第12話
「ほら、着いたぞ」
湖の上でクラックに拾われた僕らは、赤い戦闘機に乗せてもらい、
「ここが、《ラッキーセブン》。女神のお店」
高層ビルの間。三階建ての古びた四角い建物が、彼女とクラックが生活する住居兼お店なのだという。
「ナナ、帰ったぞ!」
クラックが
僕と
「クラック、いつも言ってるでしょ。飛行機はお店の裏に停めてって。 夜中はご近所さんの迷惑になるから、声を抑えてって、て、あれ? もしかして――?」
レジ台の鼻筋がすっきりとした女性が僕らを見る。
「ええ、私です……」
「やっぱり
店のカウンターから飛び出し、
「うええ、苦しい」
「
「あなたに絞められる前までは、大変元気でした」
「もう! 照れるな照れるな!」
「顔でゴリゴリするのやめて」
女神の
「ねえねえ、
後ろで一つにくくった
その勢いで、ふわりと広がった髪の束がぺちっと
「ぎゃあ」
「あら、
「ナナ、誰のせいだと思って」
その女神の名前は、《ナナ》と言うらしかった。
「なんだ。お前ら知り合いかぁ。ならちょうどいいや。俺はこいつを店の裏に戻すついでに、もう一飛びしてくるから、あとはお前らで好きにやんなぁ」
うちのソフトクリーム抜群にうめぇから、良かったら食っていくといい、そう言い残して、クラックは夜空の果てに消えていった。
僕は二人の女神、ナナと
「で、このカワイイ坊やがⅠちゃんのお気に入りってわけ」
地面に倒れた
柔らかさと、華やかさと、スッキリとした柑橘系の香りが僕を満たす。
肩に手を回された僕は、彼女がスレンダーなこともあり、背中から伝わる彼女の鼓動と熱に、年頃の男の子らしく、ドキドキしてしまう。
「こら! ナナ、私のレイさんに手をださないで! ていうか、レイさんも、デレデレしないで!」
「あらら、
二人の女神が火花をちらす。
「そんなにこの子が好きなら、あなたも大人になったらいいのに」
「キー! 私は十分、大人じゃい!」
「じゃあなんで、ずっとロリっ娘のままなのよ」
「あららー、この完璧な御神体がナナには分からないんですかぁー? 女神に必要なのは、心を開きたいと思える親しみ易さ。だから、あなたはおじさんにしか人気が出なくて、すぐに持ち場を取り上げられるんですよー」
「はー? 私だって超人気なんですけど。女性受けは確かに悪かったけれど、私の妖艶さは全世代的に支持を集めていましたー、だ」
「
「せめて、神様って呼んでよ!」
「あなたのような年増は、文化・宗派によって好みが別れるんですよ! だから、みんな程々に自重しているというのに。この天界の面汚し!」
「ひっどーい! ねえねえ、いまのは流石に辛辣過ぎない? これが私の望む姿なのだから、しょうがないでしょうが!」
「ギャーギャーギャー」
「ブゥーブゥーブゥー」
ナナの艶やかにくちびるから漏れる吐息は僕の頬をかすめ、巻き付いた四肢はどこもモチモチしていて、思春期を抜け出したとは言え、健康優良男児である僕の自意識を過熱させる。
「マ、マイ」
僕は姉と過ごした黄金のように輝く日々を回想することにより、賢者の悟りの領域への入門を試みる。
ただの人間の僕は、この神々しくてくだらない、神々の戯れに、成す術なく、口をはさむ暇もなく、見事、翻弄される他なかったのだった。
「女神様、さすがに近すぎます」
「レイさん、こんな奴に敬語なんて、善意の無駄撃ちですよ」
「そうそう、私のことは気軽に呼び捨てで呼んで。みんなもそう言ってるし」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
僕は女神に懇願した。
「暑苦しいから離れて」
「えっ」
「あははは、ナナのやつ、言われてやんの」
それに連れられてナナもカラカラと笑い、僕の背中から離れてくれた。
「自己紹介が遅れたわね。私の名前はナナ。この世界の女神兼雑貨屋の店主をやっているの」
「僕の名前は令条レイ。そして、こっちが姉のマイです」
僕は片手でマイを指す。マイはいまも
ナナは彼女に歩み寄り、長いまつげでその美しい花束を眺めた。
「あなたたちも大変だったみたいね」
ナナはくるりと回り、長いスカートをたなびかせる。
布の隙間から白い太ももがちらりと見える。
「いいでしょう。
ナナはレジ台の上に三角座りする。
髪の隙間から見える小さな耳が魅惑的。
彼女もまた、クラックと同じく、大人の色香をまとわせていた。
「では、まずは――」
「――を貸して」
「え」
「シャワーを貸してください」
もう全身ベタベタで不快極まりないんです!
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