【短編824文字】雛鳥『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』

ツネワタ

第1話

 ある遠方の村で『この世で最も恐ろしい獣』が捕らえられたと聞いた。

 力に覚えのある屈強な一人の男がどんなモノかと興味本位で見に行くと……。


 檻の中に捕らえられていたのは小さく虚弱な一羽の雛鳥だった。

 片翼が折れ、足はもがれ、クチバシは欠けており、体も小さく、痩せている。


 さぞ大きな体躯を持つ巨獣であろうと思っていた彼はおおいにガッカリした。

 しかし、檻で飼い慣らされた雛鳥は人の言葉を理解する事が出来た。


『私は翼が折れて飛べません。どうか食べ物を恵んで下さいませんか?』


 男は雛鳥を哀れと思い、長い旅のために持ってきた食糧少し分け与えた。


『私は足をもがれて動けません。寒いので日向の方に動かしてくれませんか?』


 男は雛鳥を不憫と思い、檻の中に入り小さな体を日の当たる場所まで連れて行った。


『私はクチバシが欠けて物を噛む事が出来ません』

『どうか私の代わりに食べ物を咀嚼して下さいませんか?』


 男は雛鳥を痛ましく思い、代わりに食べ物を噛んで口移しで食わせてやった。


『私は体が小さく思うように生活が出来ません』

『友も家族もおらず、頼る相手も持ちません』

『どうか少しの間私の面倒を見てもらえませんか?』

 男は雛鳥を気の毒に思い、当分の間だけ面倒を見てやる事にした。


「止めろ! ソイツに食べ物を与えるな! 餓死させるつもりだったのに!」

「おい! 何をしているッ? 早く檻から出ろッッ!」

「ダメだ! ソイツに近づくな! 面倒を見てはならんッ!」


 男の来訪を聞きつけた村人たちがこぞって男を止めようとするが……。

 彼は一切話を聞こうとしなかった。

 何故なら雛鳥を哀れに思い、不憫に思い、痛ましく思い、気の毒に思っていたから。

 それから数日、数週間、数か月が経った。



 男は今も檻の中に住み、かの獣と共に暮らしている。

 いや、というより【飼い慣らされている】と言った方が正しいかもしれない。

 麻薬のような哀れみに快楽を覚えながら男は思う。

『可哀そうに…… 可哀そうに……』

『いつまでも傍にいるよ。いつまでも……』

 

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【短編824文字】雛鳥『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』 ツネワタ @tsunewata0816

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