第24話
強い風が吹く。
麦わら帽子が宙で揺れる。
「集団戦? そんなまどろっこしいの、頭を潰せば一瞬で、霞のように、消えますよ」
サンダル姿の片足で、黒の大群に足をつける。
「何でもかんでも数で押し流そうとする。そういう誰かの痛みに耳を傾けないやり方、私は嫌いです」
女神の蹴りは、人影を払い、変わり者の少女に届く――。
「パンツまる出しで説教されても、ありがたみに欠けるわね」
――かのように思われた。
「厄介な」
しかし、
幾重にも重なった黒い影たちが、くもの巣のように広がり、衝撃を分散させる。
ネットに深く沈みこんだ
態勢を整え直さざるを得ない状況に押し戻される。
「ねえねえ、ワタシ、あなたのこともずっと見てたわよ」
黒い影たちが、網状の姿から、再び群衆に戻っていた。
「気軽に話し掛けないでもらえますか、こう見えても私、女神なので」
「アナタが神様。フフフ、そんなわけないじゃない。だって、アナタだって、ワタシ達と似たようなものでしょう」
大量のゾンビたちは、重なり、連なり、円弧のように
「は? いささか、ポジティブすぎでは? 私がお前達と同じだと?」
それは、女神にとっての、逆鱗だった。
――――《いのれ》。
たった一言で、空間が曲がる。
大気が鉛のように、重さを持ちだす。
小生物の集まりであるゾンビ達は、
「これが、
女神から放たれる圧倒的強者のオーラ。
「そんな卑怯者なんか、
僕は、
「ちょっとピーキーすきない? とってもウケるんだけど」
けれども、黒い学生服姿の彼女は立ったまま。
重圧の前でも、潰れず、ヘラヘラと
「………」
無表情のまま相手を見据える女神。
口角を耳まで釣り上げるも、目だけは笑っていない女子高生。
「死が睨みあっている、みたいだ」
あまりの威圧感で、もし、願いが叶うなら、この場を立ち去りたい。
そう思わせるほどに、二人の少女の立ち合いに心臓を収縮させられる。
胸の奥底の恐怖が、グツグツと沸き上がらされる。
「あなたが私にどう親近感を得ようが、それはあなたの勝手です。が、あなたほどに私をイラつかせる人間も珍しい」
フフフと笑う変わり者の彼女に、褒めてないですよ、と
「ねえねえ、どうして。どうして、あなたは急に軽くなったり、重くなったりするの」
「は? それ、答える必要ありますか」
黒制服の彼女は
「さっきの攻撃、ワタシの見た感じだと、地面を踏み出したのと同時に体重をゼロにして、異常な速さを引き出したってところ?」
「………」
「インパクトの瞬間は、逆に身体を重くして、衝突のときのモーメンタムを著しく向上させてる」
「………」
「自分の重さを都合勝手に操作することで、この世の保存則を悪用しているんでしょう?」
「………」
「昨日の夜だって、湖の上を、密度をいじって歩いていたし。何より、その身に宿した、その身の丈以上の身体能力」
「………………」
「その人の皮を被った異形の力――――」
まるで、ワタシ達、変わり者みたいじゃない。
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