第23話
「ああ、どうしよう、はやく、早く、レイさんの腕をなんとかしないと。そうだ、まずは血を止めないと」
攻勢を緩めるバケモノたちの隙を見て、
「うっ、ううっ、うう」
僕は痛みにうなされていた。
「どうして、こんなひどいことに」
「
「今は話さないで! 今度こそ、死んでしまったら次はないんですよ!」
「˝あぁっ」
激しい痛みで肺がショートしかける。
喉がつぶれそうになる。
「………マイと、クラックを、連れて、逃げ、て」
「もう! こんな時まで自分のことを二の次に! じゃあ、誰があなたを守るんですか!」
敵の姿を睨みながら、瓦礫の山と化したログハウスの入り口付近まで、ひとっとびで後退し、一旦、距離をとった。
「おい、おまえら。ちゃんと働けよ」
うずくまっていた黒い少女が、どすりと片足を前に出す。
『ギィィ』
大地に舐めまわしていたゾンビたちが、びくりと顔を上げる。
変わり者の少女がゆっくりと、腰を上げて、立ち上がった。
『ググググゥゥ』
ゾンビの集団も主人である女学生につられる形で、虚ろに立ち、再び僕と
「フフフ、ワタシに従えば、アナタたちも仲間に入れてあげるわよ」
僕と
「言葉とは裏腹に、私たちを袋叩きにしようとしているようですが」
すでにゾンビたちの戦闘配置は済んでいた。
「あーあ、可哀想に」
変わり者の少女は血まみれの僕と、僕を守ろうと敵と睨み合う、白い服を着たIを見て、同情の言葉を漏らした。
「ねぇ、自分より優れた人間を、簡単に倒す方法がある、って言ったら、知りたかったりする?」
このままだと、しんどいでしょう? と黒い少女が言う。
「いささか唐突ですね。何を言い出すかと思えば」
「誰にでもいるわよね。敵わない権力者、意地悪ばかりしてくる教師。そんな格上の人たちを自分の手を汚さずにボコボコにできる方法、アナタも知りたいでしょう?」
「さっきから口を開けば、自分の話したいことばっかり。あなた、コミュニケーション初心者ですか?」
少女の長い前髪が怪しく浮き上がる。
「気に食わない。アナタ、自分の状況、分かってるの?」
「きっもいストーカーたちに取り囲まれてます」
「そうよね、そうよね。絶体絶命ってヤツよね」
「はぁ。まあ、確かに、あなたは私を狂おしいほど怒らせていますけど。それを自分で言っちゃうって。もしかして、どマゾ変態さん?」
「フフフ、数こそが圧倒的正義。どんな強者も、物量には敵わない。突出した才能だって、みんなで潰せば怖くないでしょう?」
「クールな真っ黒セーラー服を着てる割には、随分と偏った思想なんですね」
「出る杭は打たれるの。そう! ワタシみたいに!」
「知りませんよ、あなたが天才かどうかなんて」
「アナタも分かるわ。話したこともない人が、いつの間にか自分のことを勝手に、一方的に嫌っている怖さが」
「ええ、もう十分、同じ言語を話しているのに、言葉が通じない恐怖を理解しました」
「絶望した? 心が折れた? 逃げ出したくなった? 生きていても楽しいことなんて無いって、心の底から思えたかしら?」
「いちいち、会話が成り立たない。来世では国語の授業をマジメに受けてくださいね」
「嫌よ。ワタシ、学校におトモダチ、いないのだもの」
白いワンピースに大きな麦わら帽子を被った女神。
VS 黒い制服を規則正しく着こなす女学生の変わり者。
白と黒。
純真と邪悪。
二人の華も羨むような少女たちが放つ、過激なプレッシャーに、僕の心は戦々恐々とし、ただ時間が過ぎるのを祈っていた。
決着の時が過ぎるのを待った。
空気が止まる。
「いきなさい」
少女の命令を受けてゾンビの大群が一斉に押し寄せる。
そして同時に僕の横から
「あなた、謝るタイミング、完全に逃がしましたよ」
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