第三話 卵腐らせた事ないから「腐卵臭」がどんなものか分からないよね。(時間が経ち腐った死体にも言える事)

 申し訳ありません 作者の中間考査がありまして投稿できませんでいた。

 今後ともこう言ったこともございますがよろしくお願いします。

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 研究所の成れの果ての様な建物の廊下を天多は歩く。時刻は夜のため辺りが暗く、瓦礫だらけで歩きにくいなかスニーカーのまま散歩をしているかの様な軽い足取りで進む。

 瓦礫の間から赤黒い液体が流れていたり、腕や脚の様なものが落ちている。

 天多は近くの腕や脚に近づき、しゃがみ込んで観察する。バラバラになった手脚だけでも十人分はあるだろう。

 割れた蛍光灯などから火花が散っている。

 天多は一つ溜息をつくと独り言を言う。


「美味しかったのか?これ」


 場違いな発言に見えた(この場合は聞こえた?)かも知れない。しかし、天多の見てきた手脚はどれも共通して、崩落に巻き込まれた程度の傷ではなかったのだ。

 手脚の付け根には、な跡がついていたのだ。偶々、腕や脚だけ残ったかの様に。

 天多には五感と呼べるものがない。その為本来であれば何かを見る事も聞く事も出来ないはずだ。しかし、天多はあくまでも特殊な存在なので目で見ずとも周りを見れるし、耳で聞かずとも周りの音を聞き取れる。そのため、天多の感知能力を他の種族に置き換えるのなら、獣人以上と言える。(悪魔や天使、精霊と言った種族は実態がないことが殆どで五感に頼らず周りを確認する術を所持している。天多やティア、アリアなどもその一例)

 つまり、天多には奇襲は通用しない。何故ならどれだけ気配を消しても察知されるからである。たとえ暗闇であろうとも、相手が透明人間であろうとも。

 天多は掬い上げる様に左腕の肘打ちをお見舞いする。


 ごっぉぉぉ!


 と言う風切り音が聞こえた瞬間、天多の後ろの壁が傷ついた。獰猛な爪で引っ掻いた様な跡が残っていた。

 天多は何かの(十中八九魔獣)引っ掻きを察知した瞬間に下から掬い上げる攻撃をすることでいなしたのだ。

 だが、ちょっとやそっとの攻撃でいなせるほど、甘くはない。

 肘打ちをする際に左膝を立てながら、両の足のつま先を軸に体全体を捻る様にしながら立ち上がる。

 自然な動作で立ち上がった天多は警戒しながら攻撃が来た方を見る。

 そこには天多ですらこれまでの人生で余り見た事のない姿をした異形だった。

 全身を真っ黒の泥や紙粘土で作った人形の様な姿をしていた。

 特筆すべきはその右腕。異様な長さで廊下に着いていた。それと天多の距離は十メートル程、しかし手先は天多の足元スレスレまで来ていた。その手先も人間のものとは到底思えない、猛禽の長く鋭い爪があった。

 グジュグジュという効果音が合う様に伸びた腕が溶けて短くなっていく。そしてとうとうそれの体型にあったサイズになった時、右腕を振りかぶる動作をそれがした瞬間、


 それの心臓部に風穴が空いた。


 天多は何事もなかったかの様に立ち上がり、


「そんないかにもな予備動作されたら罠を張るに決まってるよね」


 当たり前のように罠張ります宣言。

 研究所の壁は基本的に大抵の魔獣が暴れても壊れない様にできている。硬さで言ったらシェルター程だ。それほどの硬さの壁に易々と傷を付ける事ができる魔獣の肉体はそれなりに頑丈だと言える。(遠心力を利用して威力を底上げしていたとしても)

 その魔獣の身体に傷を付けること事態かなりすごい事だ。しかし天多はは当然の様にやってのける。

 天多の動作は全てが自然体なのだ。まるで、そうあるのが当たり前となっているかの様に。

 天多は視線を前に向ける。暗い廊下の奥からペチャペチャと足音が聞こえた。

 ごく自然な動作で腰元から取り出した拳銃を構えた。

 ぶつ切りについたり消えたりする赤色灯の灯りが天多の方にやってくる異形な魔獣の姿を照らした。

 その魔獣は既に左腕を振りかぶっている状態だった。

 西部映画のガンマンの様な状況となる。ここまでくると、先に攻撃を当てた方が勝つ。となるだろうがそれは前提条件が同じだった場合だけの話だ。

 例えるなら、西部映画におけるガンマン同士の決闘はという条件が同じだからこそ、拮抗して盛り上がる。

 考えてほしい、今のこの状況を、天多の手にあるのは拳銃、対する向こうはシェルターを傷付ける攻撃力とそれに見合った防御力を持つ。拳銃なんかで勝てるはずがない。

 お互いの間に遮るものは何も無い。天多の体幹では切れかけの蛍光灯の光が点滅するリズムがだんだんと遅くなっていく。体感時間の延長、時間の流れがこの場だけゆっくりになっているかの様にお互いの一挙手一投足を集中して確認する。

 変化はすぐに起きた。

 蛍光灯が一時的に切れ辺りが暗闇に包まれそしてまた着く。

 一瞬にして天多の眼前まで迫っていた猛禽の爪は四散し、塵となった。

 天多は持っていた銃を腰のベルトに無理やり挟め、魔獣がいた所を見る。そこには黒い染みの様な跡が残っていた。事故物件なんかにありそうな染みだった。

 『掃除するの大変そうだな』天多の思った事はそれだけだった。魔獣との戦いなど日常茶飯事であるかの様に。


「後十体位かな」


 能天気に呟き、左手でポケットの中に入れてあったスマホを取り出して時間を確認する。

 天多の体感時間では今は午後九時くらいだと思っていたが、画面に写った時刻は午後九時四十分をさしていた。天多は内心頭を抱えた。

 ここにくる少し前にティアに十時には戻ると伝えていた。

 これまで天多はティアと決めた時間以内に帰宅する事で自由時間を得てきた。もし破れば、ティアさんのヤンデレが発動し監禁されてしまう。実際に以前時間に遅れたことがありその際、家の地下に監禁された。しかも、身体中を鎖で縛られ、身動きができない状態にされ、周りにはティアの十八番の魔術によるトラップのオプション付き。これには流石の天多も地下室から出るのに三十分もかかった。(一般人は一生掛けて出られるかな位の難易度)天多が面倒だと感じているのは、ティアをどう宥めるかで、地下室からの脱出では無い。

 今の内に遅れることを伝えた方が弁明の余地があるのではと考え、ティアに電話をかけようとする。

 そんな天多の手首を天多と比べて小さな色白の手が掴んでいた。

 恐る恐る顔を上げていくとそこには、愛おしい少女の顔があり、少しだけ、薄らと笑みを浮かべていた。その笑みに恐怖を感じた天多は探りを入れる。


「やあ、こんな所で会うなんて奇遇だね、ティア」


 我ながら下手な探りだと自己嫌悪に陥るが無視して進める。

 対するティアは一切微笑を崩さず淡々と告げる。


「天多君の帰りが遅くなりそうな気がしたからですよ」


 あれ?この娘ってエスパーだったっけ?と放心仕掛けるがよくよく考えれば自分もティアがどんな行動をしているのか何となく分かるため、スルーすることにした。

 気になったことがあったためティアに問う。


「アリアはどうしたの?今日は一緒にいたよね?」

「アリアちゃんはもう寝ましたよ。なんでも今のうちに寝とかないと本能のせいで目が冴えてきちゃうとのことでした」

義妹いもうとが健康的に育っている様でお兄ちゃんは嬉しいよ」


 わざとらしく右手で涙涙を拭う様な仕草をしながら言う。


「「・・・」」


 静寂が辺りを支配する。あまりの寒さにティアが天多の手を放す。

 ショックを受けながらも、互いに状況確認をする。


「確かここは魔獣関連の研究所でしたよね?」

「そう、何があったか知らないけど、僕が来た時には既にこうなっていたよ」

「となると、飼育していた魔獣の暴走でしょうか?」

「だろうね。確定した訳じゃないけどその説が濃厚だと思う。大方、合成魔獣キメラでも作って制御にでも失敗したんじゃない?」

「そうなのですか?」


 天多は首肯して、ため息を吐く。


「これまでにこの周辺で二回魔獣と戦ったよ。それらは人型の泥人形の様な容姿をしていたよ。自然発生した魔獣はあんなのにならないね」

「そうですか?」


 ティアの疑問は確かに正しい。自然発生する魔獣にはいくつか種類がある。

 一つ目は、雄と雌の二匹が子をなす事によって自然と増える繁殖。実体を持つ魔獣が生まれる。

 二つ目は、魔力や、地脈の溜まり場から自然発生する事。実体を持たない、精神体の魔獣が生まれやすい。魔力などで実体を作れるものも生まれる事がある。

 三つ目は、何かを対象として、人の持つ感情が魔力などを伴い集まって自然と形を成し生まれる事。二つ目とほとんど同じ。

 一つ目と二つ目は、ある意味一般的であり「魔獣はどうやって増えるの?」と言う子供の良くある質問に対する答えとして使われる。

 しかし、三つ目はかなり稀で百年に一度あるかないか位だ。しかし圧倒的に数が少ない代わりに個体としての強さはかなりある。そして、一つ目と二つ目との圧倒的な違いは、を有しているか否かである。

 本能で物事を決めるのではなく、順序立てて決めている。これはかなり厄介ではあるが、対話が可能であると言うことを示す。そのため、三つ目で生まれた存在は、魔獣とは呼ばれず、精霊や土地神と呼ばれる。

 土地神や精霊と呼ばれる存在は寿命と呼べるものはなく、基本的に不老である。ただし、不死ではないため殺す事は可能。(滅茶苦茶難しい)そして存在した年数と強さ(神としての位)がイコールで結ばれる。長く生きるほど強くなり、知恵も使うためその相乗効果は計り知れない。

 そして、三つの種類以外にも、人工という手段もある。

 科学的及び魔法・魔術的に魔獣を改造することによって生まれたケースだ。まともな人は唾棄するがそれがアリなのがこの世界と呼べるものだ。魔獣どうぶつ愛護団体(笑)が居たら発狂もんだろう、と言うか居るには居るそう言う団体。天多やティアはどちらも毛嫌いしている。

 改造においてティア曰く


「変わるきっかけはあくまでも自分自身の意志と膨大な時間です。自然と変わっていくものなのです。それを強制的に行うとは許せません。」


 愛護団体に対して天多曰く


「彼奴等は現実と言うものを見ていない。人工的に改造するのはダメなのは同意見だが、魔獣を狩るなと言うのはお門違いだ。彼奴らは気付こうとしない、魔獣を放っておくことが何を意味するのか」


 とのこと。

 ここで全て語る事はないが、要約すると「限度を知らない・やり過ぎている=嫌い」の方程式が出来上がっており、かな〜り、毛嫌いしている。

 天多達はかつてキメラなどとも戦った事があった。ましてや、キメラが造られる瞬間に立ち会ったこともあった。当然、ティアが絶対零度を思わせる静かな怒りを宿し研究者ごと壊滅したが。当然天多はティアがキレていることを理解していた為、ティアの攻撃による周囲への被害を最小限に抑える事に本気を出したのは言うまでもない。

 だからこそ、ティアが相手がキメラだと分かり悲しみの表情を浮かべだろう。

 そんなティアの頭を天多は優しく撫でる。

 突然の行動に驚いたのか、可愛らしい悲鳴をあげる。


「ひゃっ!!」


 だがそれも一瞬。慣れてきたのか気持ちよさそうに目を細める。

 天多はティアの行動を見て愛おしく思う。天多の内心、最愛の彼女に悲しい思いをさせたくはない、しかしながら悲しそうな顔をした彼女も可愛いと思ってしまっている葛藤を知ったか知らずかティアははにかみながら天多に抱き付く。

 当然のティアの抱き付き。当然天多の頭の中は真っ白に染まり、唐突に着色されていく。自分が今とるべき行動を再確認した天多はティアの肩を優しく二回叩く。

 ティアは顔を上げ天多の顔(正確には目)を見つめる。


「良いかい?ティア。今この場には後十体のキメラが居る。せめて、殺して楽にしてあげよう?」

「はい。そうですね」


 天多の言葉で自分が何をするべきなのかを理解したティアは決意を込めた顔をする。


「早く終わらせて、夜明けまで散歩でもしよう」

「ダメです。明日は色々あるんですから」

「とか言いつつ本が読みたいだけじゃないの?」

「うっ!」


 図星だった様だ。すぐに顔に出る彼女を愛おしく思いながら言う。


「良いよ、僕はリビングでホラー映画でも観ているから。デートはどこでも出来るからね」

「ありがとうございます。天多君」

「さて、そろそろ行こうか。この状況をデートだと言えないから、とっとと終わらせよう」


 魔獣が実験に使われたこの場でイチャつける程、この二人はサイコではない。ちゃんと常識と言うものを所持している。が、人間達が死んでいるこの場で抱き付くティアもティアだが、抱きつかれて喜んでいる天多も天多だ。

 天多とティアは前を向き、全速力で走り出す。



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あとがき

皆さんこんにちは?こんばんは?おはようございます?灰色熊です。

今回の話は前回からの続きで、昴君達の来る前日の話です。

今回は魔獣という単語がキーワードとなっています。

今話の天多の戦い方の説明、と言うか種明かしは次回行います。

タイトルにつきましては「知っている人はかなり稀少な人生を歩んでいるよね、普通の人生歩んでる人は知らないと思うんだ」的な意味があります。だからどうしたという話なんですけどね。

応援、ありがとうございます。

また次回お会いしましょう。



昴君達は今章の主役的立ち位置なのに登場してないね、どうしよう?

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