第2話 交通事故は突然に
ここ魔法都市国家ビルワースは大陸で一番大きな国だ。どれくらい大きいかというと大陸の約4分の1をすべて人が住む都市となっている程度にはデカい。以前はこの10分の1程度の大きさだったのだが戦争が終わり戦いに向かっていた魔法使いたちの仕事がなくなったため口ぶちを作るために様々な魔法使いたちは自分の魔法を生かし仕事を始めた。その結果ここビルワースは全部で7つのエリアに分かれる巨大な都市となっている。
中心は貴族街となっており、さらにその中心には皇族たちが住んでいる。その外側を囲うように5つの区切りがありエリア分けされている。それぞれ特色があり魔術起動工学学科、魔法生物研究学科、魔法教育学科、魔法医療研究学科、魔法通信工学学科の5つだ。
ちなみに軍部は存在していない。なんせどのエリアに所属している魔法使いたちも皆があの戦争に参加し猛威を振るった猛者たちだからだ。すべての魔法使いが集うとまで言われたこのビルワースにケンカを売るような国も存在しない。
「いやー貴族街に行くの初めてだから楽しみです!」
「ないと思うけど言葉遣いには気を付けてよね」
この国の貴族はそこまで力が強いわけではない。というよりかなり弱いのだ。昔はそうでもなかったが、現状経済を回している各エリアにいる学科長の権力が中央にいる皇族と同等となっているため、必然貴族の存在意義もいまだ下がりっぱなしだ。
そのため金食い虫と裏では言われているほどにこの国では貴族は嫌われている。だが貴族は貴族だ一応礼儀作法は守っておいてよいだろう。ダミアンが望んでいるような膨大な治療費は多分望めないだろう。
住処を出て第4エリアを歩く。まずは鉄道に乗る必要がある。流石に貴族街まで行くのにここから歩いて移動したら6日は掛かってしまうからだ。
「先生! 鉄道で行くんですか?」
「え、そうだけど」
そういうとダミアンは指を振りながらチッチッチと何やら恰好付けている。どこで学んだのだろうか。
「古い! 先生は古いです!」
「え? 突然のディスに私の心は砕けそうだよ?」
常に知識を最新の情報をアップデートするために態々第5エリアの”近代魔法使いの穢れ”を取り寄せているんだぞ。
「鉄道で移動したら今からだと5時間かかりますよ!」
そういって懐から懐中時計を取り出し私に見せてくる。そりゃ遠いし仕方ないでしょう。先方にも多分今日の夜に着くって返信もしている。最近のレターバードは優秀だからもう届いているんじゃないかな。
「ほかに何か方法があるのかい?」
「ええ! 先月第1学科から発表された最新作の魔術起動!
まるで歌を歌うように両手を広げ回りながら嬉しそうに話をするダミアン。君は何を言っているんだい?
「その名も! ファストダイブ!!! 筒状の発射台から特定エリアに射出し超高速移動を可能にする夢の魔術起動です!!!」
何だ随分物騒な魔術起動が発明されたんだな。っていうか着地とかどうするんだ。
「それって着地は……?」
「この程度の着地が出来ない魔法使いは死ねばいいんです!!」
それって欠陥じゃないか? いや確かに熟練の魔法使いなら可能だろう。でもどの程度の速度で移動するか知らないが着地失敗するとつぶれたカエルどころの騒ぎじゃないぞ。
「大丈夫ですよ。山なりに発射されるので落ちる時は割とゆっくり落ちるみたいです。なので慌てず確実に飛行魔法を使えば大丈夫ですよ」
「いやいやいや。その弾道ってちゃんと飛行魔法空域に行けるように弾道計算してるの? 他の魔術起動に乗った魔法使いと衝突したら痛いどころじゃないよ」
「そこはちゃんと計算してますよ。流石に交通違反になりますからね」
最近は飛行魔法で飛ぶ魔法使いは少ない。なんせ燃費が悪いのだ。一般的な魔法使いが飛行魔法を使って空を飛んだ場合、おおよその飛行時間は約30分。そのあとはしばらく魔欠状態となるためしばらく何もできなくなる。そのために魔力を流し起動する魔術起動を使って空を飛ぶ魔法使いが多いのが現状だ。そのため魔法使いの飛行が可能な空域は地上から500メールまでと決まっており、それより上は飛行魔術起動専用空域となっている。どうように500メール以下の高さを魔術起動で飛ぶのも交通違反の対象だ。
ちなみに私は飛行魔術起動免許証を持っていないため乗れない。くそぉ。
「……ちなみに事故の原因はなんだい?」
「確か、ファストダイブ同士の接触事故みたいです。なんせ時速500カロで発射されるのでぶつかったら本当に木っ端みじんみたいですよ」
「赤い雨が降るね」
いや雨どころじゃない。固形物も一緒に振ってくるよね、それ。
「っていうか音速超えてるじゃん。危ないよ」
「ええ。そのため今は速度を抑えて100カロで飛ばすみたいです。つまらないですよね」
何もつまらなくないんだよダミアン。君はもう少し道徳を覚えるべきだ。今度絵本取り寄せて読ませる必要がありそうだ。まあまた燃やされそうだけど。
※用語説明
魔術起動:魔力を使い様々な現象を引き起こす道具の総称。
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