第31話 触手令嬢、嫉妬する

 

「な……なんとまぁ……!

 学園で、そんな恐ろしいことが!?」

「そいつぁもう、傷害事件じゃねぇか!!」


 大広間に通されたわたくしたち。

 そこでヒロ様は、全てをソフィと、執事のスクレットに打ち明けました。

 ところどころをサクヤさんや会長に補足されながら、それでも、自らの知る限りの全てを。

 しかも、あれだけ強くサクヤさんが会長に口止めしていたミラスコの件までも、ヒロ様はご自身の口で淡々とお話されました。

 勿論、決して口外しないとの条件つきではありましたが。


 事実を知った途端、ソフィはまたもや大粒の涙を黒目からぽろぽろ零しながら、ヒロ様に抱きつきました。


「ごめんなさい、本当に申し訳ありません、ヒロ様ぁ!

 私……私ずっと、ヒロ様を誤解しておりました!

 ヒロ様がそこまで傷ついているとも気づかず、ただただ責めるばかりで!」

「いいんだ、ソフィ。

 悪いのは、ずっと何も言わなかった俺なんだよ。

 ソフィが怒って当たり前だったんだ。ずっと俺のこと、ガキみたくそこらへんで泥遊びして帰ってくるって思ってたんだろ?」

「あぁあぁ、その通りです! 自分が情けのうございます!!

 せめてメイドとして、お身体の異常には気づくべきでした」

「それは無理だって。

 怪我して帰ってきても俺は何にも言わず、風呂からもみんな締め出してた。

 入るなって主人に言われたら、そりゃ入れなくて当たり前だもんな。

 だから、誰も気づかなくて当然だったんだよ」

「それでも……それでも! うわぁあぁ~ん!!」


 ただただ泣きじゃくるばかりのソフィの頭を、ヒロ様の手が優しく撫でていきます。

 あぁ、羨ましい。わたくしもあんな風にヒロ様に撫でていただきたい!!


「毛並み……よく見たら確かに、艶がなくなってるよな。

 俺がいつも服を台無しにして、ソフィに直させてたのは確かなんだ。

 自分の毛を使ってくれてたんだろ? いつも」

「ヒロ様。そこまでご存じだったんですか……」

「ご存じっていうか、会長から聞いて初めて知ったんだ。

 ずっと一緒にいたのにな。情けないのは俺の方だ」


 ソフィはやっと顔を上げ、ふるふる頭を振りました。


「そんなことありません。

 確かに私たちは、体毛を使って様々なものを修繕しますが。

 でもそれは、ノーム族に生まれた以上、当たり前のことですよ?

 お仕えするご主人様に身体を捧げることで、心は満たされる。

 人間や他の魔物がどうかは分かりませんが、少なくともノーム族はそういう生き物なのです」

「そうなのか?」

「えぇ!

 ヒロ様のような可愛らしいかたや、旦那様のようにお優しいかたがご主人様なら、もうそれだけで、私たちにとって最高に幸せなのです」

「ソフィ……ありがとな」


 うん。ヒロ様は可愛らしい――これはノーム族においても共通認識のようですね。

 やはりヒロ様は、世界のアイドルに降臨されるべきお方です。

 そんな彼に、力いっぱいぎゅっと抱きしめられるソフィ。も、ものすごい嫉妬がわきあがってまいりましたわ……


「あぁ、なんと羨ましい……

 あの美しく柔らかそうなもふもふを、ここまで好きに出来るなんて」


 会長がそっと呟きましたが、こちらの台詞です。

 わたくしだってヒロ様に抱きしめてもらいたい。抱きしめるのも勿論良いですが!

 ソフィはその小さな両腕をしっかりヒロ様の背中に回しながら、そっと囁きました。


「ヒロ様……

 私、ヒロ様が傷ついてしまうほうが、よほど命が縮んでしまいます。

 これからは何でも仰ってくださいね」

「うん……分かったよ」

「大丈夫。ちょっと毛をむしるぐらい、何でもありませんよ。

 たかが数千本、またすぐに生えてきますから!」

「えっ? 

 す、数千?」

「いやいやいやちょっと待ってくれ! さすがにその単位は駄目だぁ!!」


 真っ青になった会長が慌てて割って入り。

 その場は騒然としてしまいました。



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