第30話 触手令嬢、屋敷に戻る
そんなわけで数刻後。
わたくしたちはロッソ会長とサクヤさんも一緒に、ヒロ様のお屋敷へと戻ってまいりました。
魔界に寄せられたお屋敷の風情にも、会長は一切動じることはありません。ヒロ様に案内されながら、面白そうにデビルカズラの壁や真っ赤な噴水を眺めております。
「会長……この屋敷、平気なのか?
初めてここに来る奴って、だいたい最初は一瞬引くんだけど。
ルウみたいな魔物以外は」
「そうだったね、ヒロ君。
私も最初はびっくりしちゃったし」
ヒロ様とサクヤさんが顔を見合わせます。
え。ということはヒロ様、サクヤさんを一度はお屋敷に招待したことがあるということ……!?
「あぁ、そうだ。中等部に入ったばっかりの時、仲良くなった友達を招待したことがあってさ。
屋敷見るなり、魔物以外の奴らは全員固まったけど。
サクヤはそれでもちゃんと、じいちゃんたちに挨拶してくれたよな」
「そうだね。あの時と変わらないね、このお屋敷」
言いながらサクヤさんは、少し寂しそうにお屋敷を眺めました。
ヒロ様は何も言いませんが、恐らくその中にはレズンもいたのでしょう。
何も変わらないお屋敷に対して、ほんの数カ月で変わってしまった自分たち。
人が変わってしまうスピードとは酷なものです。
しかし、そんな二人をよそに。
会長はどこか楽しそうにお庭を眺めながら、鬼魔百合の香りを愉しんでいます。
「ま、僕のことは気にしないでくれ。
この屋敷はしょっちゅう観察してたからね」
あぁ。ソフィを観察していたのなら、必然的にこのお屋敷も見ることになりますしね。
「それに、この雰囲気は好きなんだ。どこか懐かしい感じがして。
僕の血筋から考えれば、当然のことかも知れない」
「血筋?」
「あれ、忘れてたかい? 一応、会長に立候補した時に宣言したんだけどね。
僕、一応魔物とのクォーターなんだよ。
母方の祖母が、ちょっとばかり名の知れた魔物でね」
「そ、そうだったんだ……
ごめん。全然知らなくて」
ヒロ様は申し訳なさそうに小さくなりますが……
それにしても、ちょっと気になります。
魔物といっても、触手族やノーム族、スクレットのような不死族などと種類は様々。
一体、会長の眷属とはどのような。ずっと両耳を覆い隠しているあの布に秘密があるのでしょうか。
「はは、気にすることないよ。
僕が公にしているのは、自分が魔物の血を引いているということだけだ。それ以上の情報は何も伝えていないしね。
そもそも今じゃ学内でも、魔物の血を引いている生徒なんてそう珍しくない」
「でも――」
ヒロ様がさらに何か聞きたそうに顔を上げましたが、その時。
「ヒロ様、ルウラリア様、お帰りなさいまし!
お怪我をされたと学園から連絡がありましたから、心配していたんですよ!!」
正面の扉を開いて飛び出してきたのは勿論、もふもふのメイド姿のソフィでした。
ぴょこんと一瞬飛び跳ねたかと思うと、ころころ転がるように一直線にヒロ様へ突進していきます。
まともにぶつかったら意外に痛いノーム族の体当たりですが、それでもヒロ様はそんなソフィをしっかり抱き止めました。
「あぁ、良かった! 本当に良かった!!
もう! 今度はどこで何をなさっていたのです!?
何度も申し上げているじゃありませんか。ヒロ様に何かあったらと思うと、私……私……!!」
あぁ。この様子は、学校側からはほぼ何も伝えられていないようですね。
心なしかその栗毛は、若干逆立っています。
両の黒目からぽろぽろ涙を流すソフィを抱きしめながら、ヒロ様は少し肩を落とし――
それでも、しゃんと顔を上げました。
これは何かを決意したような、男性の横顔。たまりません。
「ソフィ。俺……
みんなにずっと、黙ってたことがあるんだ。
迷惑かけたくなくて、意地張って、言えなくて。
でも――ちゃんと言うよ。俺、決めたから。
もう誰も、俺の周りで傷つけさせないって!」
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