第7話 初心者講習

1-7


 ギルドの裏にある訓練場に入ります。

 訓練場はだいたい高校のグラウンドぐらいありますね。周囲は結界に覆われ、その向こう側に壁も見えます。

 ちなみに壁の鑑定結果です。


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<アダマンタイト> 伝説 (普通)

魔力を弾く性質をもった金属。

密度が非常に高いため、非常に硬いが、重い。

展性、延性が低い割に粘り気が強いので、耐久性はヒヒイロカネに次いで高い。

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 やはりありましたね。アダマンタイト。ファンタジーの定番です。

 ヒヒイロカネも確定。

 これはオリハルコンもありそうですね。



 さて、すごくぴっちりした人が居るらしいのですが………。


 いましたね。いましたけど、どうしましょう。すごく行きたくありません。

 だってあそこに居るの、世紀末銀行マンですよ?

 人違いであることを期待して周りを見渡しますが、他にそれらしき人は見当たりません。

 後からきた新人らしき人たちも彼のところへ集まっていきます。


 ……いきましょう。

 例え世紀末でも、講師を任されているなら問題ないはずです。……たぶん、きっと、ないといいなぁ。


 意を決して近づきます。

 心の準備はたどり着くまでに済ませます。――よし! ドンと来い!


「よし、集まったな。これから初心者講習を始める。俺は今回講師を務める、Aランクのシンだ。」


 …………あれ?もしかして別人?

 いえ、あの七三分けに、神経質に揃えられた端々は世紀末銀行マンで間違いありません。

 どうゆうことでしょうか?


「さて、お前らも知っている通り、ここ、リベルティア王国は東大陸最北にある未開地、『竜魔大樹海』に接している」


 いえ、知りませんでした。

 なんて言ったらヒャッハーしてくれるでしょうか?


「特にこのリムリアは辺境にある街として、最前線の砦の役割を持っている。

今日はこの街で冒険者をしていく上で必要な事を学んで貰いたい。」


 予期せず国と街の名前が知れました。ラッキーです。

 とか考えている間にも、シ、シ、シ……もう世紀末銀行マンでいいでしょう、話は続きます。


「まず、冒険者にとって一番大事なことはなんだと思う?」


 はて、なんでしょう?


「力だろ!」

「いや、観察力だな」

「はぁ? 何言ってんだおめえら。金に決まってんだろ」


 なにやら周りが色々言ってます。

 二番目の人に私も賛成ですね。


「残念だが、どれも違う。一番大事なのは、生き残ることだ。生き残らなきゃ金も手に入らない、持っていても意味がない。特に、リムリアで仕事をする場合、森で何か異変があったらなんとしても生き延びて情報を伝えなければならない。さもなければ、街、いや国ごと滅びるかも知れない。その為の観察力であり、力だ」


 なるほど、道理ですね。


「だからお前ら、冒険するんじゃねぇぞ」

「冒険しねぇで冒険者があるか!」


 金が大事な彼が叫んでます。

 少々耳に辛い声量ですが、私も"冒険"者なのに冒険しないのはどうかと思いますね。成長も無さそうです。


「勘違いしてるみたいだな。俺が言ってる冒険ってのは、無謀な真似って意味だ。準備を怠り、勝算が万に一つもない事をしても死ぬだけだぞ? むしろ勝てる可能性が少しでもあって、最悪でも逃げられる状況ならガンガン行くべきだと俺は思っている。もちろん準備を万端にした上でだがな。挑戦は人を成長させるが、冒険は寿命を縮めるだけだ。そこらへん、しっかり心に刻んどけよ?」


 ……ふむ、なるほど。意外といいこと言いますね。世紀末銀行マンのくせに。


「さて、戦闘訓練に移ろう。そこに刃引きした武器があるから好きなやつ持ってこい」


 そういって彼は訓練場の隅を指します。そこには長剣やメイス、大楯、さらには巨大なチャクラムらしき物まで、様々な武器が入った木箱がありました。


 さて、何を使いましょうか。

 今朝確かめた膂力を活かすなら重量級の武器が良さそうです。


 そう思って戦鎚やハルバードを手に取ります。

 しかし、打撃なら素手で十分ですし、何より素材を駄目にしてしまいそうです。ハルバードも、前世ならともかく今現在の私に扱える気はしません。スキルがあるなら話は別ですが。


 よくよく考えてみると、攻撃手段は魔法で十分なんですから、武器は魔法が効きづらい相手への手段としてあればいいという程度なんですよね。

 そうなると身を守る盾として使えた方がありがたいです。


 ……巨大チャクラムが気になる。

 褐色美少女アマゾネスになってたら間違いなく手に取っていたであろう形状をしています。

 なかなかロマンを感じさせますが、隙間があるので盾としては微妙ですね。


 その強烈な誘惑を強き魂をもってねじ伏せ、大剣を手に取ります。

 刀剣の心得は、受験戦争に身を投じる前に祖父から習っていたので一応あります。刀以外は嗜む程度ですが。

 刀と違い、“斬る”というより“叩き切る”西洋剣、それも重い大剣だと、刀のソレは活きるものではないと思っていましたが、私の今の力なら受流すくらいには流用出来そうですね。

 これは決まりです。


 私が悩んでいる間にさっさと得物を取って戻っていた同僚に合流します。


「よし、全員取ってきたな。今から一人ずつ、俺と模擬戦をしてもらう。武器の細かな指導は無理だが、他の部分に関しては満足のいくものを約束しよう」


 ということらしいので、最初の一人と世紀末銀行マンから距離をとります。戻ってきた順ということで、私は最後になりました。


 ちなみに彼の武器は片手用の、先端に槍のようなものがついた両刃の戦斧です。他にも顔が隠れる程度の大きさのラウンドシールドを腕につけていますが、期待を裏切りませんね。


 私のほかは四人。力、力いってた脳筋はなんと、短剣使いでした。そして一番弱かった。

 観察力と言っていた人は弓使い、シーフでしょう。

 三人目は魔法使いだそうで、敵の接近を許した場合を想定した杖術です。みごとなへっぴりごし。

 四人目は金の亡者。なんと四人の中で一番強い。

 まあ、私からすれば四人とも大して変わりませんね。

 彼らは模擬戦の後軽く指導を受けていました。


 そして私の番です。


「嬢ちゃんの細腕で大剣なんて振れるのか?」


 銀行マンが何か言ってきたので軽く一振りして問題ないことを示します。


「なるほど、問題なさそうだ。それに武術の経験があるな?」


 おや? 今のでそこまでわかりますか。


「始めてもいいですか?」


「ああ、来い!」


 その言葉が言い終わるかどうかという瞬間に一気に間合いを詰めます。


 まずはただ詰める。特殊な歩法は使わない。そして、斬り下ろす。


 広い訓練場に車両事故が起きた時にような爆音が響き渡ります。


 ちょっと強かったかと一瞬焦った私は、ラウンドシールドで大剣を受け止め、ニヤリと笑う彼を見てすぐに距離を取りました。


 ……なるほど、この世界ではただの『人族』でさえこれほどの力を持ちますか。

 これなら全力で打ち込んでも平気そうです。


 今度はしっかりと相手の呼吸を読み、<縮地>で間合いを詰めます。

 そして、袈裟斬り。


 先程以上の力を込められていることに勘付いたのか、彼は盾で受け止めずに受け流すことを選びました。


 前世でなら確実に体ごと持っていかれただろうタイミングで剣を止め、切り上げ気味の横なぎを叩き込みます。


 今度は右手に持った戦斧でこれを受流し、シールドバッシュ。


 避けきれないですね。

 速度が乗る前に、肩からぶつかってダメージを減らします。


 しかしここは彼の間合い。

 衝撃をさらに背後へ逃しつつ後退……


 ――する前に目の前に戦斧についた突起の先が。

 慌てて顔を逸らし、突きを避けます。


 大剣を振って強引に距離をとらせ、仕切り直しです。


 ここまで中段に構えていた剣を、下段へうつします。


 そして神経を研ぎ澄まし、睨み合います。


 すると、彼は私の初撃を受け止めた時同様、ニヤリと笑って――次の瞬間私の首元には鈍く輝く刃がありました。


 まったく見えませんでした。呼吸を外されたわけではなく、ただ純粋に、速かった。


 今朝検証を行った時の余裕など吹き飛びましたね。


「やるな、嬢ちゃん。その見た目でその力、もしかして、『人族』じゃねえのか?」

「ええ、『吸血族』の『真祖』です」

「ほぉ、珍しい。よくみりゃ耳が少し尖ってるな。嬢ちゃんなら森の中層くらいは平気だろう。ただ、さっきのは人相手の動きだな? 魔物相手の動きに慣れるまでは表層にしとけ。おっと、お前らはもちろんまだ表層だからな」


 ここでいう森とはもちろん『竜魔大樹海』のことです。

 今の私は女ですので何か言われるかと思ったのですが、そんな気配はありませんね。むしろ脳筋からは尊敬の眼差しを感じる……。


「ん? 『真祖』なら歳とらないんだったか? もしかして嬢ちゃんじゃないのか?」

「いえ、まだ18なので嬢ちゃんで構いません」

「そりゃよかった。あぁそれと、冒険者としてやっていくなら敬語はやめた方がいい。舐められて面倒ごとを引き寄せるぞ」


 む!? それは嫌です。忠告に従っておきましょう。


「わかったわ」


 やはり違和感が……。そのうち慣れますかね。


「それじゃ暫く休憩だ。そのあと森についてレクチャーして、講習はおわりだな。」


 休憩の後行われたレクチャーでは、主な魔物の痕跡、各層の境の見分け方、入ってはならない場所、採取の仕方、解体の仕方を習いました。

 ちなみに丸ごと持って帰れるなら有料でギルドで解体してくれるそうです。


 なかなか有意義な時間でした。

 講習の終了報告をしにリオナさんの所へ行きます。

 もうお昼なので人気は少ないですね。


「リオナさん、講習終わりました」

「お疲れ様です。アルジェ様。……<隠蔽>なさったようで安心しました」

「はい、助かりました。ありがとうございます。ところで、<鑑定>は初めに来た時ですか?」

「ええ、申し訳ございません。こちらも仕事ですので。」


 それはそうでしょう。危ない人を知る手段があるのに、こういった組織が何もしないはずがない。


「いえ、問題ありませんよ」

「ありがとうございます。

それと、私に対しても敬語ではない方がいいですよ? 薬草を売っていただいた時のような感じで」

「……わかったわ。それにしても、覚えてたのね。なにか、恥ずかしいわ。」

「ふふ、受付嬢として当然ですから」


 あぁそうだ、あれ聞かなきゃですね。


「ところで、せい……講師の彼の事だけど、講習以外であった時と全然違うのね。どうしてかしら?」

「あぁ、普段のシンさんにお会いした事あるんですね。彼、仕事になると普通になるんですよね。まあ、依頼主にもあのような感じでは困りますし、彼もAランクですからね。貴族相手の依頼だと、その辺の態度も契約内容に含まれます。下手に契約を破ると創造神さまの眷属に罰せられますので、仕事時は普通にならざるを得ないのでしょう」


 創造神……、それに契約を破った物を断罪する神の眷属、ですか。

 やはり管理者さんは……。


「ああ、忘れるところでした。ギルドカードをお願いします。」


 その言葉で思考の海から脱した私は、リオナさんにギルドカードをわたします。


「はい、大丈夫です。」


 そう言って返されたのは、渡した時の黒ではなく、青くなったギルドカードでした。


「Dランク、ですか?」

「ええ、シンさんから報告を受けてのランクアップです。

Dまでは戦闘力だけでなれますので」


 なるほど、まあランクが上がるのは悪いことではないですね。

 一先ず今日は帰りましょうか。


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