チャロ! 待て! 待てって言ってんだろ! どこ行くんだ、とまれってば!」


しっぽをぶんぶん振り回しながら、しば犬が私の前で止まった。

その後を追いかけて、飼い主の人が隣に止まる。

肩で息をしながら、リードを巻いている。


「すみません、なんか急に走り出して……びっくりさせちゃいましたよね」


フレームのないメガネ、穏やかな物腰で話していた。

何が起きてもあまり慌てずに、冷静に対処していた。

忘れるはずがない。


「花澤さん! ですよね?」


「……もしかして、佐藤さん?」


しば犬のチャロと一緒にきょとんとした顔でこちらを見る。




花澤さんは犬の散歩で商店街に来ていたらしい。

何かを感じ取ったのか、目を離したすきにいきなり私のもとへ走り出した。


「あの、昨日のゲームって夢やなかったんですか?」


「俺もそうだと思ってたんだけど……SNSを見る限り、似たような夢を見た人が何人かいるみたいなんだ。集団幻覚か何かと思われてるんだってさ」


「そんなことになってるんですね。知りませんでした」


ニュースにもなっていないみたいだから、幻覚と思われても仕方がない。

世の中、都合よくまとまっていく。

見えないところで終わっていくのだろう。


同じ夢を見た人が何人もいて、一緒に脱出した人が目の前にいる。

花澤さんはそう言いながら、犬をなでる。


どうしよう、どうすればいいんだ。私はどうしたいの。

分かっているでしょ、自分でから言わないと分からないでしょ。


「今度、一緒にお散歩しませんか! 中央公園で!

あそこの遊歩道、歩いていて気持ちいいんです!」


夕暮れ時、ラジオ番組を流し聞きするのが好きだ。

ニュース番組からラジオドラマ、本当に幅広くやっている。

深夜帯のラジオも好きだけど、いつも寝落ちしてしまう。


季節の移り変わりを見ながら、のんびり歩くのが好きだ。

ただ、さすがに夏は無理だ。いくらなんでも暑すぎて、外なんて出られない。

花澤さんは足元のチャロを見ながら少し考える。


「……確かに、今くらいの時期が気持ちいいんだよな。

暑くもなく寒くもなく、体調を崩すこともない。

てか、チャロの散歩コースだけどいいの?」


「はい! 一緒に歩きましょう!」


よし、とりあえず、どうにか繋ぎ止めたぞ。

せっかく会えたんだから、頑張って友達にならないといけない。

連絡先も交換できた。

よーしよし、今日はいい調子だ。悪くないぞ、多分。


「そういえば、チャロ君を撫でてもいいですか?

話には聞いていたけど、あいさつしたことないので」


「いいよー。気に入ってるみたいだし」


チャロを撫でる私を見て、花澤さんは決心したように、チラシを私に見せた。


「今度、これやるんだ。よかったら、遊びに来てよ」


四つ隣の駅で開かれるお祭りだ。出店や特設ステージなど、それなりに大きいイベントのようだ。あそこの駅前はいつも誰かしら演奏している。


写真にはリビングで見た大道芸人がいた。花のように笑うあの人だ。


「この人、ここでもやってましたね。お姉ちゃんと一緒に見てたんです。

みんなを笑顔にできて、すごくかっこええなあって」


「へー……そっか。まあ、俺なりにちょっと頑張ってみるからさ。応援頼んだ」


「分かりました。楽しみにしてますね」


やはり、大道芸人の人と同一人物ということなのだろうか。

応援の意味を考えながら、私は帰路についた。

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