第6話 オーメン

「相変わらず派手好きのようだ」

「なんだ見えるのかい?」

「魔力が籠められたものなら見えるとも。それでどういうつもりだ」

「どうとは?」


 相変わらず核心的な話は避けるような口ぶりにイライラする。


「レイナ・ラッドの事だ。お前が目に掛けるような娘には見えないが」

「ひどい言い草だねオーメン。彼女の父とはいささか交流があったから何かあれば頼ってくれと言っていたのだよ」

「嘘だね」

「なぜそう思う?」


 長い付き合いになるがこいつとの会話は本当に疲れる。まだダミアンの相手をしていた方が楽なくらいだ。


がその程度の理由で貴族の娘に手を貸すなんてありえない」

「いやだな。僕はそこまで傲慢な人間じゃないよ」

「ならなぜここに来た。治療ならもうじき終わる。それこそ寝る時間もない多忙な学科長の君がこんな所に来る理由なんて――そうかこれが理由か」

「ははは。話が早くて助かるよ」


 そうリチャードの狙いはこれだったという事か。この第6エリアで私と話をすること。普通に接触しなかったところを見ると何かそうできない理由があるという事か。


「出来れば自然な形で君と接触したかったんだ。僕も昔に比べ随分立場が変わってしまったからね。気軽に友人に会うだけでも勘繰る馬鹿は多い。幸いここなら魔法による傍受対策もしてあるからね。ちょうどいいと思ったんだ」

「それで、用件は?」


 そういうと初めてリチャードは真剣な面持ちで私の顔を見た。


「王の病については知っているだろう。どうやらそろそろではないかと言われている」

「――そうか。ならこの都市もまた変わるな」

「そうだね。だがまだ早い。学科長会議でも議題に上がっているんだが王が崩御されたタイミングで一気にこの都市の主導権は変わる。貴族制は消え、今の皇族も消えるだろう」


 その話は噂でもよく聞く話だ。そうなった場合第6,7エリアは他学科と同じように魔法使いの研究所としてそのエリアが活用されるようになる。


「現在の有力候補として挙がっている魔法使いが厄介でね。彼の掲げている研究テーマが魔法戦略兵器研究学というものだ。論文を見たが今はまだ机上の空論だろうが設備と人員がいれば可能になる日が近づくだろう」

「兵器だと? なぜ今更」

「隣の大陸で戦争がいまだ活発なのは知っているかな。だが近々その戦争が終わるそうだ。そしてそこの王は周辺国を取り込み皇帝となり次はこの都市を攻めるという噂がある」

「まさかそれに対抗するために?」

「表向きの理由はそうだ。だがそれが本当の理由ではるまい。残念ながらまだ真意は確認出来ていないがそれでも危険だと感じざる得ない」


 戦争か。ようやく終わったと思っていたはずなんだがね。


「さて、脱線したな。本題だ。ビルワース王に娘がいるのは知っているかな」

「まて急に話が見えなくなったぞ」

「言っただろう。本題だ。名前はセシリア。今は第3エリアの魔法教育科にある学園に通っているのだが彼女は――」


 少しためリチャードはゆっくりと口を開いた。


「魔法が使えないんだ」

「馬鹿な……ありえない」

「だが事実だ。何人かの施術士にも見せたが皆匙を投げたよ」


 魔法が使えない人間なんて見たことがない。仮に魔法が使える人間と使えない人間がいるとすればもっと論文など出てもおかしくはないはず。


「それを私に診ろと」

「今はなんとかごまかしているがセシリアはもうすぐ進学する。そうなると魔法実践の授業などが多く出てくるはずだ。今はまだ噂レベルで収まっているがもしそこで本当に魔法が使えないと周囲に広まれば間違いなくこのビルワースの状況は一変する」

「おい、まさか……」

「そうだ。僕の考えとしてはセシリアには王位を継いでもらいたい。実際学科長にも僕を含めそういう派閥が出来始めている。いつかは王制が終わり、貴族もこの都市から消えようとも今ではない」


 そう少しずつ力強く言葉を発するリチャードは私の目を見た。


「頼む。オーガル・メイスン。君なら可能なはずだ」

「――こういう時にフルネームで呼ぶのはどうかと思うよ」

「効果的だろう? 報酬も弾む。すべての財産を教育学科に捧げ、そのまま世捨て人になった君の事だ。碌に食べていないんだろう」


 それを言われると痛い所だ。ダミアンに最後に食べさせたのが薬飴だったしな。


「はぁ確か今の第3エリア学科長ってアルフォンスだったかな。私苦手なんだよね」

「ははは。彼は君のファンだもんな。だがそのおかげで融通も利く。さてそろそろ時間だ僕は行くよ。詳細はまた追って連絡する」


 そういうとリチャードは踵を返しそのまま歩いていくと近くに止めてあった飛行型魔術起動に乗りそのまま空へ消えていった。



「あいつ免許持ってるのか……いいな」

「先生! お話は終わりましたか」

「ああ。治療は終わったかい?」


 声のする方へ振り向くとほくほく顔のダミアンが屋敷から外へ出てくる所だった。


「はい! とてもいい顔が見れました。依頼料もほら結構いただけましたよ!」


 手には膨らんだ革袋が入っている。あの量なら一回の治療料で考えると随分高いようだ。


「随分もらったね」

「出張料だとそうです! それでまた新しい仕事ですか?」

「ああ。ちょっと出向する感じになりそうだ」

「ひっひっひっひ。また楽しい顔がいっぱい見れるとうれしいですね!」


 いや私にそんな趣味ないからね?


 こうして私たちは自宅への帰路についた。



「あ、帰りもファストダイブ使いましょう。その方が早いです!」

「えぇ……」




※以上でこちら完結です。

久しぶりに違うお話や設定とかを考えるのが楽しかったです。

打ち切りみたいな終わり方になっておりますが、短編で書くというのが僕の技量ではできませんでした。当初は治療して終了というシンプルな構成にしようと思っていたんですがどうしても話の盛り上がりに欠けるような気がしてしまいプロットの段階でいっそ普通に長編書くつもりで設定やらキャラやら考えて、その第1章の部分で終わらせようと思い至った形です。

そのためかなり中途半端な所ではございますが、お付き合いいただきありがとうございました!!!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

施術士オーメン カール @calcal17

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ