第6話 確認しましょう

1-6

 おはようございます。日の出ですね。前世の普通の高校生でこんな時間に起きるのは部活の遠征に行く時ぐらいでしょう。知りませんが。

 日没と共に眠り、日の出と共に起きる。健康的ですね。……夜寝ている吸血鬼が健康的かは知りませんが。


 一晩明けて色々冷静になりました。きっと状況に舞い上がっていたのでしょう。まだしっくりこない感じはありますが。


 それはともかく、まず、私、ここがどこか知りません。

 いえ、星の波止場亭というのはわかります。そうではなくてここが何という街で何という国にあるのか、ということです。……そんな目で見ないでください。門兵さんに聞くつもりだったんですよ。その為に攫われた事にしてたんですが……。本当ですよ? まあ、どうにか調べるしかありませんね。

 もう一つ、私って早く戦闘手段欲しくて魔法の訓練してたんですよね? なんで魔力で遊んで終わったんでしょう?

 ……い、いえ、あれには意味があったはずです! ……たぶん、きっと、……あったらいいなぁ。


 反省はここら辺にしておきましょうか。

 今日の予定です。二の鐘がなった頃にギルドで初心者講習でしたね。

 今は一の鐘や明けの鐘――日の出と共になる鐘なので――と呼ばれる鐘がが鳴っているところです。透き通るような音色で綺麗です。

 次に二の鐘がなるはずですが、季節によってこの時間は変わるらしく、今の時期はそこそこながいそうです。暖かいですし、地球と同じく球体の惑星なんでしょう。太陽も見えます。……二つ。


 あぁ、ここはやはり異世界なんですね。

 家族はどうしているでしょうか。妹は友達の家に遊びに行っていたので、まだ私がいないことに気づいていないはずです。両親は国公立大の入試用にとってあったホテルを利用して旅行に行っています。一週間は帰らないでしょう。

 三人には、せめて何か残すべきだったかもしれません……。


 ――今考えても仕方ないですね。


 取り敢えず、朝食は基本ニの鐘がなってからだそうです。それより早い時間でも、前もって言っておけば、用意してくれるそうですよ。サービスいいですね。やはり当たりでした。当然、事前に初心者講習がある事は伝えてありますので、そろそろ用意されているはずです。

 さて、朝食の時間を含めても二の鐘までまだまだ余裕があります。門はもう開いているはずなので、色々検証してみましょう。……これも本当は昨日すべきだったのですが……。はぁ……。



◆◇◆

 ――ここら辺でいいでしょう。

 門からさほど離れておらず、道や門からはよく見えないところにひらけた場所がありました。

 ここなら魔物も出ません。土が踏み固められているので誰かが普段から使っているのかもしれません。

 あと、仮の身分証も銀貨1枚と一緒に門兵さんに渡しておきました。



 さて、まずはどのくらいの身体能力があるかですね。耳や鼻がいいのはもうわかっていますが、チカラが強いというのがどの程度かわかりません。目についた木を軽く殴ってみます。


(ドゴンッ!)


 ……ええっと、クレーター?


 大人が二人手を繋いでも少し届かないくらいの幹を持った大木だったのですが、クレーターできちゃってますね……。

 え? こんなのがそこら辺にいるんですか? 怖くない? だってジャブでクレーターですよ? 『真祖』だからですか?

 ……まあ力が強いのは悪いことではありません。女としては微妙かもですが。

 全力も試しておいた方がいいですね。どうなるかが怖くて全力で殴れず殺されちゃいました、では話になりません。


 ……すぅ……はぁ、いきます。


(バギッ! ドゴベキッ! ガンッ!)

 

 ……今度は心の準備ができていたので大丈夫です。たとえ折れて吹っ飛んだ木がその先でもう一本折りつつさらに飛んで行っていたとしても、遠い目なんてしていませんよ。はい。


 ……蹴り、はもういいですか、対人は全力で加減しましょう。

 大丈夫です。蹴りのほうが得意ですから。ええきっと。


 気を取り直して、次は魔法ですね!

 ええ、やっと魔法らしい魔法です! 講習を聞いてからやるべきかもしれませんけど、知識は発想を狭める可能性もあります。

 まず色々やってみるべきでしょう! 決して楽しみ過ぎてとかじゃないですからね?


 早速やってみます。たしか、イメージが大切って色んなラノベで言ってたはずです。

 森の中ですから、水魔法から試してみましょう。魔力を動かしつつ、指先から水が勢いよく吹き出すところを想像します。

 水圧で金属を切り裂くアレをイメージして……でた! けどまだ弱いですね。圧縮圧縮、むむむむ!


(ドバッ!)


 おぉ! できました! 地面を抉る高圧水流! 学習した私はちゃんと地面に向けてます。


 その後いくつか魔法が使えるようになりました。真空の刃を飛ばすバ……エアカッター、着弾後爆発する火の玉を飛ばすメ……ファイヤーボール、土の塊を飛ばすクレイボール、レーザーで焼き払うシャインレーザー、闇のエネルギーを飛ばすダークボール、さらに光以外の属性を矢や槍よ形にして飛ばす〜アローと〜ランスです。初めの魔法はアクアレーザーと命名。

 いくつかわかったこともありました。

 アクアレーザーとシャインレーザーを除く魔法は、一度体外で純粋な魔力のまま形成してから属性魔法に変換した方が効率がいいです。

 レーザー系も体外の魔力の塊から遠隔起動が可能。ただし手から直接出すより若干発動が遅いです。状況で使い分けましょうか。

 あと、私は闇系統と光系統の魔法が得意です。闇は『吸血族』だからでしょう。光は、<神聖属性適正>でしょうか?

 また、魔法で生み出したものは残らないようです。ただこれはどうにかできそうな気がします。


◆◇◆

 さて、そろそろギルドに向かいましょう。

 一応探してみましたが、この辺りには薬草は見られません。一応高級ハイということですね。

 …………あ、飛行訓練。

 ……次の機会にしましょうか。流石に今からどうなるか分からない事をする気は起きません。ええ、木ドンで懲りました。

 門までは走って帰ることにします。

 かなり早く走れます。軽く走っても稲妻の名で呼ばれる某陸上選手の短距離走くらい出てるんじゃないですか? これは楽しいです。体も軽いしアニメの忍者っぽい動きも楽にできますかね? ……飛べるので意味ないですね。


 ――もう門が見えてきました。

 さっさと並んで入ります。昨日の門兵さんは居ませんでした。彼なら街の名前とか聞けたのに、残念です。



◆◇◆

 ギルドは昨日と違って人といっぱいです。

 この身体の感覚も掴めましたし、魔法も使えるようになった今ならテンプレもドンと来いです!


 そういえば道中、いろんな種族の人を見ました。獣人や人族はもちろん、エルフにドワーフ、ドラゴニュート、ハーフリングもいましたね。

 昨日も同じ道を通ったはずですが、どれだけ視野が狭くなっていたのでしょう……。


「ギャハハハ、よぉお嬢ちゃん。こんな所に何の用ダァ?」


 なんて落ち込んでたら来ましたよ! テンプレ!

 きっと振り返った先には世紀末ヒャッハーが……ヒャッハーが…………銀行マン?


「おぉ? へぇ、いい身体からだ(の能力)してんじゃねぇか? ヒャハハハ! 見ねぇ顔だし新人だろぉ? (冒険者をする上で)いい事おしえてやるよ!」


 ……ハっ!

 トリップしてました。この人こんな口調ですが、めちゃくちゃ身だしなみしっかりしてるんですよ!

 ぴったり7:3に分け、固めた髪に、防具姿ですが、細かな部分もぴっしりそろってます。


 いえ、見た目に騙されてはいけません。セリフがアレすぎます。これは無視です、無視!


 そのままリオラさんのカウンターに並びますが、意外にも世紀末銀行マンは何も言わず去りました。

 まあ、その方がいいので問題ありませんが、何故でしょう? 心が痛みます。


 もやもやしていたら順番が来ました。


「おはようございます。リオラさん。講習受けに来ました」


「!? あ、おはようございます、アルジュエロさん。ギルドカードをお願いします。……はい、大丈夫です。このまま訓練所までお願いします。もの凄くぴっちりした方がいるので、彼のところで集まってください」

「?」


 一瞬表情が強張ったリオラさんでしたが、何事もなかったかのように会話を続けられたので、お礼を言って訓練所へ向かおうとしました。

 すると、リオラさんにが手招きして来ます。不思議に思って近づくと、


「あの、称号とスキル、隠蔽された方がいいですよ。あとお洋服も。お名前はされているようですが」


 ……あぁ!!

 忘れていました。何の為に〈隠蔽〉を貰ったのか……。


 再度お礼を言って離れつつ急いで〈隠蔽〉をかけます。


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<ステータス>

名前:アルジュエロ(川上弘人) /F(M)

種族:吸血族(人族)

年齢:18(18)

スキル:

《身体スキル》

鑑定眼 言語適正 (魔力視) (神聖属性適性)→光属性適性 吸血lv5 高速再生lv3

《魔法スキル》

ストレージ 創翼lv5 飛行lv3 魔力操作lv4 火魔導lv3 水魔導lv4 土魔導lv3 風魔導lv3 光魔導lv4 闇魔導lv5 隠蔽lv MAX


称号:(転生者) 吸血族の真祖 (12/10^16の奇跡) 強き魂 (副王の加護) 寂しい人 うっかり屋


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 これでいいですね。かっこで囲われているのが隠蔽中のものです。


 リオラさんは名前がないのは〈隠蔽〉だと思っていたようですね。今はしっかり変わってます。称号は突っ込みませんよ? ええ。


 適性を隠蔽したのは、『吸血族』が光系統の魔法を使うには先天的に光属性適性のスキルを持っている必要があると管理者に聞いていた為です。こそこそ使うのは面倒ですからね。それと、例の宗教国家への用心もあります。


新しく覚えた〈魔力操作〉は昨日のあそ…ゲフンッゲフン! 訓練の成果でしょう。


 水と光が四なのは、レーザー系の難易度が他より高かったのでしょうか。水は他のも試しましたけど、光は適正がありますしね。闇は種族の恩恵ですね。


 結構あがってますね。

 ……なるほど、確かにこれだけ成長が早いと思い上がるかも知れませんね。私は大丈夫です。消されたくないので。


 ところで、魔導? 魔法だったはずですが、なぜでしょう? 後で聞いてみましょうか。


 あとは……、そういえばリオラさん、服がどうたら言ってましたね?鑑定眼!



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<時空のドレス> 伝説 (不壊/神呪)

時空間の管理者より転生者アルジュエロ(川上弘人)に与えられたドレス。

魂のエネルギーを強制的に吸い取り、成長するそれは、穢れることを知らない。

アルジュエロ以外が着ようとすると拒絶する。

時間、空間に作用するスキルに補正大。


P.S.プレゼントです。あなたが死ねば消えますので。

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 おぅ………。

 これはダメだ。色々ダメだ。

 不壊の神器じゃねぇか。しかも生長武具って……。確かにそんなことをチラッと話した気はするが…

 ついでに神呪?。いや、わかってる。エネルギー消費がそもそもの目的だからな。

 ありがたく貰っておこう………。



 ――んんっ。思わず弘人ひろとが出てしまいました。とりあえず急いで隠蔽しなければですね。


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<時空のドレス> 秘宝 (不壊/契約:アルジュエロ)

かつて一人の職人が娘のために作ったドレス。

着用者の魔力で成長するそれは、長い年月の中で汚れを知らない秘宝にまで至った。

契約者以外が着ることは許されない。

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 汚れないとか破れないとか絶対怪しまれるので、ある程度は残しました。契約云々は盗難防止です。ついでにランクを秘宝アーティファクトにしておきます。


 しかし、こんな物までくれてたんですね。

 武器をくれたのは聞いていました。出した時に望む姿に固定されるそうです。まだ何を使うか決めてないので触ってませんが。


 うーん、最初の機械みたいな印象が強くて管理者管理者って味気ない言い方してましたが、これは変えるべきですね。

 これからは管理者さん、とお呼びしましょう。


 さて、訓練所に向かいましょうか。


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