【短編826文字】賞味期限『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』

ツネワタ

第1話

『三日後、あなたの賞味期限が切れます』



 未来局から青年に手紙が届きました。

 どうやら彼は三日後、人として好まれる期間の最終日を迎えるということです。



 彼には今まで苦楽を共にしてきた親友がいました。

 しかし、心配はかけられないと縁を切る事にしました。


 こればかりは仕方ありません。


 彼には長年付き合っている恋人がいました。

 しかし、心配はかけられないと縁を切る事にしました。


 こればかりは仕方ありません。


 思えば彼は何かに対して心配ばかりする人生だったな、と気づきました。

 自分の期限が切れる前日に彼は病院に行って医者を訪ねました。



「どうしても心配性が治りません。どうか気楽になれる薬を頂けませんか?」



 そういって医者が寄こしたのは小さな袋でした。

 中身は分かりませんが家に帰って服用しようと思い、玄関のドアを開けると――。



「期限が過ぎてもすぐに捨てる必要なんてないさ。バカだな」


 親友がそこにいました。焼きたてのサンドイッチパンを振舞ってくれるようです。


「すぐに傷むわけでもないでしょうに。本当にバカな人ね」

 恋人がそこにいました。煎れたてのコーヒーの香りがしています。



 すると、未来局から再び手紙が届いていました。



『明日、あなたの賞味期限が切れます。しかし――』

『人としての安全性や風味など全ての品質が完全に損なわれる訳ではありません』

『品質は下がりますが、衛生面で心配される必要はないでしょう』


 親友のパンは酢漬けのピクルスやチーズと良く合いました。


 恋人の煎れてくれたコーヒーは気分を落ち着かせてくれました。


 ふと、医者からもらった小さな袋の事を思い出して中身を確認してみると――。


 手書きのメモが一つ入っていました。


 そこにはある政治家の言葉が引用されていました。



【払い過ぎたモノは返してもらいましょう。それが一番です】

【心配とは、取り越し苦労をする人々が支払う利息のようなモノだから】



 さて、満腹になった彼は少し眠たくなってしまいました。

 こんな時は気楽にのんびりお昼寝するに限ります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【短編826文字】賞味期限『3分で星新一のようなショートを読んでみませんか?』 ツネワタ @tsunewata0816

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ